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2013年2月27日水曜日

とある魔術の禁書目録/エンデュミオンの奇蹟

(A Certain Magical Index)

 「とある」で始まるラノベのアニメ化作品はと訊かれると、「禁書目録」とは云わずに「超電磁砲」と応えてしまう私です。鎌池和馬による原作を読まないまま、TVシリーズの方は『とある科学の超電磁砲』を贔屓にしております。『禁書目録』の方はあまり熱心に観ていないので……。
 しかしこの劇場版は予想外に大ヒットしているそうで、おかげで先着でもらえる入場者特典が、早々と品切れになる劇場が続出であるそうな(私は何とか確保できましたが)。
 この特典、原作者書き下ろしの電撃文庫が一冊丸ごともらえると云うのが太っ腹やね。これを機会に原作も読んでみようかしら(この特典小説だけでも)。

 先述のとおり、私は『超電磁砲』の方が贔屓でありますので、鑑賞前には、上条くんメインで進行していくのであろう本作を観ても面白いのかどうか、イマイチ不安なところがありました。個人的には、主人公は上条くんではなくて、御坂さんにして戴きたかったデス。
 しかしほぼオールスターキャストが顔見せしてくれるファンサービスの充実した作品でありましたので、かなり満足いたしました。よかった、佐天さんにも出番と台詞があったヨ(嬉)。
 欲を云うなら婚后さんにも、もっと出番が欲しかった。劇場版でも終盤のオチつけ要員となるのを期待していたのですが。

 まぁ、尺が九〇分である上に、劇場版用のゲストキャラをメインに据えた、独立した番外編的オリジナル・エピソードですので、準レギュラーの大多数がチラ見せ程度にしか登場できないのは、やむを得ませんですね。
 しかもそれが誰であるか説明がないので、判らなかった人はTVシリーズで補完しなければならないでしょう。
 一番、説明不足なのは一方通行くんと打ち止めちゃん、および御坂妹達ですね。設定が判らない方は、ラスト近くで突然、現れて物凄いパワーで主人公を助けてくれる場面が意味不明であることでしょう。

 テキストにルビが打てませんので、そのまま書いておりますが「一方通行」と書いたら「アクセラレータ」、「打ち止め」は「ラストオーダー」、「妹達」は「シスターズ」と読み替えて下さい。
 云うまでもなく「禁書目録」は「インデックス」、「超電磁砲」も「レールガン」ですが、それが読めない人はそもそも本作を観に行ったりしないか(このレビュー記事も読まないよね)。
 漢字と違う読み方の設定用語が多すぎるのが原作の作風ではありますが、実に難儀です。
 おまけに登場人物の名前も、凝りに凝った珍名奇名ばかり。

 新たに登場する本作のヒロインは二人ですが、これがまた発音し辛い。
 鳴護アリサ(めいご ありさ)とシャットアウラ=セクウェンツィア。漢字でなくても読み辛い。
 レディリー=タングルロードもそうね。ただの「社長」でエエやん。
 そう考えると、佐天涙子(さてん るいこ)はシンプルな名前だなあ(贔屓)。

 本作は単なる近未来SFではなく、「超能力が科学によって解明された世界」と云う現実とはビミョーに異なる平行世界が舞台ですので、宗教も現実のものとは似て異なります(そのまま使ったらキリスト教からクレームの嵐でしょう)。
 同様に、私は劇中の世界は「珍名が一般的な別世界である」と理解しておりますが、発音しづらい名前をスラスラと口にする声優さん達に感心いたします。流石はプロだ。

 さてある日、上条当麻とインデックス(やはり発音通りに書こう)は、路上で歌うストリートミュージシャンの少女アリサ(三澤紗千香)と知り合う。歌うことが大好きな少女アリサは、学園都市に完成間近の宇宙エレベータ〈エンデミュオン〉のキャンペーンガールとしてオーディションに採用されるが、採用と同時に命を狙われ始める。
 アリサを狙うのは科学サイドと対立する魔術サイドの魔術師ステイル=マグヌス(と、その愛弟子達)だった。更に、アリサを保護するべくシャットアラウ率いる民間秩序維持部隊が介入してくる。

