それにしても、『宇宙戦艦ヤマト』がリメイクされたと思ったら、今度は『宇宙海賊キャプテンハーロック』と来ましたか。松本零士作品は偉大だなぁ(厳密には『ヤマト』は違うかも知れませぬが、個人的にはあれも松本作品と見做したい)。
そのうち『銀河鉄道999』や、『1000年女王』も実写やCGアニメでリメイクされるのかしら。
しかし今度のハーロックはまた随分と趣の変わったハーロックです。まず普通のアニメではなく、モーション・キャプチャーも駆使したフルCGアニメになっている。荒牧伸志が監督だから。
『APPLESEED アップルシード』(2004年)以降、荒牧監督作品はフルCGばかりです。それはいいとしても、脚本はどうでしょうか。
荒牧監督の前作、『スターシップ・トゥルーパーズ/インベイジョン』(2012年)のように、映像は素晴らしかったが脚本はスカタンなフルCGアニメだけは勘弁してもらいたいところです。
本作の脚本は福井晴敏です。『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』でも馴染みのある方ですし、SFもそれなりに書いておられるから大丈夫でしょうか。ちょっと心配でありました。
結果として、本作は今までの「キャプテンハーロック」とは違ったものになってしまい、映画としての出来映えもビミョーなものになってしまいました。
例によって、ビジュアル(だけ)は壮大かつ美麗で素晴らしいのですが。ジェームズ・キャメロン監督の絶賛コメントはちょっとオーバーな気がしますケド……。
まず、まったく新しいストーリーになっています。「体制に反旗を翻す宇宙の無法者ハーロック」であるところは一緒ですが、基本設定がガラリと変わりました。
マゾーンとか出て来ません。当然、ラフレシアに出番がある筈も無い。
第一、本作では「宇宙に知的生命体は人類のみ」と云われております。アイザック・アシモフのSF小説のような設定です。
宇宙開拓時代、超光速航法を獲得した人類は銀河の海に乗り出したものの、どこまで行っても他の知的生命には出会えなかったと、初っ端のナレーションで語られてしまいました。マゾーン抜きか。
そして異星人と出会えぬまま人類は衰退期に入り、開拓熱は冷めて、人々は潮が引くように地球への帰還を始める。しかし地球が増えすぎた人口をすべて収容できるはずも無く、地球の帰還権を廻って壮絶な「カム・ホーム戦争」が勃発。
裁定機関となった〈ガイア・サンクション〉は、地球を全面立入禁止にしてしまい、何人たりとも地球には降り立てなくなる。そして一〇〇年が経過。
それでも辺境の惑星では太陽系への引き揚げ船が定期的に発進して、人口は少なくなって寂れる一方。これはそんな世界の、そんな時代の物語。
でも、それにしてはアルカディア号にはミーメが乗っていますヨ。ミーメだけは唯一の人類以外の異星人──ニーベルング星人の最後の一人──であると語られます。冒頭のナレーションと矛盾しています。例外があるなら、もうちょっと考えて戴きたかった。
福井晴敏の考えるSF設定と、松本零士の設定に齟齬が生じている気がしました。SF設定を効かせた超兵器が色々と登場してくれるのは面白かったのですが。
他にも独自の設定が見受けられます。ハーロックは一〇〇年以上も生きている不死の男だとか、アルカディア号は修理や保守の必要がないとか、異星文明の遺産〈ダークマター機関〉を搭載して航続距離はほぼ無限であるとか等々。宇宙の一匹狼でいる為に、不都合なところはオーバーテクノロジーで乗り切ろうとしているようです。
旧作とは違う独自性を出したかったのでしょうか。でも先日観た『ガッチャマン』(2013年)ほど、オリジナル設定を捨てていないので、何とか救われている部分もあります。
まぁ、艦首に巨大な髑髏を付けて海賊旗をなびかせていればアルカディア号ですけどね。
