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2012年4月16日月曜日

ジョン・カーター (3D)

(John Carter)

 エドガー・ライス・バローズの古典的SF小説『火星のプリンセス』が本格的大作映画として映像化されました。最初にこれを読んだのはいつの頃だ。もう大昔ですよ。当時はSF入門書の一冊に挙げられていたくらいホピュラーな小説でした。『スターウォーズ』(1977年)以前の時代ね(ラノベなど影も形もなかった頃です)。
 いやはや、待たせてくれました。何度か映画化の企画が持ち上がり、一時はジョン・マクティアナンが監督で、トム・クルーズがジョン・カーター役とも云われたときがありましたが、その企画も流れたし。低予算B級映画になってしまったこともありました(アレはもう忘れたい)。
 古いSF者としては感無量でありますが……。
 あれ。『火星のプリンセス』じゃなくて、『ジョン・カーター』か。そりゃ、ナンカチガウのでは。

 しかし結論から云えば、悪い出来ではなかったデス。
 正々堂々の冒険活劇。
 そりゃまあ、長年SF者を勤めてきた身からすれば、云いたいことは色々ありますが、何はともあれキチンと映像化できたことを素直に喜びたい。
 原作の改変が極力抑えられていることに、スタッフのリスペクトの強さを感じます。二一世紀のこの御時世に、ほぼ百年前の空想科学冒険小説を映像化するのは並大抵の苦労では無かったことでしょう(第一作の出版は1917年)。

 そもそも最初の設定からして時代遅れですわな。
 宣伝では「火星」のカの字も云わないので、もはやこの設定は廃れてしまい、どこか太陽系外の「惑星バルスーム」になってしまったのか──と思いきや、劇中で堂々と「火星である」と宣言してくれたので嬉しくなりました。
 もはや科学的に正しいかどうかは二の次であるという姿勢が頼もしいデス。

 時代背景も原作に忠実に十九世紀末。若き日のバローズが、叔父であるカーターの遺産を相続するという導入部もそのまんま。
 緑色人も牙があって四本腕。その上、タルス・タルカスを演じるのはウィレム・デフォーですよ(声だけだけど)。まぁ、目玉は飛び出していないが、そこはスルーしましょう。
 火星馬、火星犬、大白猿も、飛行艇も実にリアル。作り手が色々とこだわりながら制作しているのが判ります。ワケの判らん「第九光線」も、そのまま使おうという心意気が素晴らしい。
 ストーリー展開の方は色々と脚色されておりますが、基本設定がそのままなので違和感はほとんど感じませんです。

 監督および脚本はアンドリュー・スタントン。ピクサーのアニメ映画『ファインディング・ニモ』(2003年)と『ウォーリー』(2008年)の監督さんですが、本作が初の実写監督作品になりました。ピクサーの監督なら、本作もアニメ映画にしても良かったのにと思うのデスがねえ。実際、過去にはアニメ化の企画もあったのだし。
 そうすりゃ、デジャー・ソリスも晴れて〈ディズニー・プリンセス〉の一員ですよ。ディズニーランドの電飾パレードにデジャー・ソリスが加わってくれるなら、ムスメら連れてTDLに詣でますよ。
 でも実写だったので、デジャー・ソリスは〈ディズニー・プリンセス〉になり損ねてしまった。火星のプリンセスなのだから資格は充分なのに。
 アニメだったら、きっと『アラジン』(1992年)のジャスミン姫のようなエキゾチックな美女になったであろうに……と脳内補完しても虚しい(その場合、音楽はアラン・メンケンな)。
 バローズ原作の小説では『ターザン』(1999年)もディズニーでアニメ化されているのだから、『火星のプリンセス』も長編アニメ映画にして戴きたかったデス。

 実は本作について、もうちょっと何とかならんのかと云いたいことの大半が、デジャー・ソリスの扱いであったりします。本作に於けるデジャー・ソリスは実に活動的です。現代的な「強い女性」になっている。
 学者であり、剣の腕前もお見事。カーターの後ろで守ってもらう必要などサラサラ無い。逆にカーターが助けられているくらいですよ。
 昔からディズニー映画は世相を反映しやすいので、仕方ないとも云えますが。

 日本のSF者としては『火星のプリンセス』と云えば、故 武部本一郎画伯の描く「あのデジャー・ソリス」でありまして、そのイメージで映像化して戴きたかったが、それは無理か……。
 まぁ、『ジョン・カーター』なんだし。仕方ないのかねえ。
 でも一方では、『指輪物語』が映画化される際、ピーター・ジャクソン監督はアルウェン姫を活動的にして、アラゴルンと一緒に戦う場面までテスト撮影しながら、違和感を感じてボツにしたと云いますから、ピージャクと同様の英断をアンドリュー・スタントン監督にも求めたかったデス。製作会社が違うから無理なのか。

