本作を観ていると『フットルース』(1984年)や『ストーリート・オブ・ファイヤー』(同年)といったロック・ミュージカルを思い出します。
監督は『ヘアスプレー』(2007年)のアダム・シャンクマン。この方はミュージカル映画の監督でいる方がよろしいのでは。『ベッドタイム・ストーリー』(2008年)はイマイチでありましたが、ミュージカル映画になると面白くなるような。
本作では、漢トム・クルーズの魅力が炸裂しております。
シャンクマン監督は『ヘアスプレー』ではジョン・トラボルタに女装させたりしておりましたが、本作のトム・クルーズも凄い(女装はしませんが)。
何を云うにしましてもトム・クルーズの肉体美は素晴らしいです。若い頃からいささかも変わることの無い肉体は驚異の一言です。
基本的に本作でのトムはレザー・パンツ一丁で──たまに毛皮のコートを羽織ったりもしますが、前ははだけている──、上半身は常にハダカなので、たっぷりと筋肉を拝むことが出来ます。
おまけに酒浸りでちょっとイッちゃった眼差しが実に危うい。
本作に於けるトムのロックンローラーとしての演技には、本職である〈ガンズ・アンド・ローゼス〉のボーカリスト、アクセル・ローズが直々に当たったといいますが、あの目付きも指導の賜物なんでしょうか(笑)。
本作でのトム・クルーズを観ていると、どうしても先日観たフランシス・コッポラ監督の『Virginia ヴァージニア』(2011年)を思い返さずにはおられませぬ。あの、肉の塊に成り果てたヴァル・キルマーは、実に残念でありました。『トップガン』(1986年)ではトムと並んでイケメン俳優だったのに。いや、年齢を考えれば、ヴァルの方が普通と云うかやむを得ないのか。
トムにはこの先も可能な限りアクション映画で頑張って戴きたいものです。
そして筋肉も素晴らしいが、歌声もまた素晴らしいデス。本作はミュージカル映画なので俳優が歌うのは当然としても、トム・クルーズが歌うとは──しかもロックを──思いませんでした。吹替などでは無く、御本人が美声を披露してくれています。
ちゃんと〈ガンズ・アンド・ローゼズ〉のナンバーも歌ってくれますし。
トムだけではなく、共演の俳優達も自分達で歌っています。
キャサリン・ゼタ=ジョーンズや、アレック・ボールドウィンも、皆さん自分で歌っている。いつもは歌う場面など見られない人達が、本作では歌って踊ってくれるので大変珍しいものを観た気になれます。
こういうのは『スウィーニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師』(2007年)で歌うジョニー・デップやアラン・リックマンを観て以来のような気がします。
とは云え、本作の主演はトム・クルーズではなく、キャサリン・ゼタ=ジョーンズでもなく、ましてやアレック・ボールドウィンでもありません。
主演はジュリアン・ハフとディエゴ・ボネータと云う若手の二人。ジュリアンは『バーレスク』(2010年)に出演しておりましたが、あまり印象に残っておりません(まぁ、あの映画はクリスティーナ・アギレラとシェールが主役だし)。また、ディエゴの方は本作がデビュー作とな。
ストーリーは単純です。フランク・シナトラも『ザッツ・エンターテインメント』(1974年)で「ミュージカルのストーリーは単純ですが、頭で考えさせるのではなく、心にに訴えるのです」と云っておられますし。
ロック・スターに憧れてLAに出てきた田舎娘が、恋をして、恋に破れ、タフになりながらも、もう一度かつての恋人と共に夢に挑んでいく。若い二人に触発され、一時は酒に溺れていた大スターも、再び立ち直る。ロックは不滅だぜ!
