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2012年8月5日日曜日

マダガスカル3

(Madagascar 3: Europes Most Wanted)

 ドリームワークス制作の〈マダガスカル〉シリーズの劇場版第三弾です。当初は単発作品だったのに、人気が出て続編が制作され、スピンオフのTVシリーズ『ペンギンズ』まで制作され、遂に三部作完結編と相成りました。
 ドリームワークス製のアニメ映画の中では、『シュレック』や『カンフー・パンダ』のシリーズよりも、本シリーズの方が好きデス。
 それにしても、実に見事に終わってくれました。これは三作でひとつの物語と云ってもいいでしょう。クリストファー・ノーラン監督の〈ダークナイト〉三部作と同じか。
 まぁ、もはや舞台は「マダガスカル」でも何でもありゃしませんが、細かいことはスルーです。

 このシリーズが見事なのは、三作できちんと完結したこと、そして全体で「行って帰って来る物語」になったことです。
 その気になれば四作目以降も制作できるかもしれませんが、これ以上は必要ないでしょう。
 監督は三作を通じてエリック・ダーネル(脚本も書いてます)。共同監督として他に二名の名前が挙がっていますが、気の合う制作陣だったので、破綻することなくキチンとまとまっています。
 トム・マクグラスは第一作目からずっと共同監督ですし(ついでにペンギンズの隊長役でもある)、コンラッド・ヴァーノンも本シリーズではチンパンジーのメイスン役で参加しておりましたので、珍しく「船頭多くして船山に上る」にならずに済んでおります。

 出演する声優もシリーズを通して皆勤賞揃い。日本語吹替版も同じく皆勤賞なので実に安定しております。
 ライオンのアレックス役に、ベン・スティラー(玉木宏)。
 シマウマのマーティ役に、クリス・ロック(柳沢慎吾)。
 カバのグロリア役に、ジェイダ・ピンケット=スミス(高島礼子)。
 キリンのメルマン役に、デヴィッド・シュワイマー(岡田義徳)。
 加えてペンギン(四羽)、チンパンジー(二匹)、キツネザル(三匹)と云ういつものメンバーも健在です。山口勝平も、〈おぎやはぎ〉も吹替皆勤賞ですね。

 意に反して動物園からマダガスカルまで行ってしまったアレックス一行は、マダガスカルから出たはいいがアフリカで遭難し、なかなかNYまで帰れない。それでも仲間との絆を深め(第一作)、自分のルーツを発見する(第二作)など、それなりに有意義な冒険を続けている。
 本作では、壊れた飛行機の修理費用を稼ぐために、チンパンジーとペンギンズをモンテカルロのカジノへ派遣する場面から始まります。モンテカルロへ行けるなら、そのままアメリカに帰れそうなものですが、そこはスルー。
 望郷の念はつのる一方だというのに、ペンギンズはなかなか帰ってこない。業を煮やしたアレックス達はペンギンズを迎えにモンテカルロへ向かう(だからそのままアメリカへ……)。

 序盤のモンテカルロでの大騒ぎがなかなか愉快です。例によって映画ファンならニヤリとするパロディもあります。最近の映画では天井からロープ一本で宙吊りになるのが流行っていますね(笑)。
 カジノで荒稼ぎするペンギンズと合流できたものの、モンテカルロ動物管理局には鬼より怖いデュボア警部がおり、彼女は動物を狩ってその首をオフィスに飾る趣味を持っていた。もはや動物管理官と云うよりもハンターです。
 しかも人間離れした嗅覚と執念深さでどこまでも追ってくる。

 このデュボワ警部役がフランシス・マクドーマンド。『ファーゴ』(1996年)でオスカー女優となりましたが、近年は『バーン・アフター・リーディング』(2008年)や、『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(2011年)でお見かけします。何となくキャラのデザインも本人に似ている気がしますよ(笑)。
 本作はこのデュボワ警部のキャラクターが強烈でした。
 しかしあまりにも強烈な敵役なので、第一作、第二作に登場したおばあちゃんは本作では出番なしです。そこだけちょっと惜しい。
 執拗に動物管理局に追跡され、逃げ惑う彼らは偶然発見したサーカス団の列車に潜り込んで追跡をかわそうとする。

