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2013年2月9日土曜日

PARKER/パーカー

(Parker)

 ドナルド・E・ウェストレイクの小説では、ハードな〈悪党パーカー〉シリーズよりも、軽妙な〈ドートマンダー〉シリーズの方が好きです。どちらのシリーズも何度か映画化されておりますが、今まで〈悪党パーカー〉の方はスルーしておりました。
 原作は二〇作以上あるシリーズで、今までは初期の作品の映画化ばかりでしたが──『悪党パーカー/人狩り』とか『悪党パーカー/犯罪組織』──、本作はシリーズ後期の『悪党パーカー/地獄の分け前』の映画化です。五〇年近い歴史のあるシリーズと云うのも凄いわ(途中で二〇年ばかり中断したりしていましたけど)。
 ウェストレイクは多作な上に職人的な小説家でしたから──エドガー賞を三回受賞した作家は少ない──、どれを取っても一定水準が保証されているようで安心です。

 かつてはリー・マーヴィンや、ロバート・デュバル、メル・ギブソンが演じてきたパーカー役ですが、本作で悪党パーカーを演じるのは我らがジェイソン・ステイサム。名前を聞いただけで安心の、このB級感。本作でも相変わらず安定しております。
 何となく今までの歴代パーカーの中で一番、悪党っぽくて、アクションも頼りになる感じがするのは贔屓目でしょうか。
 しかし一作毎に俳優が変わってしまうのは如何なものか。是非、これを機にステイサム主演のシリーズとなるよう続編の企画もよろしくお願いしたいものです。

 本作の監督は名匠テイラー・ハックフォード。『愛と青春の旅立ち』(1982年)が一番馴染みのある監督作です。実は近年のハックフォード監督作品は観ておりません。
 『プルーフ・オブ・ライフ』(2000年)も、『Ray/レイ』(2004年)もスルーしておりますが、その次が本作であるとは、随分と間が空いてしまいました。しかもそんな名匠がベタなB級映画を撮るとは意外な感じデス。
 実は本作は、ベタなB級の筈なのに、いつものジェイソン・ステイサム映画とはひと味違うテイストが感じられましたので、そこが名匠の名匠たる所以なのかと感じ入った次第デス。

 本作ではジェイソン・ステイサムの相手役として、ジェニファー・ロペス(以下、ジェニロペ)が出演しております。
 パーカーには恋人クリス(エマ・ブース)がおり、ジェニロペは事件の渦中で出会うOLに過ぎないのですが、そこはそれ。パーカーに関わっていく内に深みにはまって危険に陥り、同時にパーカーに惚れていくという定番展開が待っております。
 だから本作でのジェイソン・ステイサムは「両手に花」状態。しかしあくまで恋人一筋で、ジェニロペには必要以上に接触しないよう心がけている。ストイックですね。

 今までステイサム主演の映画では、アクションとは別にロマンスを描くと、途端に浮いてしまうような感じがしたものでした。『デス・レース』(2008年)とか『キラー・エリート』(2011年)とか、およそ愛妻家であるとか、幼なじみの恋人がいるなんて設定は似合わない人だったのに。『エクスペンダブルズ2』(2012年)も、恋人とベタベタしている場面だけは浮いていましたね。
 だから女っ気を極力減らした『メカニック』(2011年)や『SAFE/セイフ』(同年)の方が、似合っている。ステイサムにロマンス描写は不要である。
 と、今まで思っていたのですが……。

 何と云うことか。本作では犯罪サスペンス展開が進行していく間に挿入されるパーカーのロマンスが、ドラマにしっくりと馴染んであります。いつもならビミョーに浮いてしまって、そんなことより野郎同士の駆け引きの方を見せてくれと注文を付けたくなるのが常であったのに。
 ステイサムとジェニロペのツーショットにも違和感を感じないとは。
 これが名匠の技というものか。何となく、監督の力量というものを感じてしまいました。流石はテイラー・ハックフォードです。
 本作はジェイソン・ステイサムのロマンス描写が成功している希有な例として記憶されることでしょう。

 でもやっぱりストーリーはベタベタなB級展開です。黄金のパターンというか。
 凄腕の犯罪者パーカーは、自身に課した掟──「善人からは盗まない。悪人しか殺さない。仕事はきちんと完璧に」──を貫くストイックな強盗である。一匹狼が常ではあるが、ときには大きなヤマの為に集団を指揮することもある。
 古い友人ハーリー(ニック・ノルティがこんなところに!)から紹介された仕事に乗ったパーカーは、オハイオの遊園地で売上金一〇〇万ドルを首尾良く強奪するが、この一件だけで手を引き、一味からは抜けようとした為に殺されかかる。
 逃げ延びはしたものの、瀕死の重傷を負ったパーカーは一味への復讐を誓う。

 パーカーを裏切る一味のリーダー役がマイケル・チクリスでした。ちょっとふくよかなドナルド・プレザンス的な俳優さん。割と善人役や刑事役が多い人でありますが、本作では汚い悪党を演じております。
 SF者には『ファンタスティック・フォー』(2005年)の岩石男シング──個人的には「ガンロック」と呼びたいけど──が馴染み深いでしょうか。素顔が判らないくらいの特殊メイクですけど。

