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2012年5月25日金曜日

ダーク・シャドウ

(DARK SHADOWS)

 監督ティム・バートン&主演ジョニー・デップ、ついでに共演ヘレナ・ボナム=カーターで、音楽ダニー・エルフマンという毎度お馴染みなメンバーによる「ちょっと奇妙なファンタジー」です(それもいつものことね)。この監督と主演のタッグは本作で八回目ですよ。息の長いコンビですね。
 本作は、もともとジョニーの方から企画を持ちかけ、ティムが監督を引き受けたそうで、ホントにこの二人は気が合うんですねえ。
 元ネタは六〇年代後半から六年間にわたってアメリカで放送されていた連続ドラマ。ジャンルとして「ゴシック・ソープ・オペラ」と呼ばれたところを見ると、ホラーっぽい内容なのにお昼時に放送されていたのか。
 結構、人気があったようで、ティムもジョニーもファンだったそうな。あんたら子供のくせに昼ドラ観てたのか。

 これもまた近年のハリウッドにありがちなTVドラマのリメイク&劇場版化と云うやつですが、元ネタがマイナーなだけに存じませんでした(と云うか、日本では放送していなかったし)。
 ジョニーやヘレナの他に、出演されているメンバーが豪華です。ミシェル・ファイファー、エヴァ・グリーン、クロエ・グレース・モレッツ(以下、クロエたん)にジャッキー・アール・ヘイリー。

 ミシェル・ファイファーは『バットマン・リターンズ』(1992年)のキャットウーマン役以来のティム・バートン監督作品ですね。二〇年経ってもお美しい。
 美しいと云えば、エヴァグリーンが今回は実に妖艶です。ジョニー・デップと繰り広げる豪快なラブシーンは見物ですよ。
 クロエたんはまたしてもヴァンパイアものに出演か。好きなのかな。
 個人的にはジョニー・デップと一緒にジャッキー・アール・ヘイリーが出演していることが感慨深いデス。この二人、デビュー前からの友人同士だし(今回は役柄上、主従関係ですけど)。

 時に一七六〇年。イギリスはリバプールからアメリカに移住したコリンズ家は水産業を興して大いに栄える。しかし跡継ぎであるバーナバス(これがジョニー)に懸想した使用人の娘アンジェリーク(エヴァ・グリーン)は、己の恋が実らぬことから嫉妬に狂い、バーナバスの婚約者(ベラ・ヒースコート)を呪って殺害してしまう。アンジェリークには魔女の心得があったのだ。
 更にアンジェリークはバーナバスにまで呪いをかけてヴァンパイアにした挙げ句、村人達を焚きつけて館を襲撃させ、バーナバスを棺に閉じこめ、生き埋めにしてしまうのだった。

 そして時は流れて二〇〇年後。道路工事の最中に棺が掘り当てられ、バーナバスは復活。
 かつての館に戻ってきたバーナバスが目にしたものは、荒廃した邸宅と凋落した子孫の姿だった。
 このままではイカンと、バーナバスは一族の繁栄を取り戻す為に行動を開始するが、今や町の支配者となっていた魔女アンジェリークと二〇〇年の時を超えて再び対決の時を迎える。

 甦ったバーナバスが、あちこちで目にする一九七〇年代の文化にカルチャーショックを受ける、というのが本作の見どころでしょうか。こういうのは『テルマエ・ロマエ』(2012年)でもやっておりましたし、定番のギャグですね。
 七〇年代のサイケなポップカルチャーは、それだけでも可笑しいし、時代錯誤な主人公の行動もあって二重に笑いを誘います。マクドナルドの看板を見て、「巨大なM」をメフィストフェレスの徴であると勘違いしたり、「TVを魔法と勘違い」したり(定番中の定番ギャグだなあ)。
 バーナバスの話口調は時代がかっているらしく、字幕も時代劇調でした。多分、ジョニー・デップも古風な英語を喋っていたのでしょう(私に聴き取りは無理デス)。

 総じてホラー・コメディと云う路線で宣伝されておりますが、これがコメディなのか疑問に感じる部分も無きにしも非ずデス。
 と云うのも、ジョニー・デップの吸血鬼描写が古典的且つ本格的ですから。
 このあたりはティム・バートン監督のヴァンパイアに対する真摯な演出と云うべきなのか、単なる感覚のズレなのか。良くも悪くもバートン節全開ですわ。

