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2011年12月21日水曜日

ワイルド7

(WILD SEVEN)

 望月三起也の原作コミックスは、折に触れて何度でも読み直したい傑作シリーズであると思っています。過去に実写ドラマ化されたり、アニメ化されたりしておりますが、正直、原作を越えるものは無いのではないかとも思っております。
 それが今般、実写で映画化。イマドキはCGの特撮技術も進んでいるし、バイクのアクションや、ガンアクションも見応えのあるものが期待できるのでは無いか──と、ちょっと期待するところもあったのですが。
 どうにも公開前の予告編を観る限りでは、期待しているようなものでは無さそうだと、限りなくイヤな予感が漂っておりました。
 しかしここまで無残な出来であろうとは予想できませんでした(泣)。

 原作が好きな人は、決して観てはイカン代物です。あんまりだ。
 しかしどうなんでしょ。逆に原作をまったく知らない人は、この映画をそれなりに楽しめるものなのでしょうか。とてもそうは思えないのですが……。

 とにかくもう、これが『ワイルド7』なのか否かという点はさておき、フツーのアクション映画として観ても、如何なものか。邦画の悪いクセが全面に出てしまっている。
 何もかも、すべてセリフにして、喋って説明する。
 どうにも無駄な説明セリフが多すぎる。
 これは何でしょうね。
 脚本家(と監督)はひょっとして俳優の演技というものを信用していないのでしょうか。信用したくないという気持ちになるのも、無理からぬような配役があるのも事実なんですけどね。
 とは云え、名優揃いにする必要も無いか。かつてアルフレッド・ヒッチコックは「俳優に演技力はいらない」とまで云ったそうですから(でも、それはヒッチコックの演出力があればこそで)。
 本作の監督は『海猿』シリーズの羽住英一郎。『逆境ナイン』の監督でもありましたか。

 メインのキャラクターのうちまともに描かれているのは──
 まずは草波隊長を演じる中井貴一。この方が一番、原作どおりと云うか、元のイメージに近く、演技も見事でした。正義感に燃えているクールガイ。
 次がセカイ。さすがは椎名桔平というべきか。多少、オヤジライダーではありますが、今回はそういう役だし、よろしいでしょう。
 あとはもうイマイチばかり。

 主役の飛葉にしても、瑛太が演じると優男すぎるような。
 そもそも飛葉が、自身をランブルフィッシュになぞらえるようなモノローグは必要ないでしょう。どうしてもやりたければ、黙って水槽の熱帯魚を見つめるだけでもいい筈では。
 飛葉が孤独な男だというのは、別に説明してもらわなくても判ると思うのデスが、わざわざ「ランブルフィッシュのように一人で生きていく」云々なんぞと独白してくれる(劇中では二回くらいこのフレーズを繰り返す。実にクドい)。云わなくてもいいのに。そんなの飛葉じゃねえよ(泣)。
 そもそも何故、ランブルフィッシュ? 闘魚が攻撃するのは互いが雄同士の場合だけなのでは。イマイチ、ピンと来ない例えです。青くてヒラヒラした綺麗な魚なんですけどね。
 昔、そういう題名の青春映画がありましたが、オマージュ捧げたかったのでしょうか?
 余談ですが、フランシス・F・コッポラ監督の『ランブルフィッシュ』(1983年)は、今にして思うと豪華な配役ですね。マット・ディロン、ミッキー・ローク、デニス・ホッパー、ダイアン・レインにニコラス・ケイジ等々ですよ。ここでミッキー・ロークの役が「モーターサイクルボーイ」と呼ばれていましたが、まさかバイクつながりの引用なのか。それになんか意味あるのか。