 それよりニック・ノルティが出てきたことの方が驚きですね。すっかり白髪のジジイになっておられる。
 この枯れちゃった感は最近のブライアン・デネヒーと良い勝負のような気がします。お元気そうなのが何よりでありますが、何となく本作のニックは、ちょっと精彩を欠くというか(脇役ですけど)、出番が少なかったのが気になりました。
 特に理由も無く、ニック・ノルティなのだから、ラストでジェイソン・ステイサムの助っ人に登場してくれるに違いないと信じていたのですが(勝手に)、そんな展開にはなりませんでした。残念。

 強奪した金は、次の大仕事の軍資金にするのだという情報だけを頼りに、チクリス一味を追っていくステイサム。
 重傷を負って病院に収容されるも、病院を抜け出し、救急車をかっぱらって、自分で自分を治療しながら逃走を続ける。盗んだ車をあちこちで乗り捨て、また新しい車を盗み、途中で活動資金も補充しながら──盗む金には保険が掛けられているので闇雲に強盗しているのでは無いと判るのが巧いですね──追い続けるステイサム。
 スピーディな職人的強盗描写が挿入されるのが、なかなか気持ちいいです。どちらかと云うと金を盗むよりも、車を盗む描写の方がちょっとお手軽に思えました。
 どうしてそんなに次から次へ車を盗んでいけるのか。あまりにも不用心な人が多すぎデス。

 一味の中にシカゴ・マフィアの縁故者がいることから、パーカーが追ってくることに気付いたチクリス達はシカゴの組織に援助を求める。
 ここで派遣されてくる組織の殺し屋さんが、なかなかスマートでしぶとい奴でした。単なるヤラレ役だろうと思っていたら、これが結構、出番も多いし粘ります。これはこれで、なかなか侮れないプロフェッショナルな奴でした。
 音も無く静かに忍び寄り、ナイフで切り裂くと云うスタイルが古風ですが玄人好みですね。
 最終的にステイサムにかなりの重傷を負わせるほどに健闘してくれます。

 後半は、チクリス一味が何を企んでいるのかを突き止め、その大仕事の成り行きをサスペンスフルに描いてくれるのも面白い。悪党一味の強奪計画と、その上前をはねようとするステイサムの計画が同時進行していく。
 しかし派遣の殺し屋との死闘で重傷を負い、巻き込むまいと思っていたジェニロペを巻き込んでしまうのも自然な流れで、巧い演出でした。

 笑えるのはジェニロペの母親役のおばさん(パティ・ルポーン)が飼っている小型犬が、ステイサムに懐く場面ですね。
 あからさまに怪しいステイサムが血まみれで転がり込んできたのに、「犬が吠えないわ。いい人ね」と無条件に信じて助けてくれる。普段はガミガミうるさい母親だったのに、イザというときには肝の据わった一面を見せてくれると云う演出が楽しいです(これもお約束ですね)。
 この母親役のパティ・ルポーンとは、ブロードウェイの大女優だそうで(トニー賞受賞歴のある大御所でしたか!)、先のニック・ノルティといい、チョイ役が妙に豪華です。これも監督の人徳でしょうか。

 本作はプロフェッショナル達の強盗計画が静かに進行していく描写が見せどころであり、脳天気な銃撃戦はありません。ド派手なカーチェイスも無く、その意味ではアクション映画としては地味であると云えましょう。
 でもその分、犯罪サスペンス映画としては、十二分な出来であると思いマス。

 相手がマフィアにコネがあろうと、問答無用に借りは返すぜと道義を貫くステイサム。そんなことをしたらあとで大変なことに……と思ったら、更にその上を行くエピローグがあったのも笑えました。まさにステイサム無双。
 また、ジェニロペとのロマンスも深入りしません。最初から失恋確定のジェニロペが哀しいですが、それを補って余りあるハッピーエンドもありますし。
 受けた恩は必ず返すと、最後まで侠気を貫くステイサムでした。是非、続編をお願いしたい。

 ところで、つい先日はリー・チャイルド原作の〈ジャック・リーチャー〉シリーズをトム・クルーズ主演で映画化した『アウトロー』(2012年)を観ましたが、どちらかと云うと本作の方が「アウトロー」と題するに相応しい気がします。リーチャーさんは正義の人ですが、パーカーは正真正銘、悪党で無法者ですから。
 出来ることならリー・チャイルドと同じように、原作者ドナルド・E・ウェストレイクも劇中にカメオ出演したりしてくれると嬉しかったのですが、既にお亡くなりになっているので無理か(2008年12月逝去)。
 エンドクレジットでは、「ドナルド・E・ウェストレイクに捧ぐ」と献辞が表示されます。

 でもウェストレイクは〈悪党パーカー〉シリーズを書くときは、ペンネームを「リチャード・スターク」にしていたので、献辞の名前もそっちの方が良かったのでは。
 今後もウェストレイクの小説を映画化するなら、今度は〈ドートマンダー〉シリーズも復活させてくれませんかねえ。
 あふがにすたんばななすたんど。誰か『ホット・ロック』をリメイクしてくれ。




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