 主役の配役はテイラー・キッチュとリン・コリンズと云う、『ウルヴァリン : X-MEN ZERO』(2009年)のお二人。テイラーはガンビット役、リンはウルヴァリンの恋人ケイト役でした。
 テイラー・キッチュについては、特に何も云うことはありませんデス(野郎だし)。頑張って鍛えた筋肉美は、まさにジョン・カーター。
 でもねえ、リン・コリンズはねぇ。凛々しく強い女性ではありますが、たおやかで可憐なお姫様では決して無い。これは『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』(2010年)のときに感じたことと全く同じです。ディズニーは「萌え」が理解できないのかヨ(無理か)。

 劇中では、赤色人の設定がなかなか良かっただけに、残念無念。肌が薄い褐色で、顔面の一部や、肩から腕にかけて不思議な紋様が入っている。実にエキゾチックなキャラクターデザインでした。
 これが肌も露わな可憐なプリンセスに施されていたら。ああ……。
 などと云いつつも、あまりリン・コリンズに難癖付けるのも建設的ではないか。

 前述しましたが、実は『火星のプリンセス』の映画化を観るのは、これが初めてではありませんです。
 数年前にWOWOWで『アバター・オブ・マーズ』(2009年)と云う、タイトルからしてジェームズ・キャメロン監督のパチもん臭いB級映画が放送されたことがありまして、何の気の迷いからか観ちゃったのです。そしたらそいつの原題が “Princess of Mars” でした。一瞬、我が目を疑いました。
 アフガニスタンで負傷した米軍特殊部隊の兵士ジョン・カーター大尉は、軍が開発中の量子力学的転送装置の実験台に志願し、アルファ・ケンタウリだかどこかだかの惑星に転送されて──と云うストーリー。物語を現代的にリファインしようとしているのは判りますがね。
 特撮はもう低予算なのが如実に判る。これなら日本の特撮番組でも勝てるかも知れんという程度で、緑色人も腕が二本しかない。CGのクリーチャーもそれなり。

 『アバター・オブ・マーズ』は、ごくフツーのB級活劇でしたが、配役のおかげで忘れられない作品になりました。
 ジョン・カーター役がアントニオ・サバト・Jr. なのはいいです。それなりに男前だったし。
 でもあろうことか、デジャー・ソリス役が……トレイシー・ローズ!
 よりによって、なんでこんなビッチがデジャー・ソリスなんだよ。あんまりだ。と云うか、トレイシー・ローズがまだ現役で女優をやっていたと云うことの方が驚きデスが。

 そんな作品を観てしまったので、リン・コリンズに難癖付けるのも可哀想な気がします。
 リンジー・ローハンにならなかっただけマシか。でも誰がデジャー・ソリス役になろうとも、トレイシー・ローズよりは良いに決まってるわな。
 チープな『アバター・オブ・マーズ』に比べれば、もう『ジョン・カーター』にナニか文句を付けるところがあろうか。バチが当たるか。

 ただ心配なのは続編ありきで制作されていることですね。
 冒頭から女神イサスに仕えるサーン族が登場し、ゾダンガの皇帝サブ・サンに肩入れする場面から始まります。サーン族は『火星の女神イサス』からの登場の筈だし、キャラの整理で個人名になっている。サブ・サンも最初から皇帝です。
 続編になってイキナリ登場し、取って付けた説明にならぬよう予め用意しておこうというワケか。でもその所為で、物語が完結しなくなってしまいました。準備が良いのは判りますが。
 だからサブ・サンを倒し、火星の危機を救ったものの、サーンの陰謀によってカーターは地球に帰されてしまうという展開になりました。ラストでは全てを知ったバローズの前に現れ、再び火星へと旅立っていく。
 「エドガー、戦いはまだ続いているのだ」

 とは云え、第二部も制作してもらえるのでしょうか。相当な大金を投じて制作しているだけに(ウォルト・ディズニー生誕一一〇周年記念作品ですし)、生半可なヒット程度では制作費は回収できないのでは……。
 何とか『火星の女神イサス』と『火星の大元帥カーター』までは映画化し、三部作完結して戴きたい。全十一作は無理としても。
 アンドリュー・スタントンの腕は悪くないので、頑張って戴きたいところです。
 マイケル・ジアッキーノのテーマ曲も実に雄大なオーケストラで、サントラは聴きものなのですがねえ。

 本作はピクサーつながりで、エンドクレジットに「創造の先駆者スティーブ・ジョブズに捧ぐ」と表示されます。うーむ。だったらやっぱりアニメ化した方が良かったのでは。

● 余談
 とにもかくにも、これでバローズの小説が完全映像化できることが証明されました。
 よおし、次はE.E.スミスの『レンズマン』と、エドモンド・ハミルトンの『キャプテン・フューチャー』の実写映画化ぢゃあッ(なんか年寄りが調子に乗ってマス)。




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