ちょっと新しいのは、アルカディア号が黒煙吹き上げて飛んでくる演出でしょうか。常に不気味な黒煙を周囲に纏い、宇宙空間でも黒煙を巻き上げながら、雲の中からヌッと髑髏の艦首が突き出してくる様子はなかなかにおどろおどろしく、迫力があります。
この吹き上げる黒煙が、〈ダークマター機関〉の産物であるようです。ダークマターって、そんなモクモクと吹き出すような代物だったのかと云うツッコミはさておき。確かに黒い物質だ。
不気味な髑髏が黒煙吹いて迫ってくる──と云う描写が、『ゴーストライダー2』(2010年)を思わせます(きっと偶然の一致ね)。
おかげでアルカディア号は、「海賊船」であると共に「幽霊船」とも云われております。神出鬼没であり、地球連邦艦隊の戦闘機群も、この黒煙のおかげで船体にダメージを与えられず、撃墜される一方です。
今回のアルカディア号は艦載機とか、一切発進させません。スペースウルフに出番なし。
無骨で、重厚で、時代がかったアナクロ的な雰囲気が増しているのはイイ感じです。今回のアルカディア号は小技を使わず、専ら重厚な船体で肉薄してぶちかます戦法を用いております。おかげで艦首の髑髏が何度もアップになって、それはそれで迫力ある画になっています。
また、艦橋に舵輪があって、艦長席が玉座のようであればアルカディア号か。こちらの方も違和感ないデザインです。
でも、「宇宙の海は俺の海」とか「星の果てを俺はさすらう」とか、懐かしいフレーズの主題歌が聴けなくなったのは寂しいところです。個人的には男性合唱の「さすらいの舟唄」が好きだったのですが。
配役も変わりましたねえ。ハーロックと云えば井上真樹夫さんだったのですが。
最近では山寺宏一がハーロックを演じております。OVA版の『キャプテンハーロック』はあまり観てはおりませぬのですが、それでも山寺宏一なりのハーロック像を構築しておられました。
今回もそのまま山寺宏一が演じるのかと思いきや、小栗旬とな。うーむ。正直、ハーロックのイメージにそぐわないのですが……。
まぁ、過去には『わが青春のアルカディア』(1982年)のように、石原裕次郎にハーロック(の御先祖様)を配役したトンデモなものもありましたし(裕次郎ハーロックの棒読み台詞は今でも忘れられん)。
小栗旬の声のおかげで、随分とハーロックが若返ったように感じられました。一〇〇年以上生きている年齢不詳の男だから、声が若々しくても立ち居振る舞いが重々しいと云う奇妙な印象が生じて、これはこれでSFぽいのですが。
総じてキャプテンハーロックの物語とは、ハーロックが未熟な若者の成長を助けてやるような筋書きです。ハーロック自身はあまり感情を表に出さず、表情も崩さず、落ち着いた大人であるので、ハーロックを主人公にすると甚だやりづらい(動かないし間違えない)。
だから失敗を繰り返す若者が苦悩と葛藤の果てに成長していくところを、ハーロックが見守っている図と云うのが安定している。個人的に、これが最も成功しているのは劇場版の『銀河鉄道999』(1979年)だと思いマス。
本作でも真の主役である若者が登場します。
辺境惑星──あからさまに『ガンフロンティア』ぽいのはお約束──で、乗組員補充に名乗りを上げてアルカディア号への乗船を許可される若者、ヤマ。だが彼は秘密任務を帯びた工作員だったのだ。
どう見てもこの人は(ちょっとリアルな)台場正だろうと云うツッコミはさておき。
青年ヤマを演じるのは、三浦春馬です。アニメには馴染みのない俳優さんですが、こちらは小栗旬よりずっと役に合っている感じがしました。
本職の声優さんより、舞台やドラマの俳優を配役しているというと、ミーメ役が蒼井優なのもそうですね。でも蒼井優は『鉄コン筋クリート』(2006年)や、『REDLINE』(2010年)でもアニメにも経験のある方ですし、特に問題はありません(そもそもミーメはあまり喋らないし)。
