まぁ、サーカス団の物語ですから「パレード」と云うのも連想できなくはありませんが、パレードするのは一座の人々や動物達であって、別に熱烈カップル達が行進していくワケではありません。劇中でもそんな場面は無いです。
冒頭、とあるサーカス団のチケット売場前に老人(ハル・ホルブルック)が独り。すでにショウは終わっているのに、帰ろうとする素振りを見せない。どうやら介護施設から一人でやって来て、帰れなくなったらしい。
係員が老人を事務所に案内し、介護施設に連絡を取ろうとしていると、壁に掛かった写真を見ながら、老人が語り始める。若い頃は彼もサーカス団で働いていたことがあったのだ。
係員がどこのサーカス団かと訊くと「ベンジーニ・ブラザース」と応える老人。それは大事故を起こして解散したという、サーカス業界では悪名高い一座だった。
老人が語る若かりし日々の追憶──。
物語の語り手であるハル・ホルブルックの出番は、このプロローグとエピローグ部分のみです。『大統領の陰謀』(1976年)のディープ・スロート役からすると随分と老けられました(当たり前か)。
回想が始まると、主人公はロバート・パティンソンにバトン・タッチ。『トワイライト』サーガのバンパイア青年ですが、今回は不自然な色白ではなく健康的なお肌です。
ロバートの相手役となるサーカス団の花形曲芸師がリース・ウィザースプーン。個人的には『キューティ・ブロンド』(2001年)や『メラニーは行く!』(2002年)のおかげでラブコメ女優のイメージが強いのですが(『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005年)とかはスルーしております)、今回はシリアスです。
そしてサーカス団の団長であり、三角関係の恋敵役となるのがクリストフ・ヴァルツ。『イングロリアス・バスターズ』(2009年)以降、あちこちでお見かけするようになりました。売れてきましたねえ。
監督はフランシス・ローレンス。『コンスタンティン』(2005年)、『アイ・アム・レジェンド』(2009年)ときて、いきなり恋愛モノか。でも過去の二作品より出来がよいデス。実はアクション映画の監督よりもロマンス映画の方が向いているのではないか。
時は大恐慌の嵐が吹き荒れる一九三一年。獣医となることを志望していた青年が、両親の死をきっかけに大学を中退し、移動サーカス団に入ることになって始まる物語。
この時代、サーカスは列車で街から街へ移動しながら興行していた。列車が到着するや、郊外の何もない野原に巨大なテントが立てられ、ピエロや動物達がにぎやかに宣伝のパレードを行う。
興行が終わるとテントは畳まれ、一座はまた列車に乗って次の街へ。あとには何も残らない。夢のように現れ、ひととき夢を売り、そして夢のように消える。
昔懐かしいサーカスの風景です。『地上最大のショウ』(1952年)なんてのも思い出します。
しかしいかに夢を商売にしていると云っても、それは表向きだけ。一座の中には人間同士の愛憎がどろどろと渦巻いている。
厳しい時代ですし、サーカス団の団長はほとんど人権を無視する暴君となって一座をまとめていたわけで、無用の人間を雇う余裕などある筈もない。
団長の方針に逆らう団員や、働けなくなった者は問答無用に捨てられる。
文字通り、「捨ててしまう」というのがスゴい。本当に走行中の列車から放り出すので、放り出された人間は怪我をするか、悪くすれば死んでしまう。しかし殺人事件になっても、警察も深く追求しない。ひどい時代です。
まるで『北国の帝王』(1973年)です(時代背景は同じ)。大恐慌時代って怖いデスね。この時代は禁酒法も施行されているという背景が興味深い。
たまたま獣医の卵だったことから、具合の悪い馬がいることを見抜いた主人公は、列車から放り出されずに済み、動物の世話係としての職を得る。
この馬を使ったホースショウで人気を博する曲芸師の娘がリース。実は団長クリストフの奥さん。
物語は絵に描いたような不倫と三角関係の展開に……。
こういう場合は、恋敵となる亭主が悪党であるように描かれるわけで、実際にクリストフは悪党です。一見、まともに見える常識人が狂気をはらむ演技はさすがデス。