 他のメンバーに至っては、名前と経歴は紹介されるものの、特技を活かしたような見せ場もないし、どんなキャラだか印象が薄い。映画のオープニングとドラマの中の登場シーンで二回、キャラの名前と罪状を表示したりする演出もクドい。一度で充分でしょう。
 大体、パイロウとか、BBQとか、ソックスって誰?
 なんとなくパイロウが「両国」で、ソックスが「八百」の設定を多少、残しているように見受けられますが、名前を変更する理由がよく判らぬ。
 オヤブンとヘボピーは原作コミックスのキャラなので、なんとかイメージくらいは掴めますが、オリジナル・キャラはどんなヤツなのかサッパリです。
 要潤と本仮屋ユイカが、ワイルド7の存在を追う新聞記者の役で登場しますが、まだこちらの方がしっかり設定されています。

 バイク・アクションとしてはそれなりに演出されていましたが、物足りない感が拭いきれない。
 やはりリアルなバイクであることを追求した所為か。『ワイルド7』のバイクって、もっと奇想天外な装備があった筈で、それも作品の魅力の一つだったと思うのですが。
 後進走行くらいしてくれても良かったような。そういう場面は見た目に地味か。
 出来ることなら、ワイヤーを射出してビルの壁面を走るくらいの芸を見せてもらいたかった。あるいは、高層ビルから高層ビルへの綱渡り的なアクションがあってもいいと思うのですが。
 もうちょい特殊装備のメカニックな見せ場の演出を期待したかったのですが、これは実現しませんでした。予算の都合かしら。

 冒頭で人質を取って籠城した銀行強盗共を退治する出だしはそれなり。
 都内でバイオテロを企むグループとか、ワイルド7以外に悪党を狩る謎のハンター(これが深田恭子ね)が登場するというあたりまでは無難に進行していきますが、バイオテロはさっぱり盛り上がらないまま中盤で解決してしまいました。
 どうするのかと思っていたら、ラスボスはPSU(公安調査庁情報機関)の統括になってしまった。身内に最大の敵がいるというのは、理解できる設定ですが、このラスボスがイマイチでさっぱり盛り上がってくれません。
 吉田鋼太郎、ベラベラ喋りすぎデス。

 凶悪犯罪に対抗する為に、超法規的に個人情報収集を可能にした情報機関の統括が、職務上知り得た秘密を私的に流用し、好き勝手する──やめさせようにも国家機密まで強請のネタにされて打つ手無し──なんぞという、組織結成時に容易に想像できる事態への対処が無い上に、それへの対応をワイルド7にやらせるというのも妙な話ですわ。
 劇中でも「なんで俺達がそんな奴を。草波さんの仕事でしょ」とメンバーがボヤくのも無理からぬ話です。

 しかも問答無用に悪党は射殺(退治)するのがワイルド7であるのに──事実、冒頭の銀行強盗団は有無を云わさず退治された──、吉田鋼太郎にはベラベラ喋らせる。これがまた御丁寧に、相手のプロフィールを全部セリフで説明し終わるまで黙って聞いてあげるという悠長さ。モタモタする演出が観ていて辛かったデス。
 話し終わる前に撃っちゃえよ。
 おまけに『007』や『ミッション:インポッシブル』みたいに、ワイルド7のメンバーにもパーティで盛装して見せました的な演出は蛇足以外の何物でもない、と思うのデスがねえ。だってパーティ会場に潜入しても、することないし。

 結末の付け方も、安直と云わざるを得ません。
 そんなことが出来るなら最初から草波隊長がひとりでチョイチョイと片付けられるようなものではないか。ワイルド7が出動してPSU本部に殴り込みをかけるなんぞという、まったく必然性のカケラも感じられない展開でした。
 銃撃戦それ自体は、ど派手に撃ち合っていましたけどね。
 でも草波隊長の「狙いは統括だけで、それ以外は誰一人殺すな」という指令は……無視されてましたね。思いっきり。

 クサいセリフをドヤ顔で決められても白けるだけなのに、それが連発されるというのも耐えがたい。なんかもう徹頭徹尾、私とは波長の合わない映画でした。
 エンドクレジットの妙に楽屋落ち的な映像も、本編がまともならそれなりに面白かったと思うのですが、本編が締まらない上に楽屋落ちでは、さっぱり笑えませんでした(泣)。


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