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2013年10月30日水曜日

魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語

(puella magi MADOKA MAGICA : rebellion)

 TVシリーズの総集編というか、アップグレード版の『始まりの物語』と『永遠の物語』に続く劇場版第三弾にして完全新作なのが本作『叛逆の物語』です。丸一年、間が空きましたが、待たされた甲斐があったというものデス。
 前作の人気を考慮してか、公開館の数も随分と増えました(むしろ前作の方が少なすぎたのか)。興行成績も順調なようで、リピーター続出の大ヒットであるとな。実にめでたいことです。
 リピーター狙いの来場者特典も週替わりで用意されておりますしね。とりあえず私の第一週特典「寄せ書きミニ色紙」は、まどかちゃんでした。

 しかし『まどか☆マギカ』を観るぜと気合いを入れていたら、冒頭に西尾維新の〈物語〉シリーズの忍野扇さんが劇場での鑑賞マナーを説明してくれる短編アニメが始まったので笑ってしまいました。しかもかなり簡潔なラインで描かれたイラストで、キュゥべえがおかしな具合になっておりました。
 マナーを守って、楽しい『まどマギ』。

 あまり接点の感じられないコラボですが(でもアニメの監督はどちらも新房昭之なのか)、いずれ〈物語〉シリーズも劇場版化されると云う前振りなんでしょうか。どうせなら扇さんより、ひたぎさんに鑑賞マナーを語って戴きたかったところです。
 ……と思ったら、この鑑賞マナー解説も週替わりか。どんだけリピーター狙いなのだ。
 えーと、戦場ヶ原ひたぎさんのマナー解説は第四週目からか。うーむ。これではほぼ毎週一回、観に行かねばならんではないか。こういうのはブルーレイ化されたら、映像特典に付けてもらえないのかしら。

 さて、お笑いの鑑賞マナーの諸注意が終わったら、おもむろに本編の始まりです。
 マミさん(水橋かおり)のナレーションにより、戦い続ける魔法少女の哀しい定めが語られます。前作で物語としては綺麗に完結したと思ったのに、またしても戦っております。
 まぁ、そもそも「ループする時間」ネタですし、ほむらちゃん(斎藤千和)だけ登場させるわけにも行きませんからね。
 いずこの時間線でのストーリーなのか、ここでは魔法少女がそろって戦っております。ああ、TVシリーズでもこういう場面が観たかった……と云う、観客の願望が叶ったかのようです。
 しかし若干、設定が変更されているのか、戦う相手は〈魔女〉でも〈魔獣〉でもなく、〈ナイトメア〉なる新手の敵になっている。毎度の事ながら、一部を実写映像でコラージュする劇団イヌカレーのシュールなビジュアルは素晴らしいです。

 また、劇団イヌカレーの異空間設計もそうですが、やはり劇場版としてグレードアップされた背景美術も美しいです。
 近未来のスタイリッシュかつレトロフューチャーな都会の景観から、悪夢のような演劇舞台装置的背景に至るまで、実にクールです。更に劇中で登場する小物に至るまで、デザインが考えられております。
 「バスの乗降ボタン」まで、そんなに凝らなくてもいいのにと感心してしまいました。

 凝っていると云えば、各魔法少女の変身シーンが気合い入れまくりなのは当然として、ナイトメアを退治──あるいは浄化──するプロセスが、実に少女趣味的お茶会風の演出になっているのが笑えました。明らかにコレはマミさんの趣味ですね。
 TVシリーズでは出番の少なかったマミさんでしたが、劇場版になるとどんどん出番が多くなってくるように見受けられます。素晴らしい。
 しかし、このお茶会風演出はなかなか観ている側も小っ恥ずかしい。やらされている側もタマらんでしょう。まどかは嬉々としてマミさんにつき合っていますが、ほむらちゃんはかなり辛そうです。
 それを云うなら、最初に魔法少女五人が揃い踏みして名乗りを上げるシーンもそうですね。やはりマミさんが年長だからリーダー(センター)になるのは当然として、「ピュエラ・マギ・ホーリー・クィンテット!」てのは誰の命名なのか(マミさんでしょ)。
 五人揃って名乗りを上げるのは日本アニメの様式美ですねえ(笑)。