 ヨーロッパでの公演を成功させれば、次はNY公演だという話を聞いたアレックス達は、カジノで稼いだ大金でサーカス団を丸ごと買い取る。これで自動的にNYに帰れるものと思ったのも束の間、このサーカス団は倒産寸前のヘッポコ・サーカス団だった。ローマでの興業は散々な結果に終わる。
 カジノで稼いだ金で素直に飛行機がチャーター出来たのにと後悔しても後の祭り。
 かくなる上は、何としてでも次なるロンドン公演を成功させ、米国人プロモーターと契約せねばならない。

 サーカス団で知り合うトラのビターリ(ブライアン・クランストン)と、ジャガーのジア(ジェシカ・チャステイン)。
 かつてはこのサーカス団にも栄光の日々があった。ビターリの輪くぐりの芸は万雷の喝采を受けたこともあった。
 しかし自らの芸を過信し、パフォーマンスはより過激になり、あるとき遂に限界を超えてしまった。失敗に終わった芸の所為でビターリは自信を失い、サーカス団は凋落したのだった。
 何となくこの「トラのビターリ」のキャラクター・デザインに、フェデリコ・フェリーニ監督の『道』(1954年)に登場したアンソニー・クインの面影が見えるのですが、気の所為かしら。

 本作はシリーズ初の3D映画としても公開されておりますが(シリーズ三作目にして3Dと云うのは、よくあることですね)、都合により鑑賞したのは2D版でした。それでも充分、楽しめますが、劇中のカーチェイス・シーンや、サーカスの綱渡り、空中ブランコ等のシーンは、3D用に演出されているのが感じられました。
 そしてアルプス山中での特訓を経て生まれ変わった一座は、ロンドンで華々しい成功を収めるのですが、この幻想的サーカスの描写は、モロに〈シルク・ドゥ・ソレイユ〉ばりだったりします。このあたりも3Dで観ると楽しかったのでしょうか。
 ハンス・ジマーの音楽も実に楽しい。

 小ネタですが、シマウマのマーティが人間大砲の芸を会得した際に、アフロヘアーなカツラを被って大砲から発射されるという場面があります。
 吹替の柳沢慎吾がノリノリで、「アフロ、行きまーすッ」と叫んでいるのですが、これはきっとアドリブでしょう。クリス・ロックがガンダム・ネタな台詞を云う筈ないし(笑)。
 自信を取り戻したビターリの輪くぐりは、もはや物理法則を超えているように見受けられるというのもギャグです。いや、無理だろソレ。

 ところで主人公達は、サーカス団に潜り込む為に「自分達もサーカスの動物だった」と嘘をついて信用を得るワケですが、最初は嘘も方便とばかりに、口からデマカセで相手を煙に巻いても良心の呵責を感じなかったのに、深く知り合うようになると騙しているのが後ろめたくなってくると云うのはよくあることです。
 大抵、この手の物語では、次第に仲間として認められ、頼りにされ、信頼を勝ち得ていった末に、一番大事な局面で嘘がバレる。
 信用を一気に失い、サーカス団を追放され、NYの動物園に強制送還。失意のままの帰還と相成る。

 目的は達せられ、あれほど帰りたかった動物園に帰ってきたと云うのに、しかし心は鬱々として晴れることがない。
 夢にまで見た獣舎は、こんなにも狭いところだったのか。互いに塀で囲われ、隔離されている。旅をしていた頃の自由がここには無い。
 帰ってきたのに故郷が様変わりしている。違う、故郷が変わったのではなく、今までの冒険の旅を通じて自分達の方が変わってしまっていたのだという描写が素晴らしいです。
 非常にオーソドックスな冒険物語のパターンですが、近年ここまできちんと「行って帰ってくる物語」を描いた作品を知りませんです。

 そして今度は動物園からの脱走を真剣に願うようになる。何よりこのままではサーカス団のNY公演が頓挫してしまう。
 一方、サーカス団の方も彼らの事情を理解し、また鬼のデュボワ警部がアレックスの命を諦めていないと知り、助けようとする。
 仲間の救助と、動物園からの大脱走がクライマックスです。和解し、仲間の信頼が回復すると同時に、今までついてきたホラが全部現実のものになるという展開は、パターンですが実に手堅い。

 主人公達は成長し、新たな家と家族を手に入れ、サーカス団として世界を巡る新たな人生を歩み出す。
 実にスマートで美しいエンディングでした。この先も続編を制作しようと思えばできるのでしょうが、多分興醒めになってしまうので、ここで終わらせておくのがよろしいと思います。


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