他社作品との差別化を図る為か、3D映画になっております。正直、あの手の偏光グラスは鬱陶しいだけなのですが、松竹の3Dメガネは何となく眼鏡の上からでも掛けやすいようで(少なくとも新宿ピカデリーはそうでした)、割と楽に観られました。邦画だから字幕もないし。
しかしながら案の定というか、3D効果があるのはCG特撮部分だけでしたねえ。通常のドラマ部分も3Dになってはいますが、特筆するほど奥行きがあるとも思えませんでした(全編3Dカメラでの撮影だったそうですが)。ちょっと残念。
その代わり、CGのロケット、探査機、惑星なんかは立体感ありありで、見せ物的に面白かったです。
もう映画のオープニングからして、四六億年前の太陽系誕生のスペクタクルな場面が、もっともらしくバーンと展開してくれたのは楽しかったです。ハッタリ効かせてます。
打ち上げられたロケットからの探査機の切り離し、ソーラーパネルのパドル展開等のメカニックな動きはなかなか。
条件反射的にこの段階から涙目になる自分が恨めしい。
これらの「宇宙を描くCG」が観ていて、妙に懐かしい感じがしました。これは音楽の効果ですね。
本作の音楽は富田勲でした。どおりで聞き覚えのあるシンセサイザーだったワケだ(新曲ですが)。映像と音楽の組み合わせが懐かしすぎる。
しかし富田勲を起用してシンセサイザー音楽を流すのであれば、イマドキはいっそのことに初音ミクにでも主題歌を歌って戴いた方が良かったのでは。ボーカロイドの歌う〈はやぶさ〉の歌も色々ありますし。
監督が本木克英で、脚本が金子ありさ。
本木克英監督作品と云うと実写版の『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズくらいしか存じませぬ。『釣りバカ日誌』とか観ないからなあ。
金子ありさの脚本も、TVドラマを観ないので、『電車男』(2005年)くらいしか馴染みがない。
とりあえず三社三様と云うか、同じ題材で切り口の異なるドラマを見せてくれたのは面白かったです。
本作の主演は、藤原竜也と三浦友和。全体として、父と子の物語になっています。
〈はやぶさ〉だけでなく、それ以前の失敗に終わった火星探査機〈のぞみ〉が描かれているのも興味深い。他社作品だと〈はやぶさ〉に焦点を当てたために、ごくあっさりとした描き方だった〈のぞみ〉にも本作はスポットを当てています。
また〈はやぶさ〉以後の探査機〈イカロス〉も登場させたり、近年の日本の宇宙開発について俯瞰的に描写しようと云う試みのようです。
これに〈のぞみ〉のプロジェクトに人生をかけて挫折した父(三浦友和)と、〈はやぶさ〉のプロジェクトで苦難を味わう息子(藤原竜也)という対比の構図が描かれて、なかなか判り易い。
この「判り易い」というのが、本作の一番の特徴でしょうか。
もう小さな子供にも判り易く描くという点に於いては、本作はすごく苦心しているのが伺えます。〈はやぶさ〉のミッションについて、序盤であまりにも──あざといまでに──子供向けに演出された説明部分に、観ていて苦笑を禁じ得ません。
これはもう若年層がメインのターゲットであることが明確です。やはり次世代の宇宙開発者育成の為には必要なことなのか。
公開時期も三作品の中では一番最後。わざと三月まで遅らせているところを見ると、学校が春休みになるタイミングを見計らっての公開なのでしょうか(各社色々考えますわねえ)。
小学生のお子様にミッションの説明をさせるのも親しみやすさを狙った演出でしょうか。あからさまな説明セリフも微笑ましいと云うか。
子役の前田旺志郎くんが〈はやぶさ〉に乗って、ビューンと地球をスウィングバーイ。いやもう非科学的と云うかファンタジーな場面もあります。
