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2013年7月11日木曜日

ワイルド・スピード EURO MISSION

(Fast & Furious 6)

 ヴィン・ディーゼルとポール・ウォーカーの看板シリーズとなりましたカーアクション映画の第六作目です。当初はこんなに続くとは思えませんでねえ。見事な化けっぷりです。
 一般的に、第一作目は面白かったのに、続編になると失速するのがシリーズ化した作品の常でありますが、中には続編の方が面白いという作品もあります。更に稀ですが、続編よりも続々編の方が面白く、尻上がりに調子が良くなると云う希有な例もありますね(例えば〈トイ・ストーリー〉とか、〈ジェイソン・ボーン〉とか)。

 本シリーズの場合は、最初はフツーに失速していく感じで、第三作に至っては主演俳優すら交替してしまう為体でしたが(カメオ出演はしていましたが)、第四作目で主演俳優が復帰して持ち直しました。そして四作目よりも五作目、五作目よりも六作目と調子が良くなっていく。
 実はちゃんと劇場公開時にチェックし始めたのは前作からなのですが、今のところ本作がシリーズ最高傑作であると云っても過言ではありますまい。
 第三作『ワイルド・スピードX3/TOKYO DRIFT』(2006年)から本作まで、四作品続けての監督であるジャスティン・リンは、シリーズ中興の祖としてファンから讃えられることでありましょう(実は第四作から伏線的にテコ入れが始まっていたらしい)。

 それにしても、ドウェイン・ジョンソンが参入した時点で、本作と『G.I.ジョー』の区別が難しくなりましたが、やはりディーゼル兄貴だけでは迫力に欠けますかねえ。
 ディーゼル兄貴は、声は渋いのに、見た目が優男すぎますからな(ハゲマッチョにしては)。強面&筋肉担当要員がやはり必要でしょう。
 この先も本シリーズをハゲマッチョの祭典にするなら、ドウェインは外せませんかねえ。

 とりあえず今回は前作の引きの部分──第四作『ワイルド・スピードMAX』(2009年)で「死んだ筈のミシェル・ロドリゲスが、第五作『ワイルド・スピードMEGA MAX』(2011年)のラストで、実は生きていたと判明する」強引な展開──をネタにして進行します。
 クリス・モーガンのアクロバティックな脚本が冴えております(いや、最初からそのつもりがあったとは信じられないのですけど)。かなり無理矢理ですが、『~MAX』で逮捕された麻薬王ブラガ(ジョン・オーティス)まで再登場させ、「実はこうだったのだ」と説明させるのが笑えます。

 辻褄合わせの脚本ですが、過去五作品の設定全てをフル活用しながら、本作が成り立っているのが見事です。あのスピンオフ的作品だった『~X3/TOKYO DRIFT』まで無駄にしないというところに感心しました。
 『X3/TOKYO DRIFT』は時系列的には本作の直後になるらしく、ちゃんとストーリーが繋がるように伏線を張っています。

 本作はディーゼル兄貴以下、レギュラー陣総登場でありますが、加えて今回の敵役として、ルーク・エヴァンズが参戦しております。
 『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』(2011年)ではイケメンのアラミス役だったり、『推理作家ポー/最期の5日間』(2012年)ではキレ者の警視役でしたが、今回は悪役です。悪党面のルークと云うのも堂に入っております。

 まずは冒頭、アバンタイトルのカーチェイスから気合い入れまくり。スペインはカナリア諸島の風光明媚な海岸沿いの道路を素っ飛ばしていく二台の車。ディーゼル兄貴とポールが何やら勝負しているのかと思いきや、実はポールの嫁さん(ジョーダナ・ブリュースター)が出産するという事情が紹介されます。
 病院に駆けつけ、子供の誕生に間に合った……ところからおもむろにオープニング。過去作品のハイライト場面をコラージュした実にスタイリッシュなタイトルバックです。

 次いで早速に本題。
 まずはモスクワで軍用トラックの輸送隊が襲撃され、人工衛星の部品が強奪される事件が発生。FBI特別捜査官ドウェインが現場まで出張っていきます。既にホシの目星は付いており、ルーク・エヴァンズ率いる国際的な犯罪組織が関わっているという。
 本作は激烈カーアクションが売りのシリーズですので、小難しい背景説明とか、難解な設定はほとんどありません。ストーリーは常にシンプルです。
 それでも上映時間は今回もまた二時間越えの一三〇分。カーチェイスの場面を抜くと尺は半分くらいに縮んでしまいそうです。

 捜査資料の中に組織のメンバーとおぼしき人物が写った写真があり、そこにディーゼル兄貴の死んだ筈の恋人ミシェルの姿があった。
 と云うわけで、前作で袂を分かったドウェイン捜査官が兄貴の元を訪れる。一応、兄貴は犯罪者であり、米国には帰れぬ身の上だから、二度と会うまいと思っていたのに、すぐにまた再会してしまいました。
 しかし写真を見た瞬間に目の色が変わる。かつての仲間達に再び招集をかけ、全員分の恩赦を条件にドウェインに協力することに。

 とは云うものの、死んだ筈の恋人が生きていたのは衝撃的ですが、前作で登場した新たな恋人エルサ・パタキーが物分かり良すぎな気がします。ディーゼル兄貴がドウェイン捜査官に協力してミシェルを連れ戻すとどうなるか、判っているだろうに。
 でも「彼女も家族なのだから」って、どう考えても一件落着後には、三角関係で修羅場が予想されると思うのデスが……。
 参集した仲間達も「家族の問題は皆で解決だ」と、実に固い結束を見せてくれます。