 ビジュアル面と共に素晴らしいのが、梶浦由記による劇伴です。私がアニメのBGMで好きな作曲家と云うと、菅野よう子と梶浦由記。いや、他にも中川幸太郎とか今堀恒雄とか好きなんですけど。
 中でもバックコーラスやスキャットが多用される梶浦由記の劇伴は、私がブログを書くときのお供にすることが多いデス。
 そして梶浦由記が劇伴であると、主題歌のボーカルに Kalafina が来るのは定番ですね。本作のTVシリーズの頃からそうですし、他のアニメ作品でも梶浦由記の音楽と Kalafina の歌声はセットで付いてくる。この前は『空の境界/未来福音』(2013年)でも耳にしました。
 前作に続いて、 Kalafina がエンディングテーマ、オープニングテーマが ClariS であるのもお馴染みですね。
 本作では新たな主題歌として、オープニングで ClariS の「カラフル」、エンディングで Kalafina の「君の銀の庭」が流れます。どちらもいい歳こいたアニメ者のオヤジがカラオケで歌うにはチト無理がありますが、いい曲デスね。

 さて、設定が異なるのは、また別の時間線のストーリーなのかと思わせておいて、ナニカ違和感がある。まどかも他のメンバーも気付かないが、ほむらちゃんはこれに気付く。
 そしてこの謎を解こうと独自に動き始める。
 本作は、今までとは異なり暁美ほむらが主役になっております。まぁ、今までも実はそうでしたが、本作では正面切って堂々と主役を務めております。

 しかし「閉じた箱庭的な宇宙、改竄された記憶」と云うのが、どこかで観たようなシチュエーションですね。
 年寄りのアニメ者なら、どうしても押井守の『うる星やつら2/ビューティフル・ドリーマー』(1984年)を彷彿としてしまうのはやむを得ないでしょう。他にもサンライズのSFアニメ『ゼーガペイン』なんてのも思い起こします。
 やはり誰しも一度はやりたいシチュエーションなのでしょうか。

 まずは杏子の記憶を辿って隣の街に行こうとするが、どうしても辿り着けないというところから始まり、どうやら街全体が〈魔女の結界〉の中にあると推察するほむらちゃん。
 〈魔女〉も〈魔獣〉もいない、〈ナイトメア〉と戦う世界にいる筈なのに、あまりにも馴染み深すぎるものが現れてきて愕然とするわけですが、全ての〈魔女〉はいなくなったのではなかったのか。まどかの犠牲によって救済された筈の全ての〈魔女〉の中に、まだ取りこぼされていた者がいるのか。
 それはひょっとして仲間内の誰かがそうなのか。
 疑心暗鬼に囚われ、仲間を疑いの目で見てしまうほむらちゃんです。

 まず、一番怪しいのがマミさんのパートナーとしてマスコット化しているベベ。前作を観ていれば、どう考えてもこいつは〈お菓子の魔女〉ですよ。マミさんを頭からパクリと喰らいやがった憎むべき奴ですが、こいつを締め上げて白状させようとして、図らずもマミさんと敵対してしまうほむらちゃんです。

 TVシリーズでは「さやかvs.杏子」くらいしか描かれなかった魔法少女同士の対決ですが、ここで「マミvs.ほむら」のバトルをたっぷりと見せてくれます。
 マジカルな銃とリアルな銃による魔法少女のガンアクションと云う、異種格闘のようなシチュエーションが素晴らしいデス。こういうのが観たかった。
 加えて時間を操作しながらの超高速バトルと云うのが実にSFライク。魔法少女によるガン=カタ・アクションも素晴らしいですね。
 しかもマミさんが強い。今まで出番が少なかっただけで、五人のメンバー内で最強とまで云われております。TVシリーズで人気が出てから本作の製作が始まるまでの間に、マミさんの株が上がりまくりであるのが伺えます。
 更に「さやかvs.ほむら」のシチュエーションも描かれ、ほむらちゃんがだんだん弱くなっていくようにすら見受けられます。製作サイドで何かあったのか。時間を操作する技が最強であると云う定説を覆したくなったのでしょうか。

