新作TVシリーズのあとには劇場版も控えているそうですが、最初から劇場版だけ作ってくれれば良いのにと思わないでもないです。個人的には『パトレイバー』はOVA版やTVシリーズ版よりも、劇場版の三作品の方が好きなので(ええ、『WXIII』も気に入っておりますがナニカ)。
まあ、昔はOVA版のレーザーディスクを買いそろえもしたことですし(四半世紀も昔のことですよ)、とりあえずどんな風に実写化されているかだけでも確認しておこう。
さて、第一章は「第0話・栄光の特車二課」(約十五分)と「第1話・三代目出動せよ」(約四八分)の二本立てです。併せて六三分のプログラム。してみるとTVシリーズは一時間番組なのか。実写の特撮番組で一時間とは珍しい。
押井守監督作品と云われておりましたが、全話ではないのか(脚本は書いているらしいですが)。各話の監督として、押井守以外に、辻本貴則、湯浅弘章、田口清隆の名前が挙げられておりますが、押井守と田口清隆にしか馴染みがないデス。
今回の第0話は田口清隆が監督し、第1話は押井守が監督しておりました。
第0話 「栄光の特車二課」
本編開始前の背景説明のみに終始するエピソードです。登場するのは千葉繁。
特車二課の整備班長シバシゲオがそのまま歳を食って、実写化されて登場します。この人は本当に違和感ナシですね。元から千葉繁御本人がモデルでしたから。
それにしても千葉繁が、今や「オヤジさん」的な役を演じていることに隔世の感があります。最近じゃ、特撮番組『獣電戦隊キョウリュウジャー』で博士の役として登場しておりましたが。
格納庫に泊まり込んだシバシゲオが早朝、格納庫のシャッターを開けて歯磨きしながら現れる。殺風景な埋め立て地の風景に、頭上をジャンボ旅客機が飛んでいくと云う構図からして、ドコカデミタ感全開です。実に押井守色が強い。田口清隆監督は判って撮っていますね。
そして始まるシバシゲオのモノローグ。
この第0話は、ほぼ十五分、ずーっと千葉繁がボヤキつづけているだけのエピソードです。
そのボヤキが背景説明になっているのですが、どうにも聞いていて違和感を感じました。
この『THE NEXT GENERATION パトレイバー』は、アニメ版から時代を隔てた現代の物語であるそうな。まぁ、アニメもOVA版やらTVシリーズ版やら、ビミョーに異なる平行世界扱いなので、具体的にどれの続きであるのか不明ですが、最大公約数的な設定の続編だと云うことでしょうか。
特車二課が発足したのが九〇年代後半。最初のOVA版は一九八八年にリリースされ、「一〇年後の近未来」を謳っておりましたので、一九九八年か。主役メカのイングラムも「九八式AV」でしたからね。
既に現実がとっくの昔に追い越しております(新宿に都庁が無かった頃のアニメですし)。
本作の時代背景は二〇一三年らしいので、アニメの十五年後。それにしてはシバシゲオの老け具合が激しいです(役者の年齢的には二五年後ですから)。
今やイングラムは旧式のポンコツであると嘆かれている。機体は改造に改造を重ねて、もはやメーカーのサポートが受けられるかどうか、それ以前にそもそも交換部品が製造されているのかすら怪しい状態。
しかも日本のロボット技術は、有人の二足歩行ロボットにこだわりすぎたおかげで世界の時流に置いて行かれたガラパゴス的な代物である、とまで語られております。世界的には遠隔操作の無人で非人型ロボットが主流なのか。
イングラムは動かす度に毎回どこかしらが壊れるほどに頼りなく、警備出動しても案山子のように立たせておくのが関の山。
いきなりそんな主役メカを全否定するようなボヤキが炸裂するところに違和感を感じます。つまり押井守はパトレイバーをカッコ良く描くつもりがないらしい。
しかしそれにしては、本作の撮影用には実物大イングラムが制作され、格納庫内に屹立して堂々と存在感を放っております。やはり合成ではないリアルなメカは迫力があります。とてもそんなポンコツには見えません。
また、特車二課のメンバーも代替わりして、今や三代目。個性的だった初代に、没個性な二代目ときて、海のものとも山のものとも付かない三代目は果たして頼りになるのかとも云われております。
更に、特車二課の初代メンバーのその後が語られ、それなりに出世している人や、落ちぶれてしまった人、犯罪者に転落してしまった人や、別の道に進んで海外で活躍している人と悲喜交々です。
先代整備班長だった榊さんもお亡くなりになったらしく、遺影が格納庫内の神棚に奉られています。死して本当に「整備の神様」になったようです。
時代が変わったのだと云うのは判りますが……。
とりあえず第0話では、台詞のみで語られますが、第1話から登場するメンバーはどう見てもアニメの初代メンバーを実写に引き写したキャラばかりです。世代交代していることを強調したいなら、まったく異なるキャラクターにした方がいいと思うのデスが。
他にも、アニメ版の続編であるなら、バビロン・プロジェクトが完了している筈なのに、特車二課は相変わらず「何も無い埋め立て地」の真ん中で陸の孤島状態だったり、どうにもチグハグな感じが否めません。
旧作を実写リメイクしてもう一度最初から描きたいのか、正統な続編としてその後の時代を描きたいのか判らないので、実に中途半端な感じがします。