 今回の敵との対立構造にこれが現れております。今回は敵もまたプロフェッショナルなチームを組んでおり、チーム対チームの構図になります。メンバー構成もほぼ同じ。
 プランナー、ドライバー、メカニック等の一芸に秀でた連中の集団同士。ちゃんと筋肉担当まで揃えている(笑)。
 まるで鏡に映したような構成です──アニメによくあるノリですねえ──が、只ひとつだけ相違点がある。それがメンバーに対する考え方の相違。

 ディーゼル兄貴は「チームとは家族である」と云う信念の持ち主。互いに助け合い、信頼関係で結ばれてこそ、チームは最高の能力を発揮すると考えている。
 対するルーク・エヴァンズの方は、もっとドライです。「チームとは一個のマシーンである」と云う。各々が交換可能な部品であり、互いの腕を信頼するのは当然としても、そこには感情が入り込む余地はない。ヘマをした部下はすぐに処分。感情に囚われていては、最高の性能は発揮できない。

 果たしてどちらの信じる〈掟〉が正しいのか。
 激烈なアクションの果てに、どちらのチームが勝利を収めるのか。実に判り易い対立構造です。ストーリー展開もテッパンですから、安心してカーアクションに集中していられます。
 ミシェルについても早々に種明かしされます。
 死んだ筈のミシェルが実は生きており、敵の仲間になっている。ディーゼル兄貴にすら銃を向けて平気な顔。何故なら九死に一生を得た際にミシェルは記憶をすべて失っていたのだあッ。
 記憶喪失ネタかよ! なんてお手軽な脚本なんだ。実に清々しいです。

 ミシェルの記憶を取り戻し、敵の狙いを阻止するのが本作の兄貴達のミッション。
 敵の組織は各国の軍事物資の中から、「ある装置」を組み上げる為に必要な部品を強奪して回っている。あと数回の強奪でそれは完成してしまい、国家の安全保障を脅かす恐るべきシステムが完成してしまう……のですが、そのシステムは本作の本筋ではありません。軽く台詞で説明されるだけで、全体像は遂に一度も登場しません。
 本作の本筋は、あくまでも二組のチームが、部品の強奪と強奪阻止に別れてしのぎを削り合うところが見せ場です。

 本作では主にイギリスとスペインでストーリーが展開します。邦題の「EURO MISSION」は伊達ではないか。てっきり「GIGA MAX」になると思ったのデスが、安直でしたかねえ。
 前半はイギリス、ロンドン市内でのカーチェイスが見せ場です。他にも地下鉄構内での肉弾戦やら、あの手この手で楽しませてくれます。
 そして後半はスペインに場所を移して、更に素晴らしいアクション場面を見せてくれます。

 それがハイウェイ上でカスタムカーと戦車がカーチェイスするというシークエンス。
 何故、戦車とカーチェイスしなければならないのか。そんなことは問うてはなりません。それが絵になってカッコイイなら、ナンデモアリよ。
 この戦車との対決が後半の見せ場ですね。この場面のアクションはホントに素晴らしい。よく実現できたモノだと感心してしまいます。CGではこの迫力は出せませんでしょう。

 更にプロフェッショナル同士の裏のかき合い、一旦は勝ったと思いきや、裏切りやら何やらで二転三転、最終決戦はスペインのNATO軍基地から飛行機で脱走を図るエヴァンズ一味と、それに追いすがるディーゼル一家のカーチェイスがクライマックスです。
 滑走路から離陸しようとしている輸送機に改造されたカスタムカー達が周りを囲んで戦いを挑んでいく……のですが、アクション場面の段取りはお見事デスが、見せ場がもの凄く長い。
 この滑走路に果てはあるのかと思えるくらい長いシークエンスでした。NATO軍の基地って広いんですねえ。
 結局、カスタムカーは戦車にも、飛行機にも勝つのであると云う、クルマがサイコーであることを宣伝する映画のような気がいたしました(多分、本当にそうなのでしょう。カーマニアじゃないからよく判りませぬが)。

 各々キャラクターにそれぞれ見せ場が用意され、きちんと描かれる演出がお見事でした。シリーズの辻褄を合わせる為に若干、キャラクターが整理されてしまうのが残念ですが……。
 そして一件落着後、第三作『~X3/TOKYO DRIFT』に繋がるエピローグが披露され、更にその先、第七作目へと続くブリッジが予告編的に付いてきます。

 本作のゲスト悪役、ルーク・エヴァンズはディーゼル兄貴との激闘の末、敗れ去りました。しかし倒した悪党の背後には、もっと怖い親兄弟が控えているというのは、あまりにもお約束なテッパン展開。
 殺された弟の復讐を誓うお兄さんの登場! あなたはジェイソン・ステイ(げふんげふん)。
 もう『G.I.ジョー』なんだか『エクスペンダブルズ』なんだか判らなくなってきました。ホントにコレは『ワイルド・スピード』なんですか?

 この調子では〈ワイルド・スピード〉はまだまだ続くようですし、実に楽しみでありますが、いつの間にやら本シリーズは、ハゲでマッチョが幅を利かせるアクション映画となりました。
 いっそ、こちらも助っ人にブルース・ウィリスくらいは呼ばないとダメなのでは。

 但し、ジャスティン・リン監督自身は本作で降板。次回作は……ジェームズ・ワンが監督となるそうで、これはどうなんでしょうか。
 ジェームズ・ワンと云えば〈ソウ〉シリーズが有名ですが、〈ワイルド・スピード〉シリーズもソウ化するのでしょうか(面白くなるならそれもよし)。
 当面、ヴィン・ディーゼル、ポール・ウォーカー、ドウェイン・ジョンソンの身は安泰ですね。




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