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2016年8月11日木曜日

X-MEN : アポカリプス

(X-Men : Apocalypse)

 マーベル・コミックスの『X-MEN』シリーズの映画化第六作目です。本作で前日譚三部作が完結します。
 これで最初の三部作の後、前日譚も三部作化されて、合計六作品。ウルヴァリンが主役のスピンオフ・シリーズ二作も入れれば八作ですね。
 更に、ウルヴァリン主役のスピンオフも三部作化されるようなので、将来的には九作品になるのか。これに『デッドプール』(2016年)も含めればフタケタ突入ですよ。二〇世紀フォックス系列のマーベル・コミックス映画化作品の中では最も成功しているシリーズですね(それに比べて『ファンタスティック・フォー』は残念ですわ)。

 監督はお馴染みのブライアン・ジンガー。脚本もサイモン・キンバーグで、音楽もジョン・オットマンと、過去のシリーズにも参加している人達が多いので安定しております。
 今回はBGMに趣向を変えてクラシック音楽──ベートーヴェンの交響曲第七番ね──も使われておりますが、他の映画でもよく引用されておりますね。人気があるのか。

 前日譚として、六〇年代を描いた『X-MEN : ファースト・ジェネレーション』(2011年)、七〇年代を描いた『X-MEN : フューチャー&パスト』(2014年)に続いて、本作では八〇年代のX-MENの活躍が描かれます。
 X-MENシリーズを通して二〇世紀後半から近未来あたりまでの歴史を俯瞰できると云う趣向ですね。
 そして前作『フューチャー&パスト』のエンドクレジット後のオマケ映像で予告されたとおり、本作では最古のミュータント「アポカリプス」ことエン・サバー・ヌールの登場となります。

 このアポカリプスを演じているのはオスカー・アイザックです。
 オスカー・アイザックと云えば『インサイド・ルーウィン・デイヴィス/名もなき男の歌』(2013年)での主演が有名ですが──ゴールデングローブ賞にもノミネートされました──、SF者としては『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年)の方が忘れ難いでしょう。レジスタンスの凄腕パイロット、ポー・ダメロン役ですし。
 SF映画としては『エクス・マキナ』(2015年)にも出演しておられましたね。
 でも今回は特殊メイクが凄すぎて素顔が判りませんデス。声にもエフェクトがかけられているし、この役をオスカー・アイザックに配役する必要が本当にあったのか。
 紀元前から存在し、千回以上の転生を重ね、ミュータントの身体から身体へ魂を移しながら生き存えてきた超人であり、転生する都度、新たな肉体となるミュータントの特殊能力を重ね合わせて取得していったので、ほぼ万能と云われております。

 紀元前のエジプトで神と称されていたアポカリプスが八〇年代の世界に蘇り、世直しと称して世界を破滅させようとするのを防ぐと云うのが本作の本筋です。
 神にも等しい強大な敵との戦いを通じて、遂に組織としてのX-MENの設立に至るという流れでありまして、めでたく初期の三部作と繋がってシリーズも完結です(その筈ですが)。
 その意味では「最後の敵は、神」と云う宣伝文句は誤りでしょう。時系列的にはX-MEN設立の契機となるワケだから、アポカリプスは「最初の敵」になるのでは。
 とりあえずブライアン・ジンガー版の『X-MEN』──途中でブレット・ラトナーやマシュー・ヴォーンが監督したこともありましたが──は、本作でシリーズ全体の歴史が統合されることになり、色々と劇中では辻褄合わせの仕上げ的な演出が見受けられます。
 その分、過去の作品群を観ていないと人物関係がよく判らなかったりしますが、本作だけ先にポロッと観てしまう人の方が少ないでしょうか。

 個人的に、プロフェッサーの頭髪についての描写が、辻褄合わせの最たるものだと思っておりまして、本作では見事にチャールズ・エグゼビアの頭髪量がゼロになる瞬間が描かれたことが感慨深いですね。ジェームズ・マカヴォイ、遂にやり遂げました。
 ラストシーンで見せる眼光鋭いハゲのマカヴォイがなかなか男前です。パトリック・スチュワートより精悍なプロフェッサーになりましたね。
 出来ることなら、このままジェームズ・マカヴォイのプロフェッサー、マイケル・ファスベンダーのマグニートー、ジェニファー・ローレンスのミスティークでもっと続けてもらいたいところですが、制作費も高騰するから難しいでしょうか。
 と云うか、確かジェニファー・ローレンスは数年前からしばらく映画出演をお休みして休暇を取りたいと云っていたような気がするのですが、いまだに毎年ジェニファー出演作を観ているのはどうしたことか。

