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2011年3月5日土曜日

ドラえもん

新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ天使たち~

 1986年公開の『のび太と鉄人兵団』のリメイクですね。
 過去のドラえもん映画は数えるほどしか観ていないので、比較は出来ません。かなり名作だと云われておりますな──ドラえもん映画は皆、名作でしょうが。
 80年代当時は、ドラえもん映画を観に行くほど子供ではなく、さりとて一緒に連れて行くような小さな子供もいなかったし……。

 しかるに今や、もう春夏秋冬、子供向け映画が公開されれば必ず連れて行かねばならない状況である。
 『仮面ライダー』『スーパー戦隊』『プリキュア』『ドラえもん』『ポケモン』……。うちのムスメ共はアニメも特撮も大好きである。誰の影響だ。俺か。
 映画のOPでは一緒に歌い出すし。まあ、劇場内ではお子様達は皆、歌っておりましたが(笑)。

 四半世紀経ってのリメイクですが、どこか変わっているのだろうか。
 声優さんが違うだけで、物語はほとんど変わっていないのでは無かろうか──と思えるくらい出来がよい。さすが藤子F不二雄の原作。

 立派なSFなのである。
 しかもドラえもんの物語にしてはエラくハードな物語である。外宇宙からの機械生命体の侵略軍団を自分たちだけで撃退してしまうと云う、ジュブナイルSFの鑑のような筋立てです。
 劇場版長編なのでドラえもんのアイテムも様々なものが次々に登場しますが、御都合主義的なものはなく、ちゃんとドラマの小道具として役立っている。

 独自の進化を遂げた機械生命体の星〈メカトピア〉──と聞くと、思わずJ.P.ホーガンの『造物主の掟』なんて思い浮かべてしまうのがSF者の性だ(爆)。
 ロボットだけの世界が、人間と同じような愚かしい歴史を辿りながら文明を築いてきたというあたりに、さりげなく藤子F不二雄のSF性を感じます。そう云えばここに登場する〈メカトピア〉のロボットたちは皆、感情表現が豊かで没個性なメカという感じがない。人類と同様の知性体の一種族に過ぎない。

 巨大ロボットで大戦闘やらかす為に用意された〈鏡面世界〉という設定が巧い。これなら幾ら壊しても文句は来ないか。
 『仮面ライダー龍騎』とか、雨宮慶汰の『ゼイラム』とかにも通じる設定ですな。実写版の特撮番組では便利な設定です(笑)。
 〈お座敷釣堀〉と〈入り込みミラー〉との合わせ技ですが、〈お座敷釣堀〉はなかなか重宝なアイテムだなあ。確か昨年の『のび太の人魚大海戦』でも使われていたし。
 演出が丁寧で、ちゃんと左右反転した背景であることに触れている。
 まぁ、鏡面世界でバーベキュー・パーティする場面では、「こっちの世界ではアミノ酸も光学異性体ではないのか?」と突っ込みたい誘惑に駆られましたが、それは野暮というものでしょう。

 ひょんなことから巨大ロボット──命名〈ザンダクロス〉──の部品を拾って、組み立てることになったワケですが、思考制御でのび太にも操縦できるというのがいい。当然、しずかちゃんが操縦するときには女の子らしい動き方になる。
 うちのムスメ達は〈ザンダクロス〉がバレエを踊る場面で大笑いしていた。

 私は次の場面でしずかちゃんが知らずにビーム砲のトリガーを引いてしまい、鏡面世界の中で高層ビルを一撃で粉砕する場面に唸りました。何と云うか、高層ビルが倒壊するときの爆風と、巻き上がる粉塵の作画がリアル。さすが911同時多発テロ以降のアニメとして手抜かり無しと云う感じ。別に『ドラえもん』でここまで描写しなくても……。

 物語の中に、『ドラえもん』としての基本設定が無理なく組み込まれているのが巧いと思いました。毎度お馴染みの「スネ夫の自慢話」に始まり、「ジャイアンの音痴」とか「しずかちゃん宅の浴室」まで、ちゃんと物語の展開に合わせて登場させている。
 しかし余所のお宅の風呂場に〈どこでもドア〉を使って入ってくるのは、イカんのではないか。ギャグな場面ではありますが。

 そして〈メカトピア〉の先兵として送り込まれるアンドロイド美少女のリルルがいいですね。次第にのび太達に情が移っていく過程がきちんと描かれている。
 それにしても、気になるのはリルルの描き方である。
 うちのムスメらは全然、気にするような年齢ではないが、アンドロイドとは云え、美少女の全裸を劇中で披露してよろしいのですかね。しずかちゃんの入浴シーンどころではないと思うのですが。
 勿論『ドラえもん』だし、そんな取り立ててセクシーな演出ではない。全裸と云っても作画としては大人しいものですが……。
 負傷したリルルをしずかちゃんが介抱する場面で服を脱がせる。そりゃ脱がせないと手当てできんわな。
 でも着替える際には美少女のお尻だって見えちゃうのですよ。
 86年版の『のび太と鉄人兵団』でもこんな描写があったのでしょうか。
 なんか最近の東京都青少年健全育成条例と云うか、非実在青少年問題に、作り手がさりげなく抗議しているような気がしました。

 それからまぁ、色々ありまして、遂に〈鉄人兵団〉の本体が到着し、鏡面世界でドラえもん達と大激戦を繰り広げるわけですが……。
 〈メカトピア〉の愚かしい歴史は、どこで間違ってしまったのか。神様に文句を云いたいというリルルに、しずかちゃんが提案する。

 「それよ。神様に文句を云いに行きましょう」

 あっさりと凄いこと云うなあ。
 ドラえもん達が戦っている間に、三万年前の〈メカトピア〉の始祖ロボットを開発した博士に抗議しに行くというのである。男の子達が必死で戦っている間に、女の子達だけで事態の打開に動くという展開が面白いです。ホントに『ドラえもん』か、これ?

 やはりタイムマシンを使うSFには泣けるものが多い。これもまた例外ではない。
 〈メカトピア〉の歴史をやり直すのはいいが、当然タイムパラドックスが生じてリルルの存在は消滅してしまう。自分の存在を抹消しても友達を救いたいという願いは、やはり泣ける。

 うちのムスメ(8歳)はもう大泣きである。
 タイムパラドックスの理屈は判っていないと思うが、演出が巧いので小さな子供にも理解できるようだ。さすがに下のムスメ(5歳)はよく判っていない様子だったが。
 もう劇場内ではあちこちからすすり泣きが聞こえてくる。
 小さなお友達だけではなく、大人も泣いていたような……。

 こういう映画を観ると、昨今の邦画によくある「不治の病で余命数年」と云う設定よりも、優れていると思わざるを得ませんなあ。私もこっちの方なら泣けるのですが。

 作画の特徴として、キャラクターの輪郭線に強弱が付けられているのが、興味深い。あまり他のアニメでは見ない画だと思いますが、より漫画風な演出なんですかね。手間が掛かると思うのに。

 小ネタですが、鉄人兵団が攻めてくるという話を、大人は誰も信じてくれないというくだりで、のび太が警察や自衛隊に電話を掛けまくるという場面がありまして。どこに掛けても門前払い。しまいにゃ「特命係」にも電話していた(さすがテレ朝の番組だ)。
 右京さんも信じてくれないのか(笑)。
 福山雅治をゲスト声優として起用するなら、水谷豊も出してもらいたかった。


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