クリストフ・ヴァルツのおかげで、団長が単なる悪役ではなく、苦悩する複雑な人物であると描かれ、物語に深みを与えております。
不況続きで興行に失敗は許されず、ギリギリと神経をすり減らし、重責に押しつぶされそうになっている。虚勢を張り、愛する妻だけが心の拠り所であると云うのに、どこの馬の骨とも判らぬ若造に横恋慕されて心中穏やかではない。
頭に血が上ると相手が愛する妻だろうが、誰であろうが暴力を振るってしまうのが欠点。動物虐待も平気で行う。団員は職を失うことを怖れて何も云えない。
哀れな男ではありますが、それでも弁解の余地のないくらい怒り狂ったときの行状は酷い。
具合の悪かった馬は結局、助からず、演し物に窮した一座は別のサーカス団からゾウを買い込むことになる。この時代、サーカス一座は喰うか喰われるかという過酷な競争をしており、破産したサーカス団はあっと云う間に他のライバル一座達に吸収されてしまう。
物語の原題であるサーカス象もそうやって入手した動物だった。
このゾウがまた賢い動物で、ちゃんと演技しているのが見事です。
『戦火の馬』は馬の演技が見事で、馬好きには堪らないでしょうが、本作は同様にゾウ好きには堪えられません(そんな人は少ないか)。ゾウ萌えはかなり特殊ですか。
最初は云うことを全く聞かないダメなゾウという扱いだったが、偶然、主人公はポーランド語で喋った言葉にゾウが反応することに気が付く。実は元の調教がポーランド語だったのに、サーカス団をたらい回しになる内にその事実は忘れ去られたらしい。
両親がポーランド移民だった為、主人公が英語とポーランド語のバイリンガルだったと云うのが幸いし、ゾウを扱うことが可能になる。おかげで興行は大成功。
ゾウとリースの華麗なショウが楽しいです。
全体として、全編を彩る昔ながらのサーカスの演し物の場面が見せ場です。朗々と口上を述べるクリストフ・ヴァルツも巧い。
そしてゾウを介して、主人公とリースの禁じられた恋が進行していく。
三角関係ですが、リースの方が団長を愛していたのかと云うと、かなり疑問です。恩義があるので仕方なく我慢しているという描写になっているので、主人公との不倫に正当性が生まれる。
しかし嫉妬深い団長は妻の裏切りを許そうとはしなかった。
一度は駆け落ちしようとするも、リースは団長に連れ戻され、主人公はリースを救うべく再びサーカス団に戻ろうとする。
最初から「大きな事故が起こる」ことが前提で語られる物語なので、いよいよクライマックスとなると、どんな事故が起こるのかとちょっと期待してしまいます。
時を同じくして団長に恨みを持つ複数の団員の手により、動物達の檻が解放されてしまい、興行中に動物達の大脱走が発生する。
それまでのクリストフ・ヴァルツの行状があんまりであったので、この事故も全くもって自業自得と云わざるを得ませんです。
観客はパニックを起こして逃げ惑い、大混乱。その混乱の最中で、遂に嫉妬に狂った団長との対決となる。
そして今まで動物を虐待してきた者には当然の報いというか、末路が待ち受けているわけで、明確な意思を持って仕返しをするゾウの演技が巧いです。ホントに賢い動物ですわ。
ゾウの一撃に耐えられる人間はおらず、団長もあえない最期に。
そしてエピローグ。再び、ハル・ホルブルック演じる老人の語りに戻ってきて、その後のハッピーエンドがサラリと語られます。なかなか波乱に富んだ人生だったようですが、ゾウもリースも幸せな余生を過ごせたことが判って一安心。
エンディングは、モノクロのスナップ写真風の映像で、老人の語ったとおり、その後の幸せな家庭の様子が紹介されます。なかなか雰囲気のある演出でした。
難を云うと──作品と直接関係ありませんが──、上映がデジタル上映だった所為か、字幕のフォントがかなり粗かったのが気になりました。映像は美しかったのに。
最初から字幕がブルーレイ仕様だったのですかね。スクリーンに拡大投影されると、読むのが辛いかったデス。
パンフレットもちゃんと制作していただきたかった。ビデオスルーにならないギリギリな公開でしたが、もうちょっと宣伝して拡大公開しても良さそうなものなのに。
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