 プロフェッサー、マグニートー、ミスティークの主役の三人以外でも、ニコラス・ホルトのビースト、ルーカス・ティルのハボック、エヴァン・ピータースのクイックシルバー、ローズ・バーンのモイラ・マクタガートが登場しております。ジョシュ・ヘルマン演じるウィリアム・ストライカー大佐(とうとう大佐に昇進しました。おめでとう)も健在デスね。
 加えて、初期三部作に繋がる役で、サイクロップス、ジーン・グレイ、ストーム、ナイトクローラー達の青年時代が描かれているのも興味深いです。初期三部作ではX-MENの主力メンバーとなる連中も、八〇年代はまだまだ未熟で、自分の能力に自信を持てていない描写が微笑ましい。

 そして六作全てに皆勤賞なヒュー・ジャックマンのウルヴァリンも登場します。劇中ではカメオ出演でクレジットされないくせに、ヒュー・ジャックマンが大暴れする場面もあります(それ、もうカメオ出演じゃないから)。
 カメオ出演と云えば恒例の、原作者であるスタン・リー御大のお姿も健在でした。しかも今回は奥さんのジョアン・リーさんと一緒に登場しております。お爺ちゃん、ラブラブやね。
 今回は中盤の「世界中で核ミサイルが一斉に発射される場面」で、飛んでいくミサイルを見上げている一般市民の役でした。メガネのレンズにミサイルの噴煙が映り込んでいて、なかなか印象的なアップでしたね。

 総じて、シリーズの完結編として二つの三部作をつなぐ集大成的なところも目指しているので、新旧合わせて登場人物達が結構、多い印象を受けます。頑張って整理していますが、やはりシリーズを通して観ていないと、人間関係が判り辛いでしょうか。
 プロフェッサー、マグニートー、ミスティーク、ビーストの初期メンバーの関係とか、プロフェッサーとモイラ・マクタガートの馴れ初めとかもそうですが、ストライカー大佐とウルヴァリンの関係や、将来的にウルヴァリンとジーン・グレイとサイクロップスの三角関係も予感させる場面があったりします。
 加えて、クイックシルバーがマグニートーの息子であることをカミングアウトしたりもしますし、人間関係はどんどん複雑になっていきます。

 長い歴史を持つコミックスが原作でありますので、人間関係が複雑になるのはやむを得ないとしても、これはかなりややこしい。
 だからあまり深く突っ込んでいられないのも判りますが、あっさり処理しすぎではないのかと思える部分も無きにしも非ずです。特に、クイックシルバーとマグニートーの関係は、父と息子の対面にまでは至らなかったのが残念でした。
 それを云い出すと、クイックシルバーには姉のスカーレット・ウィッチもいる筈ですが、本シリーズでは遂に存在自体がスルーされております。マーベル・スタジオ製作の『アベンジャーズ』シリーズとはまた異なる展開ですね(逆にあっちの方ではクイックシルバーの方がお亡くなりになっているし)。

 まぁ、本作では世界的に指名手配されたマグニートーが、平穏な生活を手に入れようと十年かかって築き上げた幸せな家庭が一瞬で崩壊する悲しい場面もありますし、「妻と娘を亡くした孤独な男」に、ポロポロと隠し子が登場してくるのはギャグにしかなりませんか。
 親子と云えばもう一組、ミスティークとナイトクローラーの母と息子の関係もあったりしますが、本作ではまだ秘匿──明らかになるのは『X-MEN2』(2003年)になってから──されております(ミスティークの方は判っていて黙っていますね)。
 しかしミスティークとナイトクローラーはあからさまに肌の色が青いところが共通しているのに、誰も血縁関係にあるとは思わなかったのか。いやでも、ビーストやアポカリプスも青いから、肌の青いミュータントは結構フツーに存在しているのかしら。

 映画版は原作コミックスのキャラクターをつまみ食いしながら登場させていますので、本シリーズではエンジェルが二人登場することになってしまいました。
 『X-MEN : ファイナル・デシジョン』(2006年)に登場したエンジェル(ベン・フォスター)と、本作に於けるエンジェル(ベン・ハーディ)は完全に別人ですね。まぁ、背中に羽の生えたミュータントが「エンジェル」と呼ばれるのは、よくあることでしょうか(笑)。
 更に本作では、アポカリプスによって能力を強化されて「アークエンジェル」となる過程も描かれておりますが……残念ながら本作限りの登場ですね。残念。

 一作限りでは勿体ないのが、オリヴィア・マン演じるサイロックでしょう。これはもう原作コミックスのビジュアルが完璧に再現されていて、実に見事なサイロックです。
 オリヴィア・マンはジョニー・デップ主演の『チャーリー・モルデカイ/華麗なる名画の秘密』(2015年)でもお見かけしておりますし、グウィネス・パルトローやユアン・マクレガーと並んでチョビ髭を生やしたポスターが笑いを誘っておりましたが、正直それほど記憶に残っているわけではありませんです。
 ひょっとして本作のサイロック役が一番の当たり役なのでは……。