 近年のSFアニメで、ミュージシャンが大きく扱われている作品と云うと、やはり『マクロスF』でしょうが、本作も負けておりません。
 これは劇場版の『マクロスF』二部作と同じく吉野弘幸の脚本だからでしょうか。監督はTVシリーズと変わらず錦織博なのですが。
 とにかくミュージック・シーンへの気合いの入れようが半端ではありません。

 劇中で歌われる挿入歌が六曲もあり、ステージのシーンも三回、その衣装も振付も実に見事です。もう『マクロスF』かと見紛うばかり。九〇分の尺の中によく詰め込みました。
 アリサ役の三澤紗千香の歌唱力も見事です。その上、ちゃんと芝居も出来る。井口裕香や阿部敦と絡んでいても遜色なし。
 しかもクライマックスでは、歌唱と戦闘がリンクする演出になっておりますので、ヒロインの歌がガンガン流れる中をミサイルが乱舞して爆発するという場面もありますからねえ(笑)。

 気合いの入ったステージの演出は衣装デザインに、いとうのいぢを始め三人の電撃文庫イラストレーターが助っ人デザイナーとして起用されているところにも伺えます。実に華麗です。
 また、衣装のみならず、漫画家の星野リリィがゲスト・キャラクターデザインに入っております(台詞の無いキャラでしたが)。

 総じてドラマとしては楽しめるストーリーでしたし、シリーズのお約束も色々守られております。女の子の入浴シーンと〈カミジョー属性〉の描写も怠りなしです。
 が、設定に関して多少、云いたいことが……。
 本作ではSFらしく「宇宙エレベータ」をネタに取り上げております。個人的には「軌道エレベータ」と呼ぶ方がカッコいいと思うのデスが、それはさておき。
 巨大な構造物をバベルの塔になぞらえ、衛星軌道上に前代未聞の魔方陣を展開するのはいい。類い希な歌姫の歌声と聴衆の熱狂を供物として、途方もない術式を実行するのもいい。
 私が引っかかっているのはエレベータの形状でして。

 物語の舞台となる学園都市は東京近郊の西方にある設定なので、よく立川市周辺が背景に描かれております。そこに巨大にそびえ立つ塔があって、それが宇宙への架け橋〈エンデュミオン〉である。
 SF者のツッコミは無粋であるとは承知の上ですが、日本のような緯度の高い場所に宇宙エレベータを作るのは相当な苦労があったことでしょう。「かなり難しかった」とは劇中でも語られておりますが。
 しかし、それが「垂直に遥か上空まで立ち上がっているタワー」というイメージなのは如何なものか。
 正しくは「赤道方向に傾斜して昇っていくスロープ」のような外観になるのでは……。当然、中継ステーションは赤道上空にないとマズい筈ですし、そこでクライマックスの戦闘が行われるとしても、それは学園都市の直上にはないので、何かが落ちても学園都市に被害は及ばないと思いマス。したがって初春や佐天さんがそんなに慌てる必要もなかったような(別の場所が大騒ぎになるか)。

 何より、宇宙エレベータが倒壊するとしても、そんなにあっさりと地上に落ちて来るものではなかろうと思われ、避難誘導にも余裕があるのでは……などと云う野暮なツッコミはますます興醒めですね(他にも色々あるけど皆まで云うまい)。
 しかしSF者としては「日本に建てた宇宙エレベータが垂直に天まで昇っていく」などと云うイメージこそ幻想であると思いますし、そのような幻想は打ち壊してしまうべきである──と、上条さんなら仰るのではないか。野暮デスカ。

