そして見事に騙された。
完全な予告編詐欺でしたねえ。近年、ここまで見事に肩透かしを食らわせてくれたSF映画はありませんデス。個人的には『フォーガットン』(2004年)や『ハプニング』(2008年)を越えました。本作が『第9地区』(2009年)や『クロニクル』(2012年)を凌ぐだなんて宣伝文句は持ち上げすぎでしょう。
映像的なセンスのある監督であるのは判ります。音楽的にも本作のサントラは割と聴きものであると申し上げてよろしいでしょう。
個人的には、ニマ・ファクララなるイラン出身の作曲家の環境音楽的な劇伴は嫌いじゃないです。でも、このニマ・ファクララさんは、あの『ガッチャマン』(2013年)の音楽も担当していたのか。作曲家は作品を選べないのかと思うと、ちょっと同情してしまいます。
チープな低予算の、ユルユルな演出の、B級SF映画であったなら、笑って許せるものを(逆に高い評価を与えてしまうかも)。なまじセンスのある演出に、凝った映像を披露してくれただけに、この衝撃は強烈でした。
映像センスのある監督が自分で書いた脚本は、往々にしてストーリーよりもビジュアルを重視する傾向にありますが、本作もそう。印象的な場面を作り出すことに精魂傾け、その映像さえ出来上がれば良しとしてしまうようです。
きっとユーバンク監督は自分では大満足していることでしょう。そうでなければ、あんなラストシーンで終わらせられる筈がない。エンドクレジットが流れ始めた瞬間、私はユーバンク監督が確信犯であることを確信しました。
イマドキそんなオチは無かろう。これも若さ故の過ちなのか。年寄りのSF者としては「もっとSFを読んで勉強し直して来い」と云いたいデス。ラストシーンに監督のドヤ顔が透けて見える気がしました。
上映終了後、劇場から出て行く人の半分は狐につままれたような表情をしておりました。残りの半分は「失敗した」「騙された」「金と時間を返せ」と考えておられるような、沈黙の内にも怒りをたぎらせている表情でありました(私は後者デス)。
謎が謎を呼ぶ展開なのはよろしいが、投げっ放しで終わってはイカンと誰かユーバンク監督に意見できなかったものか。あのオチでは判るものも判らなくなってしまいます。
途中経過のサスペンスフルな演出は水準以上なのに……。
場面毎の整合性は取れているが、作品全体としての整合性は考慮されておりません。少なくとも積極的に説明する姿勢では無い。
だからあとになって思い返すと、辻褄の合わないことだらけと云うか、ツッコミ処満載と云うか、意味不明な事象が多すぎて、いかに愛を持ってフォローしようとしてもフォロー仕切れないことでしょう。
合理的な解釈は行わず、不条理な展開をそのまま受け止め「不思議な映画だったなあ」とスルーできる心の広さが求められています(私には出来ん)。
最初から懐疑的な気持ちで鑑賞していれば、ここまで失望することも無かったでしょう。その意味では過剰な期待を抱いたこちら側にも責任の一端はあるのかも。
本作に出演している俳優にはほとんど馴染みがありません。主役になる三人の学生を、ブレントン・スウェイツ、オリヴィア・クック、ボー・ナップが演じております。この中でブレストン・スウェイツだけは、『マレフィセント』(2014年)のフィリップ王子役として観たことありましたね(あまり出番は多くなかったけど)。
有名俳優としては、ローレンス・フィッシュバーンが共演しております。三人の学生を拘束する、得体の知れない研修施設の指揮を執る科学者です。
総じて、俳優の演技には文句はありません。若手俳優の三人も頑張っておられるし、ローレンス・フィッシュバーンも貫禄充分。
序盤は青春映画のように進行していきます。三人の男女が一台の車でカリフォルニアを目指す大陸横断ロードムービーな展開です。
顔触れは、ニック(ブレントン・スウェイツ)とジョナス(ボー・ナップ)のコンビに、ニックの恋人ヘイリー(オリヴィア・クック)と云う組み合わせ。ニックもジョナスもマサチューセッツ工科大学の学生であり、相当なコンピュータ・オタクであるらしい。そしてこの旅行は、ヘイリーが西海岸に引っ越すことになったので、そこまで送り届ける為であると明かされる。
しかし足の不自由な身であるニックは、自分が恋人の負担になることに悩み、この旅の間にヘイリーとの別れ話を持ち出そうと考えていたのだ。
このあたりまではSF要素皆無の青春映画ですね。
SFぽくなるのは、その旅の途中で〈ノーマッド〉なるハッカーがちょっかいを出してくるあたりから。若干、説明的な台詞が多くなりますが、かつて大学のコンピュータに不正アクセスを繰り返した謎のハッカーが、自分達のノートPCに挑発的なメッセージを送りつけてくる。
今度こそ〈ノーマッド〉の正体を突き止めてやろうとアクセスを逆に辿ると、発信元はネバダ州某所であると判明する。カリフォルニアに向かって旅をしている自分達にとっては好都合。
ちょいと寄り道して〈ノーマッド〉の正体を暴いてやろうと、荒野の中の一軒家に忍び込んだところで、三人は異変に遭遇する。
この序盤の展開は、青春ロードムービーな雰囲気もいいし、そこからサスペンス展開へも無理なく進行するので、かなりいい調子です。一軒家に忍び込むところも、スマホのカメラで撮ったPOV式の映像で、ドコカデミタような演出ですが、スリラー演出としてはよく出来てます。