とは云え、自分もまた子供の頃は「ガメラの背中に乗って空を飛ぶ」ことを夢想したクチですから、大きな事は云えぬか。イマドキの子供は〈はやぶさ〉と一緒に飛ぶことにロマンを感じるのか。
判り易さを第一にした脚本はいいのですが、劇中のフィクション部分のドラマで如何なものかと思うところもありました。
親子二代にわたって宇宙開発に取り組む三浦友和と藤原竜也の親子の物語はまだいいのです。
〈のぞみ〉の運用中止によって挫折を味わい、ふぬけた様になって暮らす父親との断絶が、〈はやぶさ〉の帰還によって回復していくという物語は、感動的ですらあります。
問題なのは、田中直樹、森口瑤子、前田旺志郎の家族の物語の方ね。森口瑤子は肝臓移植手術を待ち続けて入院している母親役なのですが、適合するドナーがなかなか見つからず、容態が悪化していく。この母親の容態と、通信途絶になった〈はやぶさ〉の状況が重ね合わされる。
「〈はやぶさ〉は失敗だ。仕方がない。また次のプロジェクトがあるさ」という安易な姿勢は、「すぐにあきらめていいのか」と云う問いかけに通じ、藤原竜也は〈はやぶさ〉を脇に置いて〈イカロス〉のプロジェクトに取り組もうとする姿勢に、後ろめたさを感じる。
前田旺志郎くんから「〈はやぶさ〉、あきらめちゃうの?」と訊かれて、歯切れの悪い答え方しか出来ない藤原竜也。
しかしいつの間にか、「〈はやぶさ〉が帰還すれば、お母さんの移植手術も巧くいく」という図式にすり替わっているように見受けられました。少年がそう信じたいのは理解できるが、それとこれとは話が別なのでは……。
潔く諦めるのが良いのか、見苦しくてもあがく方が良いのか。
「成功とは、意欲を失わずに失敗に次ぐ失敗を繰り返すことである」というウィンストン・チャーチルの名言も引用されておりましたが、明らかに本作は後者の方が正解であることは云うまでもありません。
大事なのはあきらめないこと。
しかしそのテーマと、いわゆる「難病もの」映画のような描写は、ちょっとねえ。うーむ。
結果として、〈はやぶさ〉は帰還を果たし、ハッピーエンドになるので、お母さんの移植手術も巧くいくことが、容易く予想できる。やっぱり安易ですかねえ。
このあたりのフィクション部分のドラマの出来で、競合他社の作品と比較してしまうと、やはり〈渡辺はやぶさ〉が一番でしょうかねえ。これは如何ともしがたい。
本作〈藤原はやぶさ〉と〈西田はやぶさ〉だと、好みによって分かれるか。どっちもクサいと云えばクサい。私は三浦友和と藤原竜也の親子ものがある分だけ、本作の方が良かったです。
その他の配役では、プロジェクト・マネージャ役が大杉漣。対外協力室長役が中村梅雀。
大杉漣は、佐野史郎や渡辺謙に比べて、明らかに似せようという努力を放棄していたように見受けられました。しょーがないか(笑)。
その代わり、中村梅雀は他社作品に比べても、一番本物に似ていたように思えます。
そしてクライマックスは当然のことながら、大気圏突入。
3D映画であることが遺憾なく発揮される場面です。火の玉となり、バラバラと分解していく〈はやぶさ〉の機体をカメラが回り込みながら、立体的に見せてくれる映像は素晴らしいです(CGですが)。
四散していく本体と、飛び続ける突入カプセルの画は、何度見ても泣ける。
「〈はやぶさ〉が持ち帰ってくるのはサンプルだけじゃない。未来の希望もだ」
砂漠に着地したカプセルの映像に、ようやく本作のタイトルが表示されるという演出も良し。
だから、『おかえり、はやぶさ』なのね。
エンドクレジットを流しながらエピローグとして、インタビューに答える中村梅雀やら、他の関係者達。あざといながらも「やはり目指すべきは一番です。二番じゃダメなんですよ」という台詞には頷いてしまいました。
やはり判り易いねえ。
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