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2013年12月10日火曜日

ネオ・ウルトラQ Part.2

(NEO ULTRA Q)

 『ネオ・ウルトラQ』のイベント上映も、とりあえず月一回のイベント上映に足を運ぶことになりました。しかし『Part.1』と同様、このイベント上映は、日程的にツライものがあります。一週間だけの期間限定の上に上映もレイトショーの時間帯で、終わると終電間際ですから。
 我が特撮愛が試されているのだろうか。えらく寒かったことばかり憶えております。

 さて、今回のラインナップはこちら。

第10話 「ファルマガンとミチル」   脚本・いながききよたか、加藤綾子/監督・中井庸友
第4話  「パンドラの穴」       脚本・いながききよたか/監督・石井岳龍
第6話  「もっとも臭い島」      脚本・いながききよたか、山本あかり/監督・田口清隆
『総天然色ウルトラQ』 第20話 「海底原人ラゴン」 脚本・山浦弘靖、大伴昌司、野長瀬三摩地/監督・野長瀬三摩地

 『ネオ・ウルトラQ』は、基本的に主たる脚本がいながききよたかで、各エピソードを四人の監督で担当しています。
 前回の三エピソードの監督は各々、石井岳龍、田口清隆、入江悠でしたが、今回は新たに中井庸友監督のエピソードが入っております。

 実は中井庸友監督作品はひとつも存じませんでした。『ハブと拳骨』(2006年)とか、『カフーを待ちわびて』(2009年)なんてのがあるそうですが、スルーしまくり(恋愛映画とかは敬遠しがちですし)。『ネオ・ウルトラQ』の四人の監督の中で、一番知らない人でした(汗)。
 実は林海象監督の下で『私立探偵濱マイク』シリーズの制作に携わっていたり、同じく林海象監督の『探偵事務所5』シリーズでも、幾つかのエピソードを監督しておるそうな。でもTVドラマの方はさっぱり観てないです。申し訳ない。

 それにしても、劇場が広すぎます。このイベント上映は、東京では有楽町のTOHOシネマズ日劇で行われておるわけですが、六〇〇席以上もある広い劇場で……私が観たときにはガラガラでした。十人いるかいないかと云うくらい。
 まぁ、前回もそうでしたが、これは寒々とした光景です。空いていて楽に観られますけどね。
 一応、イベント上映の初日には、監督やら出演者やらのトークショーがあったそうですが、こんな状態ではトークする側が辛いのでは。針のむしろ状態だったのではなかろうか。まぁ、さすがに初日からそんな状態ではないか。
 と云うか、観に来る客のほとんどは初日分で八割以上なのではとも思えます。
 ネットの記事なんかを読みましたところ、このトークショーでは怪獣の着ぐるみも登場したそうで、今回は海底原人ラゴンも舞台上に出てきたとか。うーむ。面白かったのだろうか……。

 とりあえず、ブルーレイ上映が大スクリーンでもまったく遜色なく鑑賞できるというのは大したものです。

第10話 「ファルマガンとミチル」
 人間と怪獣は、本当に相容れないのか。人魚に恋した男がいたように、人間に恋する怪獣がいてもいいのではないか……って、なかなか強引な導入です。
 人間と怪獣の恋愛ストーリーと云うか、怪獣側からの一方的な片思いのエピソードですので、拒絶される怪獣の方が哀れっぽく描写されてしいます。しかも何やら弱々しい怪獣だし。
 このエピソードに登場する怪獣ファマルガンは、巨大ではなく、ほぼ等身大。しかも粗大ゴミや枯木が集まって出来た実にブサイクな形状です。冒頭、夜中に粗大ゴミがひとりでに転がり出して、集まっていく過程は──旧作の岩石怪獣ゴルゴスを思わせるような演出でしたし──、不気味な雰囲気があってよろしかったのデスが(でも誕生の原因とか説明なし)。

 だがファマルガンには、壊れた物を直す特殊な能力があったのだ。手をかざして念じると壊れた小物が元通りに(その割に自分の格好はお粗末ですが)。
 この怪獣ファマルガンと、陸上競技で将来を有望視されながら事故で再起不能になった女子高生ミチルとの関係が本筋です。車イスでの生活を強いられ、もう二度と走ることの出来ない身体を悲観するミチルを、ファマルガンが慰め、助けようとする。
 ミチルの動かない脚を、限界を超えて「修理」しようとするファマルガン。だが無理をしすぎてファマルガンの身体は……。

 このエピソードに本当に怪獣が必要だったのか疑問に思ってしまいました。そりゃ、『ウルトラQ』なのだから、怪獣は必要でしょうが。
 単に「超能力を持ったホームレスの老人」と少女の物語でも良かったような。
 スティーブン・キングの『ペットセメタリー』と、O・ヘンリーの『最後の一葉』を足して二で割ったようなエピソードなので、簡単に結末が予想できてしまうのが一番残念でした。

