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2016年1月1日金曜日

I  Love スヌーピー

(The Peanuts Movie)

 チャールズ・M・シュルツ原作のコミック『ピーナッツ』が3DCGで劇場用長編アニメーション化されました。劇場版としては、実に三五年ぶりとな。
 個人的には『ピーナッツ』と呼ぶよりも『スヌーピーとチャーリー・ブラウン』の題名の方が馴染み深いです。本作の邦題もそのようにして戴きたかったです。そもそも主役はスヌーピーではなくて、チャーリー・ブラウンの方ですし。まぁ、キャラクターの人気としてはスヌーピーの方が上でしょうけどね。
 「ネコならキティちゃん、イヌならスヌーピー」と云うのは、キャラクター・グッズの定番でありましょう(古いかしら)。

 都合により、字幕版の方を鑑賞しました。日本語吹替版も上映されていましたが(そちらの方が上映回数が多かったけど)、私は字幕版です。
 実は、谷啓ボイスでないチャーリー・ブラウンには違和感を感じてしまう年代でして。ぼくかりんとう。
 同様に、ルーシーもうつみ宮土理でなければイカンでしょう。
 実は原作のコミックは通して読んだことが無く、アニメ化された方しかよく知らないのですが。

 だからチャーリー・ブラウンと云えば、谷啓。それから、なべおさみのチャーリー・ブラウンと云うのもあったか。他にも野沢雅子、塩屋翼、杉山佳寿子のチャーリー・ブラウンもあるそうな。下條アトムもか。
 実は結構、色々な方がチャーリー・ブラウンを演じておるのですね。
 近年でもTVアニメ版が制作されていたそうで、『クレヨンしんちゃん』の矢島晶子がチャーリー・ブラウンを演じておりました(ソレはちょっと観てみたかった)。

 最も新しいチャーリー・ブラウンの吹替は本作になるようです。次世代のチャーリーは……鈴木福くん。うーむ。ちょっと可愛すぎないか。
 チャーリーに限らず、本作におけるメインの配役は子役の皆さんです。でも、谷花音のルーシーとか、小林星蘭のサリーと云われましてもピンと来ませんデス。芦田愛菜ちゃんも「赤毛の少女」役で配役されております。
 オリジナルの配役もほとんど子役のようなので、きっとそれが正しいのでしょうが。

 しかし『ピーナッツ』と云えば、子供達が主人公なのに、やたらとシニカルな台詞や、蘊蓄に富んだ人生哲学的な台詞が飛び出すのが特徴であったと記憶しておるのですが、子役の皆さんはちゃんと舌噛まずに吹替出来ているのかな。
 本作の劇中でも「女の子は成功した男が好きなのよ」とか「お兄ちゃんの名声で今のうちに稼げるだけ稼ぐわ」とか、お子様らしからぬ台詞がポンポン飛び出しておるのですが。
 日本語吹替版は予告編だけ目にしておりましたが、あまり違和感を感じなかったので大丈夫か。割と鈴木福くんは頑張っているように見受けられましたし。

 本作の監督はスティーヴ・マーティノです。『アイス・エイジ4/パイレーツ大冒険』(2012年)の監督さん……と云われましても、そもそも『アイス・エイジ』シリーズに四作目があったことを存じませんでしたので──日本ではビデオ・スルーだったようで──未見デス。他には、『ホートン/ふしぎな世界のダレダーレ』(2008年)をジミー・ヘイワードと共同で監督したそうですが、これも未見。
 よく考えると、ブルースカイ・スタジオ制作の長編アニメは、『アイス・エイジ』(2002年)、『ロボッツ』(2005年)、『ブルー/はじめての空へ』(2011年)くらいしか馴染みがなかったのでした。すんません。

 それらの作品と同様に、本作も配給は二〇世紀フォックスです。ブルースカイ・スタジオはフォックスに所有されているので──ディズニーがピクサーを所有しているようなものか──、本作の始まりには例によって二〇世紀フォックスのロゴが表示され、いつものファンファーレが鳴り響きます。
 でもファンファーレのメロディが、シュローダーの弾く玩具のピアノ演奏であるのが笑えました(初っ端からギャグかましてくれます)。

 しかし今までのブルースカイ・スタジオ制作CGアニメ作品と比べても、本作はまた一風変わったテイストの作品です。
 まぁ、原作の絵柄からしてデフォルメされたキャラクターですし、それをリアルな3DCGで制作しても違和感があるだけでしょう。
 ホントは日本式に2Dでアニメ化するのが最善なのではないかと思うのですが──最新のTVシリーズ版の方はそのようで──、米国では劇場用長編アニメを3DCGにしないと何か差し障りでもあるかのようです。
 なので、3DCGにしては驚くほど平面的な表現でした。

 平面的な絵を3DCGにするので、ビミョーにキャラクターに厚みが感じられます。まるで厚手の布地か何かを切り貼りしてキャラを造り、ストップモーション・アニメで制作しているかのような錯覚に陥りました。それにしてはなめらかに動くのですが。
 立体的と云えば立体的ですが、リアルな立体では無く、絵本感覚的な立体感でした。これはこれで独特な表現に思えます。原作のイメージを壊さないように、でも3DCGらしさも追求しようという苦肉の策でしょうか。
 特にアップになったスヌーピーの毛並みのモフモフ感が見事でした。本当にそのような質感の布を切り抜いてスヌーピーを作っているかのようです。

 可能な限り2Dっぽく作画するスタイルなので、いつもの「犬小屋の上に横たわるスヌーピーの図」も決して回り込んで映したりはしません。犬小屋は常に真横から平たく描写されるのみです。
 また雲や雪といった自然の表現も、デフォルメされた「かたまり」として描かれています。
 しかもところどころで、登場人物が何かを思い浮かべる場面があり、その場合だけは想像上の描写が原作どおりのモノクロ2Dで描画されたタッチになっていると云う凝りようです。
 結構、スティーヴ・マーティノ監督のコダワリ演出が感じられますね。