それからヤッタラン副長役が古田新太であるのも違和感なしデス。
周辺はベテランの声優さんで固めておられるので、そのあたりは安心できます。
有紀蛍は沢城みゆきですし、森川智之や坂本真綾もおられます。更にはアニメや洋画吹替でお馴染みの大ベテランがズラリ(小林清志、麦人、大塚周夫、有本欽隆、土師孝也、島田敏……)。但し、ベテラン陣は軒並み台詞が少ないのがちょっと哀しかったですけど。
大胆に設定を改変しつつも、基本的な構図は前述の通りなので、メインのストーリーはヤマと、ヤマの実兄であるイソラ(森川智之)、兄嫁ナミ(坂本真綾)で進行していきます。
特にイソラは地球連邦艦隊「ガイア・フリート」の艦隊司令であり、弟のヤマをアルカディア号に潜入させた張本人──つまりハーロックの直接の敵──でありますので、ドラマは「三浦春馬と森川智之と坂本真綾の三人の関係」で語られます(ここに小栗旬の出番はありません)。
過去の過ちから兄に負い目を感じ、兄嫁への思慕の情との板挟みになって苦しむ三浦春馬に対して、「己を縛るものと闘え」とクールに一言放つくらい。
ハーロックの扱いとしては、そんなにポンポン喋らせないのはいいのですが、やはり少ない言葉に盤石の重みを持たせる方に演じて戴きたかった……と思うのは贅沢でしょうか。
一応、ハーロックも過ちを犯す人間であり、一〇〇年前の「カム・ホーム戦争」で大罪を犯して以来、死ぬことが出来なくなったとか、贖罪の為に「あること」を成し遂げようとしているとか、色々と語られますが、説明してくれるのは敵役であるイソラ司令の方です。
ほぼ、森川智之の独演ナレーションによる回想シーンで真実が語られたりしますので、ここにも小栗旬の出番はない。画面上はモーションキャプチャーされたハーロックが動き回っていても無言です。
回想シーンではトチローも登場しますが、台詞は無し。
本筋に関係する改変された設定は詳細に語られる一方、お馴染みの設定は説明不足です。
本作でも船内コンピュータ室で独り言を話すハーロックの図が描かれます。オールドファンには言わずもがなでも、新規の観客には判らないのでは。特に、小栗旬や蒼井優が目当てで観に来た方には、理解できないでしょう。
それを云い出すとミーメがあまりにも献身的な理由──「ハーロックに命を捧げた女」と云い切るほどの強烈な動機──が判らず仕舞いです。ミステリアスな雰囲気だけは良かったのに。
ヤマとイソラの壮絶な兄弟喧嘩に決着が付く一方で、遂にハーロックの寿命も尽きる。しかしその遺志を受け継いだものが次世代のキャプテンハーロックとなる(ちゃんと劇中でヤマは片眼を失い顔面にに傷を受けます)。
人は変わっても魂は受け継がれる。繰り返す一瞬こそが永遠へと至る道なのだ。ある意味、真のキャプテンハーロックはこのとき誕生したのだと云えなくも無いエンディングでした。
そう考えれば、小栗ハーロックも広い気持ちで受け入れることが出来る……かもしれません。
でもまぁ、色々と投げっぱなしにしたネタはさっぱり回収されず、本筋だけ収束させて枝葉は全スルーですかとか、ツッコミたいところがテンコ盛りのエンディングでしたけどね。
● 訂正
上記文中で、当初は「井上真樹夫さんがお亡くなりになって久しい」と記述しておりましたが、これは私の完全な勘違いでありました。まだ御存命であります。失礼なこと書いてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
ブログを読まれた方から御指摘を受けて、慌ててその部分を削除いたしました。御指摘、ありがとうございました。
誤ったことを書いてしまい、お恥ずかしい限りです。 (2013/11/10)
ランキングに参加中です。お気に召されたならひとつ、応援クリックをお願いいたします。
にほんブログ村