第4話  「パンドラの穴」
 「深淵を覗き込むとき、深淵もまたお前を覗き込む」と云う、哲人ニーチェの言葉が引用される実に寓話的なエピソード。
 場所も定かではない穴の中に落ちた男性と、穴の中に封印されていた悪意の権化マーラーとが、ひたすら対話し続ける異色のエピソードです。穴の中から自分を解き放てと取引を持ちかけるマーラー。だが云われるままにマーラーを解き放てば、世界に厄災を招来することになる。
 男はマーラーの誘惑を必死になって拒絶しつづける。
 一応、シリーズとリンクするように、男が南風原さん(田辺誠一)のかつての同僚であり、優秀な科学者だったとも語られますが、ほぼ全編がマーラーと男の対話劇です。
 開けてはならない扉があるとき、それでも科学者は開けてしまうものなのか。開けない方がいい扉もあるのではないか。科学者にモラルは必要なのか。

 前衛芸術のような黒い塊に一つ目と云うマーラーの造形が出色でした。そのまま最後までそのデザインでいてくれた方が良かったのにと思えるのですが、対話が進行していくうちに、次第にマーラーが形を変え始め、人型になっていくのがちょっと……。最終的にマーラーがどんな姿になるのか、予想がつくだけに(ニーチェの言葉なんか引用したりするから)、最初のデザインで押し通してもらいたかったです。
 元々、カラーでありながら色調の薄い作品ですが、特に今回は昏い穴の中のエピソードですので、ほぼ全編モノクロも同然であったのが、逆に印象的でした。

 朝になって穴の底に光が差し込み、助かったと思ったら──。これまた想定内のオチでしたが、ここまで投げっぱなしと云うのも逆に清々しいでしょうか。
 ある意味、今の世の中こそがマーラーが解き放たれた世界であるとも解釈できますし。

第6話  「もっとも臭い島」
 美しいものが、逆説的に醜いものから生まれることもある。麝香も採取したてのときは猛烈な不快臭がするとも云いますし。
 船が難破し、いずことも知れぬ孤島に漂着した女性が出遭ったのが怪獣セーデガン。穏和な性格で、遭難した女性を助けてくれるが、セーデガンの体臭は耐えられないほど臭かった。
 セーデガンは今回のエピソードの中で一番怪獣らしい怪獣です。体長も八メートル程度と、そこそこ巨大ですし。
 でも、ちょっとユーモラスすぎるでしょうか。円谷プロの特撮映画『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』(1972年)なんてのを思い出してしまいました。もう、ほぼダイゴロウそのままと云う感じです。
 ただセーデガンの鼻はデカい。この鼻からネバネバと強烈な悪臭のする粘液を分泌するので、温和しいと判っていても近づきたくない。しかしこの粘液は時間が経つと、えもいわれぬ香りを放つのだった。

 遭難した女性は帰還後、香水会社の女社長に納まり、謎の香水セーデガンは世界的に大ヒット。
 だが、孤島に生息する怪獣の存在が露見し、自衛隊が出動してしまう。装甲車両の砲撃で、セーデガンもあえなく退治です。
 自衛隊の火力で怪獣が退治されると云う、実に怪獣特撮ものらしいエピソードでした。短いカットでしたが、CG合成らしい装甲車の動きもお見事です。
 謎の香水セーデガンも、これで生産不可能になったかと思いきや……。
 相変わらず生産されている香水セーデガン。実は女社長は死に際のセーデガンの粘液を身体に浴びて、同じ体質を獲得していたのだ。
 ラストで女社長が振り返ると、その鼻はセーデガンと同じデカっ鼻に……。

 うーむ。こんなところで『マタンゴ』落ちとは。
 怪獣映画っぽいと云えばその通りですが、どうにもユーモラスな鼻の形がホラーらしくないと云うか、最後でホラーにする必然がよく判りませんです。
 それに、あのバカでかい鼻を見ると、手塚治虫原作の実写版『火の鳥』(1978年)を思い出してしまいます(猿田彦の鼻ね)。これもオマージュか。
 オマージュと云えば、セーデガンの島に「人食い怪奇植物スフラン」が生えていたと云うのも……本筋とは関係なかったですね(笑)。

 『ネオ・ウルトラQ』が三話続いたところで、いよいよ真打ち『総天然色ウルトラQ』です。

 海底火山の噴火と日本沈没ネタの「海底原人ラゴン」。
 ラゴンのネーミングがあらためてクトゥルー神話ぽいと感じられるのですが(深海に棲息していますし)、やっぱり承知の上のネーミングなんですかね。
 子供の頃はこのラゴンの描写に震え上がったものですが、時が経ってから観るとなかなかツッコミ処も多い展開でした。

 一番、笑えたのが、ラゴンは実は怪獣ではなかったことですね。図鑑にちゃんと載っていて、特徴から何から全部書いてあると云うのが凄い。あの世界ではフツーに棲息している生物なのか。
 ラゴンの全身が緑色と云うのは、後年に『ウルトラマン』にも登場しておりますので判っておりましたが、カラー化される際に映像が修復されすぎたのか、細かい点まで気がつくようになったのがちょっと興醒めでした。
 ラゴンの足がね、どこからどう見てもスキューバダイビングの足ひれをテープで巻いているようにしか見えなくて……。他にも、ラゴンの幼生がゴム人形丸出しだったり……。

 どちらかと云うと、島民の生活風景とか、博士の研究所の間取りが、レトロな昭和らしくていい感じでした。ここだけ観ていると『ウルトラQ』と云うよりも『木下恵介劇場』です(笑)。
 それに『日本沈没』や『JAWS』を先取りしたような演出が見受けられて、なかなか興味深いです。やっぱりスピルバーグも観ていたのでしょうか。
 とりあえず次回のイベント上映も観に行く所存です。




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