ありがちな展開ですが、ヒッチコックの香りも感じました。割と丁寧に作り込まれた佳作という感じデス。
でも邦題の『シャドー・チェイサー』は意味なしです(某仮面ライダーのバイクの名前かい)。それを云えば原題の “The Cold Light of Day” も、内容を表しているとは云い難いのですが。「よくあるサスペンス」だとネーミングが難しいのね。
主演はヘンリー・カヴィル。『インモータルズ/神々の戦い』(2011年)でテセウス役だった彼ですね。若者と呼ぶにはちょっと年上の為、設定上は青年実業家になっている。
ヘンリーの父親役がブルース・ウィリス。こんな小品にも顔を出すとはちょっと意外です。
そもそも本作を観ようと思ったきっかけはブルースが出演しているからだったりします。そしてもう一人、シガーニー・ウィーヴァーも共演しております。
ありがちなサスペンス映画に、ブルース・ウィリスとシガーニー・ウィーヴァー。なんか凄そう!
いや、観る前からコレは客寄せのエサだと判ってましたヨ。ええ勿論ですとも(汗)。
シガーニー・ウィーヴァーは『ミッシングID』(2011年)にもチョイ役で出演しておられましたし、よくあるパターンなストーリーでも有名俳優が脇を固めてくれると割と安心。
しかし、まさかブルース・ウィリスの出番がここまで短いとは予想外でした。もうちょと活躍するとか、一度は退場してもラストで再び顔見せしてドラマをまとめてくれるのかと期待していたのに。
ヘンリーは青年実業家として独立して以来、家族とはちょっと疎遠になっている。外交官である父親ブルースとの折り合いがあまり良くなかった所為でもあるが、久しぶりのバカンスでもあり、母(キャロライン・グッドオール)と弟(ラフィ・ガヴロン)の顔を立ててスペインを訪れる。弟は恋人(エマ・ハミルトン)同伴で母とも気が合う様子だが、その分、浮いている父親の相手を自分が務めねばならないのがちょっと苦痛。
そもそも父は仕事の都合で家を空け、少年時代を一緒に過ごした思い出もあまりない。
ギクシャクした親子関係のまま、スペインでのバカンスを過ごすのかと思いきや、ちょっと買い物の為に外出したすきに、家族は消え失せていた。警察に届け出るが言葉の壁でなかなか埒が明かず、そうこうする間に自分の身にも危険が及ぶ。
銃で脅され、拉致されかけたところ間一髪で助けに現れたのが、父ブルース。一般人とは思えぬ慣れた手つきで、鮮やかに息子を救出する。
一体、どうなったいるのかと父を問い詰めると、母と弟、その彼女は〈奴ら〉に掠われたのだという。それもこれも自分の責任であるとも。
実は今まで隠していたが、父さんは本当は外交官では無い。CIAで国の為に仕事をしていたのだ──って、物凄く唐突な告白です。幼い頃から家を空けていたのも、スパイ稼業で外国を飛び回っていたからなのだった。
しかしそれ以前に、ブルースはまったく外交官らしく見えないのですが、家族の者は誰もツッコミ入れなかったのか。今まで全員、それを信じていたのか──と、観ているこちらがツッ込みたい。
今度の事件も、父ブルースが〈奴ら〉から奪った〈書類カバン〉が原因であるらしい。
とにかく〈書類カバン〉と引き換えに、母さん達を取り戻そう。
ところが、問題の〈書類カバン〉は手許に無い。信頼できる者に預けているのだが、連絡を付ける前に父ブルースは何者かに狙撃され、命を落とす。
え。ブルース・ウィリスが? こんなところで?