 オリヴィア・マンにそれほど出番があるワケではありませぬが、刀とサイキックブレードを使う二刀流の殺陣がキマっております。サイロックには、以後のシリーズにも登場して戴きたいが、本作がシリーズ完結編では望みは薄いでしょうか(スピンオフでも良いのよ)。
 何なら、お兄さんのキャプテン・ブリテンと一緒に『アベンジャーズ』シリーズの方に顔を見せてくれても……。いや、キャプテン・アメリカとキャプテン・ブリテンが並ぶとギャグか。
 でもチョイ役で一番印象的なのは、キャリバンと呼ばれる闇ブローカーの役で登場したトーマス・レマルキスですね。
 ミュータントでも何でも無いくせに、骸骨のような容貌が実に不気味でした。

 しかし、こう書いてくると、題名にも冠されている一番の悪役である筈のアポカリプスが、どうにも影が薄いように感じられてしまいます。おかしいな。
 ストーリーを転がす原動力ではありますが、世界を破滅の淵まで追い詰めるのは、実際にはアポカリプスと云うよりも、能力を強化されたマグニートーの方ですし。
 前日譚三部作を通して観ると、マグニートーの能力が次第に強くなっていき、初期三部作で見せるイアン・マッケランの絶大な能力に繋がっていくのであるという流れは理解出来るのですが。
 ひょっとしてアポカリプスの役割とは、マグニートーやストームの能力を開花させ、プロフェッサーの頭髪量をゼロにして、シリーズとしての辻褄を合わせるためだけのものだったりして。まさかそんな。
 黒幕的な存在ではありますが、黒幕すぎて目立たないのが不味かったか。

 アポカリプスの出番で印象的なのは、最初と最後だけなのが何とも。
 冒頭の紀元前のエジプトの場面は、プロローグなのにかなり気合いの入ったアクション場面でした。唯一の弱点である「魂を転移させる儀式中は無防備になる」ところを突いた暗殺計画に、死なないまでも数千年の眠りに就くという場面(でも活躍はしない)。
 アバンタイトル部分のくせに、壮大なピラミッドと神殿の描写に気合い入れまくりです。台詞もエジプト語(多分)に、英語字幕を付けたりしております。そしてCG全開のオープニング・タイトルで数千年の歴史を飛び越えいてきます。
 そしてクライマックスでは、プロフェッサーとの思念対決の場面で、圧倒的なパワーを誇示するように巨大化していくのですが、そこに至るまでが地味でしたかねえ。
 しかも中盤のクイックシルバーの超高速機動の場面の方が印象深いのですが(汗)。

 黙示録になぞらえて、四人の従者となるメンバー集めの過程に、それ程の必然が感じられないのも残念でした(四と云う数字にそこまで拘る根拠が感じられない)。
 まぁ、本作はどいつもこいつも、脇役に至るまで面子が濃すぎますし。
 おかげで「甦った神が世界を破滅させる」のがサイドストーリーのように感じられ、プロフェッサーとマグニートの友情の行方を描く方が気になります(いや、この前日譚三部作はそれがメインなのでは)。

 本作の時代背景が八〇年代ですので、冷戦が継続中であったり、ロナルド・レーガンが大統領であったりする時事ネタが挟まれているのは、それなりに興味深いのですが、小ネタとして一番笑えるのは、またしても『宇宙大作戦』のエピソードが引用されているところでしょうか。
 甦ったアポカリプスがエジプトの街でテレビを見かけると、第三一話「神との対決」を放送しております。再放送かな。
 前作『フューチャー&パスト』では第二八話「危険な過去への旅」が引用されていましたが、この楽屋落ち的演出はジンガー監督の趣味なのか。

 とりあえず、『ウルヴァリン : SAMURAI』(2013年)でへし折られ、『フューチャー&パスト』でもそのままだったウルヴァリンのアダマンチウム製の爪は、やっぱりストライカー大佐が元に戻しておいてくれましたので、次回のスピンオフ最終作では心置きなくウルヴァリンが斬って斬って斬りまくってくれることでしょう。一安心ですね。
 ここで時間線の流れがどうのと理屈を捏ね始めると野暮になるから黙っていましょう。

 シリーズ最終作ではありますが、まだウルヴァリンのスピンオフ最終作が控えていますので、恒例のエンドクレジット後のオマケ映像も健在デス。
 研究施設で保存されていたウルヴァリンの血液サンプルを、エセックス社なる企業が回収していきます。次の悪役はミスター・シニスターかぁ。
 アポカリプスと繋がりのあるキャラクターですが、本作では直接の関係は描かれなかったですね。そこをどのように料理するのか、ちょっと興味深い。




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