この主役の恋人たちをサポートする伝説のロックスターがトム・クルーズで、これに有名ライブハウスの経営者(アレック・ボールドウィン)、そのアシスタント(ラッセル・ブランド)、ロック排斥を訴えるお堅い市長夫人(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)が絡んでくる。ついでにトムのマネージャー役でポール・ジアマッティも登場します。
特にジアマッティの強突く張りの脂ぎったオヤジ演技が堪らんデス。
残念なのはジアマッティは大して歌ってくれないこと。アレック・ボールドウィンは頑張ってくれているのに。もっとオヤジ達に沢山歌わせてくれ。
他にもヒップホップ・ソウルの女王メアリー・J・ブライジが高級ダンスクラブ(と云えば聞こえはイイが実はストリップクラブ)の支配人役で登場してくれます。
この人は『ヘルプ/心がつなぐストーリー』(2011年)では主題歌だけ歌っておりましたが、本作では御本人もしっかり登場し、見事に歌う場面を披露してくれます。
キャスティングが実に豪華です。
物語の背景が一九八七年。ちょっと懐かしい時代です。
ジアマッティが手にするケータイの異様な大きさが笑えます。あんなに大きなものでしたかねえ。
また、タワーレコードが実名で登場しますが、店内の様子が今となっては懐かしい。あの頃はまだCDなんて無かったのだ。店内にはLP版のジャケットが所狭しと並べられている。
特に説明されませんが、今の若い人はあれがLPレコードと云うものだと判ってくれるのか、ちょっと心配デス。今や音楽配信の時代ですからな。そのうちCDすら消えて無くなるのだろうと思うと何やら時代の流れを感じます。
それにしても八〇年代を代表するロックナンバーが片っ端から歌われるので実に懐かしい。さほどロックに詳しくない私でも聴いたことのある曲が多いのが嬉しいデス。
本作のサントラCDは聴きものですよ(買っちゃったし)。
ストーリーもシンプルですが、演出も基本に忠実なクラシックなスタイルです。
例えば、冒頭で都会に憧れ、長距離バスに乗って田舎から出てくる主人公が心境を歌い始めると、バスの乗客達が一緒になって合唱してくれる。実にオーソドックスな展開です。
このときのナンバー、「シスター・クリスチャン(“Sister Christian”)」がイイ感じでした。
また、トム・クルーズを目の敵にしているキャサリン・ゼタ=ジョーンズが──何故、目の敵にしているかについては秘密があったりして(笑)──婦人会のメンバーと一緒にロック排斥の怪気炎を上げ、キレキレに歌って踊る「強きで愛して(“Hit Me With Your Best Shot”)」も素晴らしいデス。この場面は歌も凄いがキャサリンのダンスも素晴らしいわ。
ゲイに目覚めたちゃったアレック・ボールドウィンとラッセル・ブランドが「涙のフィーリング(“Can't Fight This Feeling”)」をデュエットする場面も笑えます(気色悪いケド)。歌詞が男同士のラブソングに聞こえる(笑)。
ラッセル・ブランドは『テンペスト』(2010年)でトリンキュロー役でシェイクスピア劇にも出演したコメディアンですが、歌も巧いものです。
クライマックスはライブハウス前でロック排斥派とロック肯定派のデモが激突して、互いに「シスコはロックシティ(“We Built This City”)」と「ウィア・ノット・ゴナ・テイク・イット(“We're Not Gonna Take It”)」で歌合戦。二曲を交互に歌いながらピタリと合うあたり、選曲の妙が感じられます。
ここでキャサリン・ゼタ=ジョーンズの秘められた過去が暴露され、同時にトム・クルーズの前にあえなく撃沈してしまう下りがお約束の展開ですが、キャサリンのコメディエンヌの才能に感服いたしました。
しかし本作サイコーなナンバーは、やはり「ドント・ストップ・ビリーヴィン(“Don't Stop Believin'”)」と「お気に召すまま(“Any Way You Want It”)」でしょう。この二曲が主題歌ですねえ。
特に後者は今では某民放TV番組のテーマソングとなっておりますし、『チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル』(2003年)でも使われたりして、よく聴くナンバーです。
夢を諦めないで、信じることを止めないで、好きなことをやるのが大事なのだ、と云う実にシンブルかつ前向きなメッセージをノリノリのロックナンバーに載せて歌い上げてくれるハッピーかつ痛快なミュージカル映画でした。
ラストシーンのコンサート場面が実に楽しかったです。
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