事情だけザックリ説明したら、あとは用済みとばかりの御退場です。そんな勿体ない。
まぁ、主演はヘンリー・カヴィルですから。
放っておいたらブルース・ウィリスが大活躍してしまいかねませんし。それもきっと『96時間』(2008年)のリーアム・ニーソンよりも短時間で敵の組織を丸ごと壊滅させて家族を救出するのでしょう。それではヘンリーの出番が無くなってしまう(いや、それでも良かったと云うか、むしろそっちが観たかったような)。
僅かな手掛かりからヘンリーはマドリードへ。
ヘンリーの命を狙う暗殺者も追ってくる。しかしマドリードに着いたからと云って状況はさっぱり好転しない。と云うか、悪化の一途を辿ります。
もう、あれよあれよと云う間に、警官殺害の汚名を着せられ、逃亡犯に転落です(撃たれた警官の上にかがみ込んで銃を拾い上げちゃダメだって)。このあたりが実にヒッチコック的です。
誤解を解きたくてもスペイン語が話せないのではどうしようもない。
助けを求めて大使館に駆け込んでみれば、そこにも敵の罠が待ち構えていた。もはや孤立無援。
実は父ブルースと同僚だと云うCIAの幹部シガーニー・ウィーヴァーが本作の黒幕です。あのシガーニーが、珍しくバリバリの悪党を演じております。
もう本性を隠す素振りも見せないのが、清々しいデス。悪女演技も堂に入っております。
ブルース・ウィリスがあんなチョイ役だったので、よもやシガーニー・ウィーヴァーも出番は少ないのではと思われましたが、こちらはそんなことなく沢山、見せ場を作ってくれます。
ベテラン諜報員達を相手に回して、素人の青年が右往左往するアクションがなかなかリアルで楽しめました。
大使館からの脱出や、マドリード市内での逃走劇も「素人がやって出来ないことは無い」レベル──でもよい子は決して真似しないで下さい──で、ハラハラ感の演出は巧いです。
随所に挿入されるマドリードの景観も楽しめます。
父ブルースの遺したケータイの通話履歴を辿り、協力者ディエゴなる人物を捜すヘンリー。その過程で、ディエゴの姪と名乗るスペイン女性ルシア(ヴェロニカ・エチェギ)と知り合う。
ヴェロニカ・エチェギのアメリカ映画出演は本作が初めてだそうですが、なかなかエキゾチックな美人さんです。もっと沢山出演作を観てみたいが、ほぼ日本未公開なのが残念。
命を狙われ、異国の街で逃避行。偶然、知り合ったお姉さんと親密に──と云うお約束の展開ですが、恋愛関係には発展しないのが珍しい。
実はヴェロニカの父とヘンリーの父は同一人物だったと明かされる。ブルースは外国に着任している間にしっかり現地妻を設けていたと云うのが笑えます。
しかも年齢的にヘンリーよりちょっと下なのが、父の二重生活は年期の入ったものだったのだと伺える。どうりでなかなか家に帰ってこない筈だわ。
するとブルースはスパイ活動の過程でディエゴと信頼関係を築き、そのついでにディエゴの妹と不倫して現地妻にしていたと云うことか(それもスパイ活動の一環だったのか)。
実はヒロインは妹だった! これに「萌え」を感じるのは日本人だけデスか。
監督のマブリク・エル・メクリは『その男 ヴァン・ダム』(2008年)の監督でしたか。
ベタベタなラブシーンなど持ち込ませないようにと云う配慮なんですかね。おかげで本作は、サスペンス展開が前面に出されて、スピーディな展開のイイ感じのアクション映画になりました。ロマンス要素は「微糖」程度。
そして地元警察に追われ、CIAにも追われる主人公に救いの手を差し伸べてくれたのが、実は敵の組織だったというのも意外な展開です。
実は〈奴ら〉とは、イスラエルの諜報組織モサドだったのだ。モサドのリーダー(ロシュディ・ゼム)が頼りになりそうな渋い褐色オヤジです。
「お前の家族は我々が拉致したお陰で助かっているのだ」とヘンリーに告げる。実はブルースを殺害し、家族を皆殺しにして、その罪を全部モサドに着せた上で機密情報の入った〈書類カバン〉を我が物にするというのが、シガーニーの陰謀だったのだ。
しかし「家族は保護しておくから、お前、〈書類カバン〉を取ってきて、我々に返してくれ」と云うのがちょっと厳しいです。有無を云わせぬ取引でヘンリーを再びマドリードの街に放り出す。
かくして再びシガーニーと対決する羽目になるヘンリー。夜のマドリードでのカーチェイスと云うクライマックス展開はかなり気合いが入っております。
何より、あのシガーニー・ウィーヴァー自身がカーチェイスを演じると云うのが凄い。
激烈カーチェイスの果てに、素人では一歩及ばないのが厳しいところですが、モサドのサポートで間一髪、助けられるのもテッパンな展開でしょう。
美味しいところだけ掠って、〈書類カバン〉を奪還して鮮やかに去って行くロシュディ。なんかモサドが善玉に見えます(笑)。
事態が収拾された後に登場するCIA局員役がコルム・ミーニィでした。トレッキーにならすぐ判る(トレッキーにしか判らんと云うべきか)『DS9』のオブライエンですね。
『完全なる報復』(2009年)にも出演されていましたが、CIAとかFBIの役が多い人です。
「君はよく頑張ったよ」とヘンリーの労をねぎらってくれるのは良いのですが、肝心の「カバンの中身は何だったんですか?」と云う問いには答えてくれません。きっと脚本上も何も考えられていないのでしょう(このあたりがB級ぽいですね)。
最後は何も知らない母に、妹を紹介するところでエンドです。父は亡くなったが、新たに家族が一人増えた──と云うことになるのでしょうか。
特に台詞の無いまま、ヴェロニカの言葉に何度も肯く母の姿を見守るヘンリー。
父の不倫については何だか不問に付されているようで、それでいいのかと思わぬでもありませんが、それなりに一件落着。
ブルース・ウィリスが死んだままドラマが終わってしまう事に不満が無いわけではないけれど、この状況下で「ふう。死ぬかと思ったぜ」なんてダイ・ハード的に顔を出そうものなら、家庭内が修羅場と化すことは必定でありますので、ここはやはりブルースには死んだままでいてもらった方がよろしいですね。
ランキングに参加中です。お気に召されたならひとつ、応援クリックをお願いいたします。
にほんブログ村