初代メンバーとそっくりな三代目の面子を見て、シバシゲオが何も感じていないらしいのもヘンです。それとも実写版で言及されている初代とはアニメ版とは無関係で、本作もまた並行世界的な別の作品と云う訳なのでしょうか。
時代は移ろい、二回りも時代遅れなくせに妙にカッコいいイングラム。二一世紀なのに八〇年代的な埋め立て地の風景。一番近い中華料理屋は六〇年代安保闘争時代を彷彿とさせるアナクロさを漂わせております。
押井守の頭の中では設定の整合性が取れているのかと疑いたくなるのですが……。
シバシゲオ作詞作曲の「正しい整備員の歌」も実にアナクロ。整備員達が軍隊式の行進をしてみたり、体育会系でバンカラな整備士が副長を務めていたり、食事は大鍋に作って配給すると云うか、大勢が寄ってたかってガツガツと立ち食いする図とか、時代背景を疑いたくなるような描写が次から次へ現れます。
確信犯的にノスタルジックな描写がてんこ盛り。こういうのが楽しいと云うのは判りますが。
毎日がお祭り騒ぎで、家には帰らず格納庫に寝泊まりし、食事は大勢で食べる軍隊飯。学園祭前日のドタバタが日常となった『うる星やつら2/ビューティフルドリーマー』(1984年)の頃から変わることの無い押井守ワールド全開の描写が好きな人には堪らないでしょう。
第1話 「三代目出動せよ」
いよいよ主役メンバーの登場です。ヴェスパで走る泉野明(いずみ のあ)……じゃなくて、泉野明(いずみの あきら)の背後に飛んでいくジャンボ旅客機(これは毎回やるのかしら)。
演じている真野恵里菜がアニメ版によく似ていて違和感ないのがよろしいのですが、ここまで似せるならもう一度初代メンバーの活躍を描けば良いのにと、またしても考えてしまいます。
いちいちこんなことを考えてしまうとは、旧作を知る年寄りは観てはイカンのかしら。
泉野明の他にも、塩原佑馬、太田原勇、山崎弘道、御酒屋慎司と、いちいち初代メンバーの名前をもじったメンバーが登場しますが、見た目も中身もアニメ版のままです。よく似た人達を集めてきたものです。香貫花・クランシーに該当する女性もいて、エカテリーナ・カヌカエヴァ(愛称:カーシャ)と呼ばれております。今度の香貫花はロシア人か。
そっくりさんの極めつけは隊長の後藤田継次で、演じているのが筧利夫です。昼行灯でノラクラしているようで、実はキレ者……なのでしょうか。とりあえず第1話だけでは、トボケた掴み所のない人だと云うところまでしか判りません。
出番の無いまま永遠の待機状態を強いられている日常。たった六人しかいないメンバーでの二四時間の二直制は、プライバシーなど無いに等しく、隊員達は正義を実現するために多大な犠牲を強いられている。ここには青春も自由も人権もない。
正義の味方であるのに、平和な日常に我慢ならないと云う逆説的な状況が可笑しいです。
この辺りの状況説明は塩原佑馬役の福士誠治が、実に多弁なモノローグで解説してくれます。第0話の千葉繁のモノローグといい、本作はボヤキ混じりのトークが実に長い。
動かない状況を延々とトークだけで引っ張っていきながら、『パトレイバー』の短編アニメ『ミニパト』風のデフォルメ人形劇が展開していくのが笑えました。
実写映画ですがCGも駆使したアニメさながらのコメディ演出です。
そこへ突然の出動命令。蜂の巣を突いたような大騒ぎの末に出動態勢を整えてみれば、誤報だと判って警戒解除。
気が緩んだところに再度の出動命令。また大騒ぎ。また誤報。
同じシチュエーションが繰り返され、だんだんダラケてきたところで三度目の正直。遂に特車二課は全員出動となります(酔いつぶれた太田原を除く)。
出動までのシークエンスはさすが実写版と云うべきか、実にリアルで重厚です。実物大のリボルバーカノンも良く出来ています。川井憲次の劇伴がスタイリッシュで盛り上がります。
キャリアに乗せて現場に急行。いよいよデッキアップ。ここまではいい調子なのですが……。
到着してみれば、失恋した男が自棄になって酔っ払い、工事用レイバーに乗り込んで籠城しているだけと云う、実に小さな事件でした。まぁ、アクションシーンを期待する方がイカンですか。これはそういうドラマではないのだ。
酔っ払いに向かって、ミもフタもない後藤田隊長のネゴシエーションが笑えますが、面倒臭くなった隊長が発砲を許可して一件落着というのは如何なものか。ギャグでお茶を濁したような演出に思われてなりませんです。コメディに難癖付ける方が野暮なのか。
ついでに云うと、動かないうちは重厚なイングラムが、発砲体制を整える動作はCGなので、妙に素早くなめらかに動くのも、ちょっと違和感を感じる興醒めな演出でありました。とてもポンコツには見えません。カッコいいです。
相手になるレイバーが、実在するロボット「クラタス」であったのが驚きでしたが、こちらはリアルなだけにあまり動かせないのが残念なところでした。腕をガチャガチャ云わせるだけで一歩も動かず。籠城しているのだから仕方ないとは云え、イングラムと組み合う図も欲しかったデス(寸法に差があるから難しいか)。
とりあえずキャラクターと設定の紹介としては、それなりの出来ではありましたが、全十二話こんな調子で続いていくのでしょうか。
ED主題歌は主役の真野恵里菜が歌う「Ambitious!」です。本編とまったく関係ないようなポップで明るい歌曲であるのも……アニメ版もそうでしたね。
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