 軽いコメディを観に来たつもりが、バタバタと人が襲われて死ぬ場面を見せられてしまう。最初の道路工事の作業員はモロに全滅ですし、それ以外にもラブ&ピースを説くヒッピーの若者達もバーナバスの餌食になる。
 そりゃ設定上、人を襲わないと生きていけない呪われた存在ではありますが、そこをサラッと流さすことなく、ジョニー・デップが口の周りを血まみれにして人々を襲いまくる描写をしっかりと描いては、あまり笑えませぬ。
 その一方で、サングラスと日傘を差して歩けば日中でも問題なしとはこれ如何に。
 だったらトマトジュースでもOKにするとか、献血パックでもチュウチュウと吸っていれば良さげなものなのにねえ。

 廃墟同然の水産加工工場を建て直すべく手を打つバーナバスだが、肝心の漁師達との契約が取れない。港の漁師はすべてアンジェリーク側に囲われていたのだった。
 ここでバーナバスが強引に催眠術で──ヴァンパイアぽい技ですね──漁師の元締めと交渉するワケですが、その相手がクリストファー・リーだったので笑いました。元祖ヴァンパイアなのに、新種のヴァンパイアに手玉に取られてますよ(笑)。
 クリストファー・リーはバートン監督作品にはちょくちょくカメオ出演しておりますね。『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)でもお見かけしましたし、『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)ではジャバウォッキーの声を担当されておりましたね。

 館に隠されていた財宝を元手に工場を再建し、館も修復させ、一族再興計画は順調に進行していく。
 だがまだ充分ではない。権力の誇示には舞踏会こそが必要だ──と云うのはなかなかアナクロな考えですが、七〇年代的舞踏会とはどうあるべきかを子孫であるクロエたんから聞き取ろうとする態度が殊勝です。
 ミラーボールも設置して、気分はすっかりディスコですね。
 そこに七〇年代に一世を風靡したロック歌手、アリス・クーパーをちゃんと本人役で登場させたりもしております。御本人はロックの殿堂入りしているお方ですが、ちゃんと一曲披露してくれます。その筋のファンには堪らぬものがあるのでしょう。
 また招待された町の名士らに、オリジナルのTVシリーズの出演者達をカメオ出演させているという演出にも、リスペクトを感じます(日本未放映なので私にはピンと来ませんでしたが)。

 どの程度、オリジナル版がリスペクトされているのか判りませぬが、クライマックスに於けるバーナバスとアンジェリークとの対決シーンで明かされる、「実はクロエたんが人狼でした」というイキナリな展開は、多分オリジナルがそうだったからなのでしょう。
 解説に拠れば、オリジナル版は当初は新任の家庭教師ヴィクトリアを主人公にしたミステリー・タッチのドラマであったとか。最初はオカルト抜きだったのか。
 ところが御先祖様を吸血鬼にして甦らせたら人気が出てしまい、以後はスーパーナチュラル路線をまっしぐら。
 そこから先は、もう魔女やら狼男やらナンデモアリだったと云うから、クロエたんが実は狼娘だったというのも、そこから来たものなのでしょう。
 でもドラマとしては、なんかあまりにも取って付けた感が漂って、如何なものかと思うのですが、米国のオリジナル版のファンは喜んだのですかね。
 本作は明確にバーナバスを主人公にして、その愛憎劇で完結してくれますが、クロエたんの人狼ネタは放置されてしまうので、蛇足感は否めませぬ。

 本作では、共演する豪華女優陣の対決がなかなか興味深いです。
 魔女役であるエヴァ・グリーンは当然ですが、コリンズ家の当代当主役であるミシェル・ファイファーが流石の貫禄を見せてくれます。ジョニー・デップが復活するまで、ミシェルがほぼ一人でコリンズ家を支えていたわけで、ミシェルはジョニーが吸血鬼だと知っても動じないし、エヴァが魔女だと知っても驚きません。肝の据わったお方です。
 クライマックス対決シーンでも家を守る為に一歩も引かないという態度は実に頼もしい。

 ラストは館が焼け落ちても「これからどうするの?」と気落ちするクロエたんらを支えて、堂々と「生き延びるのよ」と云い放つ。コリンズ家の家訓「家族こそが唯一の財産」を忠実に体現しているのですね。
 本作でのミシェルは女傑と呼ぶに相応しいお方です。あまり出番はありませぬが、ジョニーよりも頼りになりそうでした。
 その分、ヘレナ・ボナム=カーターの方が霞んでしまったのは残念でした(中盤でリタイアしてしまうし)。前作『アリス~』の〈赤の女王〉が印象強すぎましたからね。

 オリジナル版にはバーナバスの子孫クエンティンが登場する劇場版も製作されたそうですが、そちらの方はどんな話なんですかね。本作がDVDリリースされる際に、オマケでちょっと見せてくれないものか。




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