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2014年12月7日日曜日

フューリー

(Fury)

 ブラッド・ピット(以下、ブラピ)主演、デヴィッド・エアー監督(脚本も)による第二次世界大戦を背景にした戦争映画です。ど迫力の戦車戦が見どころで、スティーヴン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(1998年)以来の戦争映画の傑作と申せましょう。
 あまりにも迫力ありすぎで、ちょっと怖いところも同じです。結構、血まみれでどぎつい場面もありますので、鑑賞前には注意が(あるいは覚悟が)必要です。
 次のアカデミー賞(2015年・第87回)最有力候補と喧伝されておりますが、日本では年末年始の正月映画にこの手の宣伝文句を使うのは常套ですので、話半分程度に受け止めておくのがよろしいかと思います。それにホラ、デヴィッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』とかもあることですし。

 それにしても、まともに戦闘シーンを描いた戦争映画を観るのも久しぶりな気がします。最近、そういうのは制作が難しいんですかね。差別的な表現に関する規制も厳しいし、敵国兵士を単純な悪役にも出来ないだろうし(何より戦闘シーンの撮影は高く付きますしね)。
 戦時を背景にしたドラマや、ホロコースト関係の映画なんてのは近年でも幾つか思い浮かぶところですが──クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』(2009年)も、占領下のパリが舞台でしたし──、真っ正面から兵士が撃ち合い砲弾が飛び交うスペクタクルな戦場をスクリーンで観たのは久しぶりでした。

 でも最初、『フューリー』と云う題名だけ聞いたときには、ブライアン・デ・パルマが監督したカーク・ダグラス主演のSFスリラー映画のリメイク企画かと勘違いしてしまったのは秘密です。本作はあっちの『フューリー』(1978年)とは無関係です。
 ブラピが超能力を持った息子を政府の秘密機関から助け出すために奔走する……わけではありません(アレはもうリメイクとかされないんだろうなぁ)。
 そもそも「憤怒」とか「激怒」とか云う意味の短い単語を題名にするから重複するのであって、もうちょっと別の題名を付けてもらえないものでしょうか。『ボーイズ・アンド・パンツァー』でもイイです。いや、主演はそんな若い連中じゃないから『ガイズ・アンド・パンツァー』の方がいいか。邦題も『野郎共と戦車』な方向で。
 だって本作は「ある戦車に乗り込んだ小隊の物語」ですし。

 で、車長であるブラピを筆頭に、それほど若くはない戦車兵の皆さんはと云うと、砲手にシャイア・ラブーフ、装填手にジョン・バーンサル、操縦手にマイケル・ペーニャといった面々です。そこに副操縦手の補充としてローガン・ラーマンが配属されてくるのが発端。
 シャイア・ラブーフも割と若い方ですが、ローガン・ラーマンの方が新兵ぽいですね。『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(2011年)以降の出演作をスルーしているので、本作で久しぶりにシャイア・ラブーフを見ました。本作ではヒゲを伸ばしてワイルドな風貌になろうと努めております。
 一方、ローガン・ラーマンの方は未だに「パーシー・ジャクソンくん」と呼んじゃったりするのですが、『ノア 約束の舟』(2014年)ではノアの次男ハム役で頑張っていたのが思い出されます。戦車のセの字も知らない素人な雰囲気がよく出ていました。

 完全にオヤジなのがジョン・バーンサルとマイケル・ペーニャ。前者はマーティン・スコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)で、後者はルーベン・フライシャー監督の『L.A.ギャングストーリー』(同年)に出演しておりましたが、どちらもイマイチ印象が薄い。
 しかし本作に於ける彼ら歴戦の古参兵の疲れ切ったダレ具合や、礼儀作法なんて知ったことか的な荒んだ性格が実に印象的で、ローガン・ラーマンのピカピカな新兵ぶりとの対比が効いておりました。彼らとて元は普通の兵隊さんだったろうに、あまりにも長く戦場にいすぎて歪んでしまったことが察せられます。
 特にジョン・バーンサルのワイルドと云うよりも、粗野で野卑なゲス野郎的演技はお見事でした。戦場に長くいると、ああなってしまうものなのか。
 一方で、シャイア・ラブーフの様に聖書に救いを求めて信心深くなる奴がいるのも定番演出。

