ソビエトによるアフガン侵攻を扱った映画というと『007/リビング・デイライツ』とか『ランボー3』くらいしか知らん。いや、本当はもっと深刻な映画が沢山あるというのは知っているのですが……。
自由のために戦うアフガン戦士達を助けたのはジェイムズ・ボンドでもなく、ランボーでもなく、実は一介の下院議員だったのです――というウソのようなホントの話。
トム・ハンクスが愛想はいいがパッとしないお気楽議員を楽しげに演じております。予告編ではもっとおバカな議員かと思っていたら、結構真面目なところもあって少しだけビックリ(笑)。
おバカ議員のクセに世界情勢には常に興味を抱いている。
中近東の国々の地理を知らない米国人が多い中で、アフガニスタン周辺の国の配置を全部暗記していて秘書を驚かせる場面があります。只者ではない。
そうは云っても最初はアフガン救済には乗り気でなかった議員が、人付き合いから断り切れなくてパキスタンを表敬訪問する羽目になり、そこで目の当たりにしたペシャワールの難民キャンプの惨状に良心のスイッチが入ってしまう――という展開は実に判りやすい。
ジェームズ・スチュワート亡き後〈アメリカの良心〉を演じられる役者はトム・ハンクスくらいか。ケビン・コスナーはどうしちゃったんでしょうね?
この難民キャンプのシーンは結構、リアルで衝撃的。実際にはモロッコでロケしたオープンセットらしいが、美術スタッフ入魂の考証が行き届いています。視覚効果にリチャード・エドランドなんぞという懐かしい特撮マンの名前が挙がっていて笑ってしまいましたが、あの難民キャンプの映像もエドランドが一枚噛んでいたのであろうか。
愛想が良くて人脈だけが取り柄の議員がフル回転してアフガン対策の予算を増額していく過程がコミカルに描かれています。最終的に、たった500万ドルしかなかった予算を遂に十億ドル――半分はサウジアラビア持ち――にしてしまう。
うーむ。考えてみると怖ろしい。
なんで個人に国家予算が左右できてしまうのだ。しかも実話だし。
トム・ハンクスの片腕となるCIA局員がフィリップ・シーモア・ホフマン。
海千山千の諜報局員で、熱意はあるが素人のお気楽議員を陰から支えるシニカルな男を巧く演じています。
特にトム・ハンクスに〈塞翁が馬〉の教訓話をする場面が印象深い。
ムジャヒディン達が遂にスティンガー・ミサイルを装備し、ソ連軍のハインド攻撃ヘリを撃墜し始めた。無邪気に喜ぶトム・ハンクス。
そこでホフマンが語る〈塞翁が馬〉。
何のことか判らずにきょとんとするハンクスの頭上を旅客機のエンジン音が轟き過ぎていく――明らかに911テロを暗示する場面。自分たちが訓練して武器を与えた〈自由の戦士達〉がその後どうなっていくかが観客には判ってしまう。
しかしいつの間に旅客機のエンジン音だけで、テロが連想できてしまうように条件付けられてしまったのか。映画って怖いなあ。
そしてソ連軍の撤退。その途端にアメリカはアフガニスタンから興味を無くしてしまう。
トム・ハンクスは懸命に戦後の復興を力説するのだが、もはや共産主義の脅威は消え、億単位の予算も消え、もう小学校一つ建てる予算もない。
ラストで出るチャーリー・ウィルソン本人のコメントがほろ苦い。
――私はうまくやった。でも最後にしくじってしまった。
まぁ、学校を建てたところで十年後のテロが未然に防げたかどうかは疑問ではありますが、善人の主人公が最後に挫折感を味わうという苦い結末に、自国に対する批判が垣間見えます。
ウィルソン議員は今はもう政界から引退して、イラク戦争には反対しているそうな。
ところでこの原題丸写しのカタカナ邦題は何とかならんのか。
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