しかもあちらはサスペンス・スリラーで──キャメロンはにっこり笑ってトムを殺そうとするサイコな女だった(笑)──したが、今度は違うぞ。皆が望んでいたとおりのロマンチック・コメディ活劇である。
ナンと云うか、ある種懐かしい感じがしました。
云うまでもなく、スパイ映画です。
が、近年のスパイ映画はどれもこれも〈ジェイソン・ボーン〉シリーズの影響を受けまくって、リアル指向に走りすぎの感があります。あの〈007〉ですらそうだし。
トム・クルーズ自身も『ミッション:インポッシブル』と云う持ちネタがあるのに、あえて別の──原作なしのオリジナル企画とは珍しい──スパイ・アクションに挑戦しようとはチャレンジャーですね。
これはアンチ・ジェイソン・ボーンな映画と云える。
つまりリアル指向に走りすぎず、適度に荒唐無稽で、オシャレで、粋な会話とムードを楽しむ映画。こういう映画も久しぶりだわねえ。
ジェームズ・マンゴールド監督は『ニューヨークの恋人』とか『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』の人か。割とロマンス系の監督ですが、西部劇『3時10分、決断のとき』なんかも撮る。この際、あのイマイチだったスリラー『アイデンティティー』については忘れましょう(思い出したくない)。
このマンゴールド監督曰く、『ナイト&デイ』は昔懐かしい『シャレード』や『北北西に進路を取れ』の路線を目指したそうな。
うむ。その意図はかなり成功していると申せましょう。
コメディ映画であると割り切って観れば、荒唐無稽も許せるのである。
飛行機に乗ったら、同乗客が全員刺客だった──添乗員もパイロットも!──とか、キャメロンが機内でトイレに入っている間に全員始末したトムが驚くキャメロンに悪びれることなく説明するのも、全部ギャグなのです。
そのまま涼しい顔でトムが飛行機を着陸させるのもお約束ですね。
今回、トム・クルーズは「絵に描いたようなスーパー・スパイ」を楽しげに演じています。窮地に陥っても決して慌てず騒がない。
「ちょっと困ったことになったね」程度で済ませてしまう。
それだけに素人であるキャメロンのパニクる様子が余計におかしく見えてくる。
狭い部屋の中で刺客と死闘を演じながらも、偶然ドアを開けて入ってきたキャメロンに「ああ、紹介しよう。こちらは僕の命をねらっている殺し屋さん」と非常に緊張感がない。
紹介された殺し屋も、動きを止めて「よろしく」と挨拶する。挨拶が済むと再び死闘の再開となる。
こんな展開は絶対に〈ジェイソン・ボーン〉シリーズや、最近の亜種では拝むことは出来ないですねえ。昔のジェイムズ・ボンドなら──ロジャー・ムーアあたりなら──似合いそうな演出ですが。人を食ったようなギャグ。
昔のジェイムズ・ボンドと云うと、全体的にロケーションの妙もこの仕様に則って行われています。
アメリカ国内からヨーロッパへ。東欧のしっとりした雰囲気とアルプス越えのロマンチックな列車の旅。地中海──さもなくばカナリア諸島あたり──の南海の楽園な島に行ったかと思えば(特に意味なくビキニ姿を披露するキャロン)、スペインはバルセロナでカーチェイスする。
実に観光旅行的な展開ですわ。
こういう楽しいスパイ・アクション映画もあったのだなあと再確認できます。最近は見かけなくなってしまって、絶滅危惧種的なジャンルになってしまったかと思われましたが、ちゃんと生き延びていたのである。よかったよかった。
敵味方が血眼で奪い合う機密情報というのも、この手の映画にふさわしいSF的な小道具ですね。大都市の消費電力を楽に賄えるほどの小型電池。広げる大風呂敷がイカニモなものばかりなので笑ってしまいます。
お笑いな映画ではありますが、アクションは本物。
トムもキャメロンも極力スタントなしで頑張ったのデス。しかし信じてくれる人が少なくて監督は不満だそうな。
「本当にトム・クルーズが七階から飛び降りるシーンを撮影したんだ! スタント無しで! なのに皆、すごいリアルなCG合成だったねって信じてくれない。本当に撮ったのに!」
昔気質な監督には難しい世の中になってきたということなのか(笑)。
今や、何でもCGですからな。
CGと云うと、もうひとつ。クライマックスのカーチェイスの場面があります。
バルセロナでの牛追い祭りの中を、バイクにまたがったトムとキャメロンが駆け抜けていく。背後からは殺し屋共が追ってくる。
牛は大挙して走り回り、車をひっくり返し、大混乱となる場面。
キャメロン・ディアスのインタビューによると、本当に本人が牛と一緒に走ったらしい。
しかし暴れ牛が車をひっくり返したりする場面が本当であるワケがない。当節、動物愛護団体の監視の目は厳しいですからな。つまり一部はリアルで、一部はCGということになりますが……。
この継ぎ目が判らない。見事なカット割りであると同時に、最近のCG技術の高さには驚くばかりです。でもこんなこと云うと、また監督が「本当に牛を使ったんだァ」と怒り出すかも知れませぬな(笑)。
やはりリアルとCGの使い分けが勝利の鍵か。
『ナイト&デイ』と前後して、暴れ牛が登場する別の映画を観ました。リメイク版の『十三人の刺客』ね。
あちらの方は……哀しいまでにCGの暴れ牛でした(泣)。
うーむ。東映の合成技術だってかなりの水準だと思うのですがねえ、それでもハリウッドには及ばないのか。それともこれは監督のセンスの所為か。或いは予算の桁の差か……。
オシャレで楽しいスパイ・アクション。ギスギスしたリアル指向なアクション映画ばかりの中にある一服の清涼剤。こういう時期だから成功したとも云えましょう。これがロジャー・ムーア全盛時代に制作されていれば、単なる007の亜種で終わっていたでしょうが。
続編などあり得なさそうな潔い終わり方もグッドです。単発で、しかもオリジナルな企画と云う、近年のハリウッドにしては珍しいねえ。だからこそトムとキャメロンという、絶対外しそうにない鉄板カップルの出演にしたのでしょうけど。
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