 ちなみに本作では、シャイア・ラブーフ、ローガン・ラーマン、ジョン・バーンサルといったユダヤ系俳優が米兵としてナチス・ドイツと戦う図式になっておりますが、これはたまたまでしょうか。そこまで政治的な配役ではあるまい。
 ユダヤ系俳優としてはもう一人、ジェイソン・アイザックスがブラピの上官として登場しておりますが、こちらも他意はないのでしょう(出番少ないし)。

 古参兵がどんな体験をしてきたのかについては劇中では語られません。北アフリカ戦線から戦い続けてきたと云うだけで推して知るべし。ただ一度だけ、ブラピが上半身裸になる場面があって、背中が無残な傷跡だらけである様子を披露してくれます。台詞では一切、語られませんが、このあたりに荒くれ戦車兵らが車長のブラピにだけは逆らわない理由もあるのでしょう。
 してみると、車長であるブラピがまだ冷静さを失わず、抑制の効いた振る舞いをしていることが奇蹟のようです。鋼の精神力と云うべきですが、静かな物腰でいながらドイツ軍のSS(親衛隊)にだけは容赦がない様子から、いつ爆発するか判らない危険物のようにも見えます。

 一般的なドイツ市民も登場しますが、ドイツ人だからと十把一絡げに扱わないブラピの態度は立派です。ただ、その分の怒りはすべてSSに向けられている。
 もはや相手がSSと見るや、問答無用に射殺しようとする姿勢が、ちょっとヤリスギであるように感じられます。一応、ブラピがそこまで態度を豹変させる理由として、戦闘を忌避したドイツ市民が行く先々で絞首刑にされている無残な光景も描写されております。自国の国民を守るどころか、吊して晒し者にする行為に、怒りを溜め込んでいるようです。

 原題の “FURY” とは劇中に登場するシャーマン戦車の名前とされております。砲身に手書きで書いてあるので、云わんとするところは理解出来ますが、戦車の名前と云うのはどうなんでしょ。
 どちらかと云うと、劇中でブラピが垣間見せるSS兵士に対する激烈な感情こそが「フューリー」なんじゃないのかと思えるのですが。ダブルミーニングなのかな。
 劇中ではやたらSSにだけは敵愾心を発揮するブラピの様子から、主人公と云えども完全な人間ではないと云いたいように見受けられました。事実、SSにも心ある兵はいるのだと云う描写がラスト近くに描かれますし。
 敵も味方も公平に相対的に描かねばならないのでイマドキの戦争映画は難しいですねえ。その分、ドラマが複雑になって深みが増すのでしょうが。

 先述のとおり、本作の監督はデヴィッド・エアーです。個人的にはキアヌ・リーヴス主演の『フェイク シティ/ある男のルール』(2008年)の監督さんとして記憶に残っております。『エンド・オブ・ウォッチ』(2012年)の方はスルーしておりまして。
 他にも、アーノルド・シュワルツェネッガー大先生主演の『サボタージュ』(2014年)なんてのもありますが、こちらもスルーしてしまいました(ちょっと観たかったのですが)。
 軽いB級アクション映画の監督のようでもありますが、本作のような重厚な戦争映画も撮っていますし、ちょっと社会派ぽいところもあるし、よく判らないデス。どんな注文もこなす職人監督なのでしょうか。

 職人らしいところは、劇中に本物のティーガー戦車が登場するところからも伺えます。世界で只一両きりの「現存する動く本物のティーガー戦車」なのだそうで、わざわざ博物館から借り受けて撮影したとか。リアリティの追求に並々ならぬコダワリを感じます。
 劇中では中盤の見せ場にあたる、シャーマン(四両)とティーガー(一両)の戦車戦の場面は一見の価値ありでしょう。味方が四両いても、一両きりのティーガーにサッパリ勝てる気がしませんデスね。味方の弾は当たってもはね返されるのに、敵の弾は一撃でシャーマンを撃破しますものね。
 他にもブラピと仲間達の戦車兵スタイルや、戦場での描写にはヤリスギなくらいのリアリティが伺えます。いや、素人には「ブラピの着ている戦車兵ジャケットが希少なタイプ」のものなのだと云われましても、よく判らないデス。

