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2016年6月18日土曜日

マネーモンスター

(Money Monster)

 全米高視聴率財テク番組「マネーモンスター」の生放送中に銃と爆弾を手にした男が乱入し、その司会者を人質にしてスタジオ内に立て籠もる。番組の株式情報を信じて全財産を失った男が求めるのは、自分を陥れたインターネットによるHFT(超高速取引)の不正の全貌。
 籠城中も生放送は続行され、番組占拠の極限状態の中で暴かれる真実とは何か。

 ジョディ・フォスター監督によるサスペンス映画です。専ら女優としての出演作の方が多いので、監督作品は『リトルマン・テイト』(1991年)、『それでも、愛してる』(2011年)に続く三作目になります(他にはTVドラマでも幾つかあるようですが)。
 前二作では出演もしておられましたが、今回は初めて監督業に徹しておられますね。
 『それでも、愛してる』ではメル・ギブソンと共演でしたので、今回もジョージ・クルーニーと共演しても良かったと思うのですが、二足の草鞋は大変ですかね。もし共演していたら、やっぱりジュリア・ロバーツ演じる番組ディレクター役だったのでしょうか。

 昨年も『ミケランジェロ・プロジェクト』(2014年)や、『トゥモローランド』(2015年)と出演作が相次いで──順番が前後しましたけど──公開されたジョージ・クルーニーですが、今年もまた『ヘイル、シーザー!』(2016年)と合わせて、間をおかずに公開されて嬉しいデス。
 共演となるジュリア・ロバーツも──『8月の家族たち』(2013年)からちょっだけ間が開きましたが──、『シークレット・アイズ』(2015年)に続いて、もう次の作品が公開されるとは早いですね(と云うか同日公開じゃないデスか)。
 本作では番組司会者役がジョージ・クルーニー、ディレクター役がジュリア・ロバーツとなります。そして主役となるもう一人が、番組を占拠する犯人役のジャック・オコンネルです。

 ジャック・オコンネルは、『300 スリーハンドレッド/帝国の進撃』(2014年)にアテナイの兵士役で出演していた他はあまり出演作を存じませぬが、有望な若手英国俳優ですね。
 アンジェリーナ・ジョリー監督の『不屈の男/アンブロークン』(2014年)では、日本軍の捕虜になるパイロット役で主演に抜擢されていたのに、諸般の事情でスルーしてしまいました。と云うか、『不屈の男~』は公開館数が少ない上に、気がついたら上映終了していたよ。残念。

 ジョージ、ジュリア、ジャック以外の出演は、ドミニク・ウェスト、カトリーナ・バルフ、クリストファー・デナムといった皆さん。
 ドミニク・ウェストは、『ジョン・カーター』(2012年)と『パレードへようこそ』(2015年)で存じております。本作では、疑惑の株取引でクローズアップされる大企業の最高経営責任者役。
 カトリーナ・バルフはその企業の広報担当役員の役です。『大脱出』(2013年)や『グランド・イリュージョン』(同年)に出演しているものの、あまり記憶に残っておりませぬ。

 本作は尺が九九分と、昨今のハリウッド映画にしてはやや短めですが、サスペンス映画としては程良い長さと申せましょう。むしろ密度の濃い展開で、ダラダラ引っ張ることなく決着が付くので、ジョディ・フォスターの演出力の高さが伺えます。監督としても腕は確かですねえ。
 緊張状態が続くストーリーの展開も、かなりリアルタイムに近いように感じられました。なんせ生番組の占拠ですし。視聴者の反応がリアルタイムでスタジオにフィードバックされるあたりも、巧くドラマの展開に取り込まれております。

 所得格差や金融破綻をネタにした映画としては、近年では『ドリームホーム/99%を操る男たち』(2014年)や、『マネーショート/華麗なる大逆転』(2015年)あたりが思い浮かぶところですが、これらは住宅のサブプライムローンやらリーマンショックを題材にしていて、本作とは少し視点が異なるでしょうか。
 むしろ「爆弾を使ったTV番組の乗っ取りと事件の生放送」と云う点では、韓国映画の『テロ、ライブ』(2013年)に似ているかも(ニュースキャスターも人質になりますし)。まぁ、『テロ、ライブ』は金融とは無関係ですし、謎解きよりも爆弾テロでビルが倒壊するアクションの方が凄かったのですが、本作はミステリ色の方が強いです。

 冒頭、ジョージのモノローグで事件の経緯が語られる趣向です。「少し複雑な話だからな」と前置きしながら、現代の金融市場の説明が入ります。
 今や、カネは光子となってネットワークの中を飛び回っているのだ。そのスピードは、もはや人間が追いつけるものではない。
 ある銘柄の株が突如として下落した。金融取引に係るアルゴリズムのバグによるものだが、その原因は不明のまま。複雑怪奇な取引の詳細は人に理解出来るものでは無いのだ。
 ──などと軽く流してしまうジョージですが、その取引で損をした人間にとっては、そんな「バグ」の一言で片付けられるものでは無かったのだった。