 背景の描写も、原作者の出身地であるミネソタ州の街をモデルにしているそうな。原作の絵だと背景は必要最小限ですが、本作では地域をきちんと特定して描かれます。
 冒頭の、冬の凍った池の上で子供達がアイスホッケーに興じる場面が印象的でした。
 本作は冬に始まり、春になり、学期末を迎えて夏休みが到来するところで終わるという趣向です。背景の季節の移り変わりが丁寧に描かれています。

 本作は尺にして八八分という、短めな作品です。基本的に短いエピソードを積み重ね、ショート・ストーリーをつないでいく形式なので、あまり長くも出来ませんかね。
 ある日、クラスに転校してきた赤毛の美少女──最後まで「赤毛の女の子」と呼ばれて本名は不明のまま──に一目惚れしたチャーリー・ブラウンが、あの手この手で自分をアピールし、ハートを掴もうとしては失敗する……と云うのが本筋。
 これとまったく関係なく、スヌーピーが犬小屋の上で執筆する長編ロマン小説のストーリーが、スヌーピーの妄想という形で炸裂します。第一次世界大戦当時の戦闘機乗りであるスヌーピーが、ドイツの撃墜王リヒトホーフェン男爵──通称、レッドバロン──に戦いを挑むと云うストーリー。
 チャーリー・ブラウンのエピソードと、スヌーピーのエピソードが交互に語られていきます。

 「赤毛の少女」や「レッドバロンとの対決」の他にも、「失敗続きの凧揚げ」や「ルーシーのお悩み相談室」等の原作エピソードを組み合わせながら、ストーリーは進行していきます。
 しかし季節的には夏の手前でエンドですので、ハロウィンのエピソードはありません。なんたることだ。本作には「ぼくかりんとう」は無いのです! 続編では是非。
 また、妄想の中で掠われたヒロインを救い出すべく、欧州の空で戦い続けるスヌーピーのエピソードは、全部カットしても本筋にはまったく影響ないでしょう。これだけはチャーリー・ブラウンの全く与り知らないところで進行するエピソードですから(見守っているのはウッドストックのみ)。

 かろうじて現実と虚構をつないでいるのが、レッドバロンの複葉機(の模型)でして、序盤でクラスメイトが学校に持ち込んだ複葉機の模型が、アクシデントから教室を飛び出し、以来ずっと御近所を飛び回り続けております。驚くべき航続距離です。
 これを見たスヌーピーが小説の着想を得るわけですが、執筆中もずっと周囲を飛び続けていると云うギャグです。オチはエンドクレジットのあとまでお預けね。

 結構、スヌーピーは執筆に忙しく、また妄想を炸裂させているので、あまりチャーリー・ブラウンの助けにはなってくれません。一応、飼い主の悩みに何回か助け船を出してはくれますが、付きっきりというわけでは無い。
 このあたりが『ドラえもん』と違うところでしょうか。のび太くんとチャーリー・ブラウンは何をやっても失敗続きの冴えない男子と云う点では似ていますが──のび太くんのように「あんたには無理なのよ。だってチャーリー・ブラウンなんだから!」などと云われながらも──、可能な限り自力で困難を解決しようとしております。

 学芸会でマジックを披露しようと練習しますが、妹サリーのステージを手伝った所為で見せ場を奪われてしまう。
 ダンスパーティでアピールしようと必死にステップを特訓したのに、アクシデントからパーティ自体が中止になってしまう。
 読書感想文の課題に、トルストイの『戦争と平和』を選び、艱難辛苦の末に読了して大作レポートをものにしたのに、提出前にすべて失われてしまう。

 あまりの不運の連続に「追えば追うほど彼女が遠くなる」と嘆くチャーリー。
 そこへ降って湧いたのが、テストで満点を取ってしまうと云う奇跡。あのチャーリー・ブラウンが首席に! 一躍、時の人となり、クラスメイトから称賛されるヒーローとなるが、表彰式典の当日に答案用紙の取り違えが発覚する。
 正直に自分の答案では無かったことを告白し、また元の冴えない男子に逆戻り。
 答案用紙の本来の持ち主がパティで、デタラメにマークシートを記入したら全問正解だったというミラクルに対しては誰もツッコミ入れないようデス。

 しかし自分ではダメダメだと思っていても、決して天に見放されているワケでは無かったと云うのがいいですね。「赤毛の少女」はちゃんと自分のことを見ていてくれ、きちんと評価してくれていたと云うハッピーエンド。
 まぁ、原作コミックによると、この先もチャーリー・ブラウンの恋路は紆余曲折あるそうですが、本作はここまで。
 仲間達から祝福され、担ぎ上げられるところで場面がストップし、原作者シュルツ氏の署名が画面の隅に書き込まれます。

 そのままエンドクレジットに突入し、モノクロで描画されるキャラクターが思い思いのスタイルでダンスするのがイイ感じなのですが……。
 字幕版でもやっぱり日本オリジナルの主題歌──絢香の「A Song For You」──が挿入されるとは。悪い歌では無いと思いますが、こういう手法はあまり好きではありませんデス。

 ちなみに本作はゴールデングローブ賞(2016年・第73回)のアニメ部門にノミネートされているそうですが、受賞できるでしょうか。ピクサーの『インサイド・ヘッド』や『アーロと少年』、アードマンの『ひつじのショーン/バック・トゥ・ザ・ホーム』とかもノミネートされていますからねえ。強敵揃いですわ。




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