遭遇した異変も、ブレたカメラの映像でよく判らないし、はっきり見せないのは正しい。然り気ないCG合成で人体が空中に浮かんだような、投げ飛ばされたような一瞬の映像で暗転。
そしてニックは得体の知れない施設の中で目を覚ます。
医療施設のようだが普通の病院ではない。何故か職員達は全員が防護服を着ていて、自分はベッドに拘束されている。
そこで登場するデイモン(ローレンス・フィッシュバーン)と名乗る男から、幾つもの不条理な質問やワケの判らないテストを受けさせられる。一体、自分の身に何が起きたのか。
「地球外生命体に接触し、汚染されている可能性がある」というデイモンの言葉は真実なのか。
この風呂敷を広げていく前半部分にはまったく問題はありません。むしろかなりいい出来であると云って差し支えないでしょう。問題は、ユーバンク監督にはこの広げた風呂敷を畳むつもりが毛頭無かった点ですね。
謎が謎を呼ぶ展開が見事なだけに、そのあとが残念極まりないのですが。
そして、一緒に収容されたはずの恋人ヘイリーや、親友ジョナスの身に何が起きたのかを探りつつ、施設を脱出しようとするニックの悪戦苦闘が始まります。
謎のハッカー〈ノーマッド〉は、実は人類では無かったかも知れないとか、自分達はまんまとおびき寄せられたらしいとか、身体にプリントされた「2・3・5・41」という謎のコードとか、色々とミステリアスな要素が散りばめられていきます。
他にも、「血まみれの部屋を洗浄している防護服の男達」とか、「増水した川で橋が流された風景を夢に見る」とか、気になるビジュアルは沢山あるのですが……。
多分、ユーバンク監督の中では各々の映像には理由も理屈もあるのでしょうが、それが伝わってくるとは云い難いです。
そして遂に自分の身体に異変が生じていることも判明する。序盤から足が不自由であることが強調され、施設に収容されてからは常に拘束されて車イス状態だったので気付くのが遅れましたが、実はニックの両脚は人間ではないナニカに置き換えられていたのだ。
ここは低予算ながらもデザインのセンスが光る衝撃的な場面ですね。奇妙に幾何学的な形状でビジュアル的には文句なし。
ストーリーの後半は、恋人ヘイリーを見つけて二人で施設から脱走する逃避行となります。
何とか外界へ逃げ出すものの、人口のまばらな地域であるらしく、あまり人とは出会わない。おまけにちょっと頭のおかしな人もいて、状況が改善されたとは云い難い。公衆電話は何故かどれも故障中。
途中で、二人は独力で脱走していたジョナスとも再会するが、ジョナスはニックと同様に両腕が人間ではないナニカに置き換えられていた。
更に、ジョナスは謎のコード「2・3・5・41」は、全部足せば合計が「51」であることを指摘する。あの施設こそ、政府の秘密施設〈エリア51〉だったのではないか……。
部下と共に追跡してくるローレンス・フィッシュバーンが、主人公達と接触した人々を片っ端から抹殺していくとか、得体の知れないナニカになってしまった腕や脚には、実は凄いパワーが秘められていたとか、興味深い映像はテンコ盛りなのに、ラストですべてをひっくり返してくれます。
逃避行の末、ニックは「世界の果て」に行き着いてしまう。実はすべては閉ざされた世界の中の出来事であり、いつのまにやら自分達は異星人にアブダクションされていたのだった……と云うオチ。なにそれ。
「広大な地域を丸ごとドームの中に入れて宇宙に浮かべていた」と云うビジュアルが衝撃的であるのは判りますが、それが判った段階で今までの出来事の辻褄が合わなくなっていきます。
「2+3+5+41=51」ではありますが、すべてが異星人の手になる虚構の世界だったと判った時点でエリア51説は間違いですね。ミスリードだったわけですが、代わりの答えは用意されていません。
人間の脚や腕を改造した理由もよく判りませんデス。ビジュアルは凄いが目的が不明なまま。ニックもジョナスも失敗作で、ヘイリーだけが成功例だと匂わせてはいましたが、そこは描いていないし。
主人公達と接触した人々を抹殺していくのも何故でしょう。そもそも全員がアブダクションされていたのに、殺す必要があるのか。機密保全の理由も無くなるワケですし。
だから当然、ローレンス・フィッシュバーンも異星人の手先です。役名のデイモン(DAMON)を逆さに綴るとノーマッド(NOMAD)ですけど、それではアブダクションに至るまでの仕込みが複雑すぎて、そこまでして達成しなければならない目的が判りません。
映像のインパクトだけで満足できない人には本作はお薦め致しかねますデス。
とりあえず、冒頭に伏線があったのだと思い当たります。
クレーン・ゲームで景品を巧く取ることができない少年に、主人公が操作のコツを教えてあげるファーストシーン。「クレーン・ゲーム」自体が、これから起こるアブダクションへの伏線であったのだと理解出来るのですが、それが判ったから何なのだと云いたい気分デスね。
実はこのクレーンゲームの効果音は、『スターウォーズ』などを手掛けた高名なサウンドデザイナー、ベン・バートによるものだそうですが、そんなところにこだわるよりも他にすることがあったのでは。
ウィリアム・ユーバンク監督には、どうかこれ以上は自分で脚本を書こうなどとは考えず、誰かにちゃんとした脚本を書いてもらうようにお願いしたいデス(泣)。
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