 序盤から、番組オンエア前のスタジオの活気を呈した──かなりゴタゴタした──状況がテンポ良く説明されていきます。TV局を描いた映画では定番のシチュエーションですね。
 そして番組のテーマ曲として流れるラップに乗せて、ジョージ・クルーニーがノリノリで披露するダンスが楽しいです。『ヘイル、シーザー!』のときよりも更に軽薄さに磨きが掛かった演技です。楽しそうだな、ジョージ。
 このラップは本作の主題歌にもなっておりまして、エンドクレジット時にフルコーラスで聴くことが出来ます。「金は正直/俺が好き♪」
 また、モノクロ映像の往年のモンスター映画の場面が番組の中で頻繁に引用されたりしております。この演出が番組名でもある「マネーモンスター」の由来ですね。

 のっけからテンション高く、軽薄トークで調子の良いことばかり並べ立てるジョージの姿に笑ってしまいますが、元からそういう性格ではないらしい。人質になってからは、一転してシリアスな性格を覗かせる落差の演技も巧いです。
 また、ジュリア・ロバーツを始め、スタジオ内のスタッフも事件に直面してパニックに陥ることなく、冷静に放送を継続しております。強制されて放送を継続しているわけですが、すぐに視聴率のソロバンを弾いたりするあたりがしたたかです。
 カメラマンに至っては、もはやヤケクソで実況につき合っております。途中で逃げ出すことも出来たのに、諦観してカメラを担いでジョージ達につき合う姿勢に職業病のようなものも感じますね。

 さて、番組開始早々に銃を持って乱入したジャック・オコンネルは、ジョージ・クルーニーに爆弾付ベストを着せて、放送を継続するよう要求します。
 そしてジョージの甘言に乗って指定された銘柄の株取引に全財産を注ぎ込み、一晩で六万ドルを失ったのだと糾弾する。親から相続した遺産だったのに。
 「あんた、銀行預金よりも安全だと云ったじゃないか!」
 スタジオ内には番組の録画テープも保管されており、まさにその場面を再生されて、言い逃れは出来ない。普段から調子の良いことばかり並べ立てていたツケが回ってきたのだと云えなくも無いです。

 しかし、そんな立て板に水の調子でペラペラ喋る軽薄なトークに乗せられて全財産注ぎ込むなんて、おかしいのではないか。そもそもそんな財テク番組が高視聴率を維持し続けていられるという基本的な設定に疑問を感じたりするのですが、そこにツッ込むと本作が成立しなくなりますか。
 何となくバブル最盛期の日本にこんな番組があったのだと云われると納得してしまいそうですが、現代を舞台にした──つまり、リーマンショック後の──アメリカでもリアルな設定なのですかね。国民性もあるから一概には否定できんか。

 今の日本じゃ、こんな番組はあり得ないでしょうが、アメリカではあり得るのか。
 個人的に「投資はギャンブルである」と思いますので、「博打に全財産ツッ込むなんて」とジャック・オコンネルを小一時間ほど説教してみたくもあります。
 まぁ、普段から赤貧生活に甘んじていた男に、思いもよらず親が遺した遺産が舞い込み、のぼせ上がってしまったところに、タイミング良くジョージのトークが飛び込んでしまったのだと好意的に解釈しましょう。これはある種の事故か。

 予期せず舞い込んだ遺産だったのだから、最初から無かったものと思えば諦めもつこうというものでしょうが、ジャック・オコンネルの思考回路はそうではなかった。一度見てしまった夢は、もう取消不可らしい。
 結果として、誰かに責任を取ってもらわねば気が済まないと考えるワケですが、一応は常識も働いているらしく、事件を起こしたからには後戻りできないことも承知しているようです。全ては覚悟の上か。

 だからジョージの「損した分は弁償しよう」と云う申し出にも飛びつかない。それに、損をしたのは自分だけでは無いはずだ。
 意味不明な「HFTアルゴリズムのバグ」とやらで暴落した株価によって失われた総額は八億ドルである。何故、誰もこの不正を訴えようとしないのか。皆、騙されているのだ。
 もはや損した額を取り戻せるとは思っておらず、不正の存在さえ暴ければそれでいいと考えているようです。人間、死ぬ気になれば何でも出来るものだなあ。