 そーゆーところが気になるくせに、神裂さんが身ひとつでシャトルの上に仁王立ちになって、飛んでくるミサイル群を日本刀で叩き落とす場面にはさほど違和感を感じないとはどうしたことか。まあ、〈聖人〉だしねえ。
 その後、神裂さんは一足先に自分だけ大気圏突入して帰ってしまいましたが、大丈夫なのですか。〈聖人〉なんだから、そこはスルーしてもいいのか。

 オールスターキャストで破局の回避が割とあっさりでしたが、「奇蹟とは可能性を信じて頑張る者にもたらされるのである」と云う、ポジティブな主張は好感が持てるところです。
 まぁ、魔術サイドの描写は雰囲気あるのに、科学サイドの描写に大雑把なものを感じてしまうのは、私が妙にこだわりを持っているだけかも。判りやすさ重視の演出だと思えばいいのか。
 判り易いというと、シャットアウラの乗る機動メカが、光学迷彩装備の八本脚のメカなのも、『攻殻機動隊』への判り易すぎるオマージュなんでしょうか。

 それから、入場者特典の文庫本やPSP版のゲームといった、本作に至る前の前日譚があって、ところどころ故意に語っていない部分もあるようです。色々考えて商売されてますねえ。
 本作では最初から美琴さんがアリサと知り合いだったりしますが、その経緯については語られておりません。他にもタングルロード社長が不死になった経緯も判らないままです(思わせぶりなカットが挿入されておりますが)。
 これらもまた別のところで語られたりするのでしょうか。

 余談ながら本作では、劇中に見知った場所がポロポロ登場するので、別の意味で面白かったデス(多摩市民には馴染み深い場所が多い)。しかもそれらの背景美術が美しい。
 TVシリーズの頃から、立川界隈が背景に描かれていると云うのは存じておりましたが、劇場版では立川と並んで多摩センターも背景に採用されておりました。
 たまたま私は本作を〈ワーナーマイカル多摩センター〉で鑑賞しましたが、入口に貼られたポスターに「御当地アニメ」と書かれていたので、ナンノコッチャと思っていたら、多摩センター駅前の景観が背景に描かれているシーンがあって笑ってしまいました。

 序盤の戦闘シーンがモロに多摩センター近辺。バッティングセンター(立川オスローかな?)を出た後に続くシーンから、ステイル達との戦闘と、シャットアウラの介入までのシークエンス。
 戦闘の最中にワーナーマイカルの看板が一瞬だけ映っておりまして、自分が今いるシネコンのすぐ前でドンパチが行われている描写に、妙な感じがしました(笑)。
 丁度、シネコン前がまさに聖地になっています。
 カメラがもう少し左にパンすれば、サンリオ・ピューロランドも映ったのに(惜しいッ)。
 しかしあの場面のつなぎだと、アリスと上条くん達は立川から多摩センターまで、結構な距離を移動していることになりますね(モノレールで二〇分くらい)。

 本作は立川の〈立川シネマシティ〉でも上映しているので、あちらでも「御当地アニメ」の宣伝をしているのかしら。劇中でインデックスちゃんが大食いしていた「ジョナサン立川北口店」で飯を食う巡礼者達が、きっと後を絶たないことでしょう。
 他にも、昭和記念公園の立川口から入ってすぐの噴水とかが聖地になっているように見受けられます(入園料が有料ですが)。
 とりあえず、立川市と多摩市は『とある魔術の禁書目録』をもっと大々的に宣伝するべきである。モノレールもちゃんとラッピングして下さいな。

● 追記
 知人から「多摩センターは『禁書目録』TVシリーズ第一期の頃から背景に登場している」旨の指摘を戴きました。うーむ。こちらの不勉強だったようです(ちゃんと観ていないと、こーゆーことになる)。ウカツなこと書いてすんません(汗)。
 しかしそんなに初期の頃から描かれているのに、地元でさっぱり盛り上がっているようには見えませんが……。




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