 とにかく戦車と戦車兵が主役の映画なので、戦車の砲撃シーンについては、今までの戦争映画とは一線を画すものを感じました。音響も迫力ありますが、砲弾が飛んでいく演出が興味深い。
 劇中でブラピが「火線を確認する為に何発か曳光弾も混ぜて撃つ」といった旨の説明をしておりまして、硝煙に煙る激烈な砲撃の最中でも、SF映画の光線銃さながらに砲弾が飛んでいく様子が凄いデス。ちょっとアニメぽいけど、やはりリアルな描写なんですかね。
 アニメと云いますと、近年の日本では『ガールズ&パンツァー(以下、ガルパン)』が大ヒットしておりますが、本作でもちょっと似たような場面に出くわしました。
 〈フューリー〉が敵のティーガーの背後に回り込もうとする場面。ティーガーの砲塔の旋回に追いつかれまいと必死に回り込む〈フューリー〉と、敵ティーガーがぐるぐると円を描く様子を俯瞰で捉えたショットは、ドコカデミタような。でもエアー監督やブラピは、ガルパンは御存知なかろう(これがオマージュだったらビックリですが)。

 でも本作に於ける戦争の描写はエグいです。決して「戦車道」なんて武道ではありません(当たり前だ)。もう人体破壊の演出は、何もそこまで描かなくてもと云いたくなるほどです。
 亡くなった戦車兵(ローガンくんの前任である副操縦手)の顔面の半分が戦車の車内にべったり貼り付いているとか、砲弾の直撃で兵士の首から上が瞬時に吹き飛ぶとか、パンツァーファウスト(対戦車擲弾)を撃ち込まれた戦車から戦車兵が火だるまになって飛びだしてきて、のたうち回った挙げ句に自決してしまうとか。
 中でも死体が踏みつぶされていく場面が忘れられないデス。もはや人体が路上に貼り付き、その上を戦車やトラックやらの車両が通過していくのですが、路面のぬかるみは雨なのか血なのかよく判らないくらいグチャグチャで……。

 そんな戦場の狂気に次第にやつれていく新兵のローガンくん。
 とにかく怪しい奴は撃て、相手が子供でも撃て、巻き添えはキニシナイ、と云ったブラピの教えを実践できないローガンくんに、業を煮やして敵兵を射殺させる場面もあります。ドイツ語で必死に命乞いする敵兵を前に、「勤めを果たせ!」と無理矢理ローガンくんに銃を持たせて、強引に射殺させるブラピ。新兵にそれはキツかろう。
 しかし戦車の知識も皆無で、古参兵にも馴染めずに回りから疎外されていたローガンくんですが、そんなエゲツない体験をさせられてしまうと、急に回りの先輩達が優しくなり始めるという描写がちょっと笑えました。仲間になるには必要な通過儀礼なのか。
 そして段々とローガンくんも殺しに馴れてきてしまう。それを見ているブラピの眼差しもやるせないです。

 本作はリアルではありますが、史実的な描写はあまりありません。冒頭から「一九四五年四月、ドイツに侵攻する連合軍は激しい抵抗に遭い苦戦していた」旨の説明が入りますが、あくまでもとある戦車小隊が体験した戦場の描写だけに留まり、大局的には何がどうなっているのか判らないようになっています(日付的にぼちぼち総統閣下が自決する頃合いですが)。
 なのでクライマックスの〈フューリー〉VS.ドイツ兵三〇〇人の激烈戦闘も、そこまでする必要があるのかよく判らない拠点防衛戦になっています。誠に戦争とは悲惨で、常軌を逸した殺し合いであると云うメッセージは重く、戦場には勝利も栄光もないのだと痛感しました。
 実に虚しいエンディングであるのも、近年の戦争映画らしいと申せましょうが、リアルすぎてちょっと疲れてしまいました。

 ブルーレイ化されたら購入するのもやぶさかではありませぬが、出来たら鑑賞後の口直しに、特典映像として「不肖・秋山優花里の戦車講座(番外編)」とか、付けてもらえないでしょうかねえ(汗)。




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