 色々とミステリアスな要素をバラ撒いた上で、おもむろにキュウべえによる種明かし。
 ここでやっと、今の世界が異なる時間線の上にあるわけではないと明かされる。ループも何もしておらず、実は前作から時を隔てただけの、ごくまっとうな続編であったわけですね。
 それにしても一体、どれほどの時が流れたのか。前作ラストから、ほむらちゃんはどれほど彷徨してきたのか。
 かなり寓話的な背景として描かれていますが、世界は荒廃して廃墟と砂漠ばかりになっている。生きている人間はどうやらいないらしい。相当な遠未来ですね。
 SF者としては、ほむらちゃんが光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』に登場する〈あしゅらおう〉になってしまったのかとも思われます(ビジュアルのイメージは勿論、萩尾望都のコミックス版ね)。

 時果つるまで彷徨い続け、疲れ果てたほむらちゃんが見ている夢が、この世界。実は結界を張り巡らしている〈魔女〉は自分自身だったのだ──と云うのは、何となく読めていた展開ですが、これはまだ前哨戦に過ぎない。
 そして異星人インキュベーターの企みとは、「最後の魔女」となったほむらちゃんを、時空を越えて救済しに来るであろうまどか女神様を捕らえること。
 すべての〈魔女〉を救済する〈円環の理〉を観測することで、「観測できれば干渉できる」、「干渉できれば制御できる」と論理を積み重ねていくキュウベエです。
 やっぱりコイツは好きになれん。人類を食い物にしやがって。

 しかしそうと知ってほむらちゃんが諾々とキュウベエに従うはずなど無い。どれほど一緒に時を過ごそうが、根本的なところで理解が及んでおりませんですね。
 希望から絶望への「感情の相転移」からエネルギーを引き出すシステムの更に上を行く、ほむらちゃんの業の深さがエゲツないです。
 ヤンデレも行き着くところまで行くとこうなるのか。

 これこそが人間の感情の極み、「愛」よ。

 本作はありがちな魔法少女アニメと思わせて、タイムループするSFになり、遂には寓話的な黙示録にまで変容してしまいました。まさかここまでストーリーが変容を遂げるとは驚きです。
 何もかもすべてはまどか只一人の為であると云うのが凄まじいまでの情念です。たとえまどかにどれほど怨まれようと構わない。
 何となく永井豪の『デビルマン』のラストすら彷彿といたします。

 もはや幸せになる、ならないと云う選択すらどうでもいいのか。
 愛も行きすぎると、いびつになってしまうようです。いつかやってくるであろう、神と悪魔のハルマゲドンですら、ほむらちゃんにとっては待ち望んだ至福の瞬間なのでしょうねえ。
 とりあえず、人類をナメてかかっていたインキュベーターは、今後はほむらちゃんに酷使される奴隷となったようなので、多少の溜飲は下がりましたね。すり切れてボロボロになったキュウベエが哀れでしたが、自業自得というものでしょう。

 ところで本作は来年(2014年・第86回)のアカデミー賞長編アニメーション部門に応募したと報じられておりましたが、信じられませんですね。ワケが判らないヨ。
 まあ、これは応募しただけで、候補としてノミネートされたわけではないですし、何より日本からの出品作が他にも、沖浦啓之監督の『ももへの手紙』(2012年)と、宮崎駿監督の『風立ちぬ』(2013年)があると云うあたりで、何となく予想は付くわけですが、よもや連作の最終回である本作が選考されるなんて事には……なったらスゴいなあ。

● 追記
 戦場ヶ原ひたぎさんのマナー解説が観たくてリピートしてしまいました。ひたぎさんも魔法少女になるのか(妙にテンション高いし)。
 来場者特典に今度はフィルムの切れっ端を戴きました。中身は……なんだキュウべえか(ちぇっ)。




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