 そんなこんなでスタジオ内でバタバタしているうちに、放送局は警官隊に包囲され、狙撃手が配置についたりして、次第に状況が悪化していきます。
 ジャックの身元も特定され、同棲している恋人が説得のために引っ張り出されて来たりもしましたが、ここで恋人に散々罵倒されて、警察の目論見が水の泡になるのが笑えました。警察も慌てて中断させたりせずに、いっそのこと最後まで気の済むまで恋人に罵詈雑言を吐かせてあげた方が、犯人を意気消沈させて事件が早々に解決したのでは無いかとも思えます。
 あまりに手ひどく罵倒されたので、逆にジョージが気を遣って慰めたりします。まぁ、絶望のあまり爆弾のスイッチを入れられては溜まりませんからね。慰めるのも命がけです。

 一方、公共の電波で言い掛かりを付けられては企業のイメージに傷が付くと、企業側の広報担当役員であるカトリーナ・バルフもまた動き出します。アルゴリズムのバグの真相が知りたいなら、設計者に訊けばいいじゃない。
 劇中では、株の高速取引を行うアルゴリズムを構築したプログラマのことを「金融工学者(クォンツ)」と呼んでいました。「ファイナンシャル・エンジニア」ではないのか。
 と云うか、クォンツってナニ?

 「Quantitative(数量的、定量的)から派生した言葉で、高度な数学的手法を用いてさまざまな市場を分析したり、さまざまな金融商品や投資戦略を分析したりすること、または、その分析をする人を指します」 (SMBC日興証券 『初めてでもわかりやすい用語集』より引用)

 なるほどよく判らん。
 ある種のアナリストのようでもありますが、劇中では単に「腕の良いプログラマ」と同義のように扱われておりました(しかもちょっと怪しげな男として描かれている)。
 だが、やっとのことで連絡の付いたクォンツは、自分のアルゴリズムで八億ドルをフイにするなど不可能だと云う。元々、一度にそんな多額の金額を扱うようには出来ていないのだ。必ず人為的な操作が絡んでいる筈である。

 人は自分に理解出来ないシステムの振る舞いを「バグ」の一言で片付けたがる──とは、劇中でクォンツが口にする台詞です(それについては激しく同意したい)。ここから企業の最高経営責任者の不審な行動に焦点が移っていきます。
 株価暴落の日を境に四日間も行方を眩ませていたのは何故か。どこで何をしていたのか。
 劇中では、カトリーナ・バルフが企業側の良心であるように描かれていて、スタジオ内のジュリア・ロバーツと連絡を取り合い、最高経営責任者ドミニク・ウェストの行動を探っていきます。
 その際に役に立つのが、かつての番組製作で知り合った腕利きハッカーの存在。
 劇中で描かれるハッカーが腕利きすぎるのがちょっと御都合主義であるように思われました。もう、ウィザードどころかテンサイ級かヤバイ級のハッカーですよ。
 ヤバイ級ハッカーのワザマエの前には隠し事など出来ないとはいえ、あまりにも短時間に色々と明らかになっていきます。

 そしてドミニク・ウェストが公会堂で記者会見し、潔白を主張するなら我々も行こうじゃないかと、ジョージ・クルーニーとジャック・オコンネルがスタジオを出て行きます。カメラもヤケクソでついて行く。
 この時点で人質の筈のジョージが主導しているのが笑えます。弱気になる犯人を叱咤激励しながら、協力してあげています。
 「不正を暴きたい」と云うか、「ドミニクの云うことを真に受けて、番組中で嘘をついてしまった」ことに一矢報いなければ気が済まないようです。軽薄なトークであったとしても、発言には責任を取りたいと考える当たりに、ジョージの放送に携わる業界人としての矜恃を感じました。

 そして警官隊を引き連れ、人質の振りもしながら公会堂に向かって歩いて行く二人。
 NYの地理に疎いので、放送局の建物と、ウォール街や公会堂──フェデラル・ホール──との位置関係がよく判りませんでした。Googleマップで探すと、フェデラル・ホールはウォール街のすぐ近くにあるのが判ります(ニューヨーク証券取引所もすぐ近くにある)。
 このあたりは判る人が観ればすぐに聖地巡礼できるのでしようか。

 生中継でジョージ・クルーニーがドミニク・ウェストの不正を暴くところが痛快な見せ場になっております。ジュリア・ロバーツのサポートが阿吽の呼吸で入るあたりが見事でした。
 若干、ビターな結末でもありますし、開き直ったドミニクが「手早く儲けてナニが悪い。お前らだって儲けているうちは文句を言わないくせに、損をした途端に騒ぎ立てやがって!」と叫ぶ捨て台詞に風刺的なものも感じます。やはり投資はギャンブルですねえ。
 一件落着後、ジョージとジュリアが並んで腰掛け、さて来週の番組はどうしようかと思い悩むところでエンドです。仕事上の長い付き合いで友人同士という設定が、実際のジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツの関係に重なって見えるのが巧い配役でした。




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