何故かタイトルから「輝きのタクト」が抜けております。タイトルは「スタードライバー」の方がメインだったのか。もっと判り易く『銀河美少年タウバーン』にしておけばいいのに(ベタですか)。
TVシリーズをブルーレイで買った身としましては見逃すわけにもいかず、アプリボワゼして参りました。
アニメのTVシリーズを劇場版化する際にのパターンと云うと、「完全な続編」か「独立した番外編」か、あるいは「総集編的リメイク」か「まったく別設定のリメイク」か、大体はこの四つの内のどれかと云うことになるのでしょう。近年は総集編と云ってもほぼ新作カットのみの作り直しになりますか。
最近の例で、完全な続編と云うと『図書館戦争/革命のつばさ』(2012年)でしょうか。独立番外編だと『青の祓魔師』(2012年)。総集編リメイクだと、『魔法少女まどか☆マギカ』(2012年)。完全な別設定リメイクだと『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』と云うのがありましたか(いや、ヱヴァ新劇場版がホントにそうなのかどうかは、完結編まで観てみないと断言できませんかね)。
本作は総集編的にリメイクしつつ、その後日譚までも追加で組み込んだという、かなり欲張った企画のもとに製作されております。尺も長めで、二時間半。しかしそれでもかなり苦しい。全二六話をもう一度というのだから当然ですが。
いっそ『まどか☆マギカ』のように前後編にしても良かったのにと思うのデスが、やはり製作に当たっては諸般の事情があるようで。
原作のない完全オリジナルのSFロボット・アニメの劇場版化は難しいのでしょうか。個人的には好きでしたが、それほど話題になった作品かと訊かれると……うーむ。
それにしても全二六話を一本にまとめるのは、至難の業ですね
本作の監督はTVシリーズと同じく五十嵐卓哉、脚本も同じく榎戸洋司ですが、かなりエピソードの取捨選択が行われているのが判ります。結果として、相当に展開を端折ってしまい、込み入った設定も説明なしでスルーしまくりという、荒っぽい芸当になっております。
ストーリーはほぼTVシリーズをなぞる展開ですが、一部は劇場版としてオリジナルな演出になっているところもあったりして、双方を見比べてみるとなかなか興味深い。
と云うか、これまたTVシリーズを知らないまま、この劇場版だけ観に来る方はあまりおられないのではないかと思いマス。もしいたとしたら、きっと疑問に思われる箇所が多々あったのでは……。
もう色々と省略されておりましたが、肝心なところ──青春学園ストーリー──は、残っておりましたね。南海の離島で高校生の男女が青春を謳歌するのである、と云う部分が肝です。
これに比べると、古代銀河文明人〈エントロピープル〉が生み出した人型ロボ〈サイバディ〉がどーしたこーしたと云う部分は枝葉末節か。
秘密結社〈綺羅星十字団〉についてもかなり省略されていて、登場する〈サイバディ〉もかなりダイジェストで流されてしまいましたですねえ。私はアインゴッドが好きだったのに、劇場版では登場することなく消えてしまいました(一番、禍々しくて良かったのにぃ)。
配役はTVシリーズとまったく変わらず──宮野真守、福山潤、早見沙織、石田彰等々──、そのあたりは実に安定しております。
劇中で歌われる四人の巫女の歌も全部、歌ってくれるのが嬉しいデスね。中でもサカナちゃん(戸松遥)の歌う「モノクローム」が一番でしょうか。ミズノちゃんの(日高里菜)の「イノセント・ブルー」も、ケイトさん(小清水亜美)の「秋色のアリア」もいい歌ですが。
本作ではケイトさんの歌が、「早朝の学校で歌う」と云う旧作と異なるシチュエーションでした(こちらの方が雰囲気があって私は好きです)。
ストーリーは割と端折った感があるものの、音楽的には充実しておりますね。設定の説明を省略してでも、歌唱シーンは残したいと云う作り手のコダワリが感じられます。
TVシリーズではOP、ED主題歌を歌った9nine の「Cross Over」もクライマックスで流れるし、エンドクレジットで使用される新曲「colorful」もいい感じの歌です。
劇中でサカナちゃんが語る『イカ刺しサムの冒険』の物語もまた、そのままですが、本筋のストーリーがかなり端折られているので、『イカ刺しサム』の物語がちょっと浮いてしまっているような感じがしたのは残念でした。あの寓話、好きなんですけどねえ。
それを云うなら、学園祭で演劇部が上演する『神話前夜』が、かなりの部分、本筋の種明かしに近く、『イカ刺しサム』ともリンクするような内容だったのに、そこがバッサリ切られてしまったのが、ちょっと納得イカンです。
『神話前夜』の上演をカットしたので、本作では〈エントロピープル〉は登場しません。演劇部の副部長は、ただのマスコット動物になってしまいました。えー。
まぁ、ファンであれば色々と云いたいところの多い劇場版になっておりまして、なかなか『まどか☆マギカ』のようにはいきませんデス。しかも『まどか☆マギカ』はこのあと、新作劇場版も製作されるのに、『スタードライバー』にはソレはないのか。
ぶっちゃけ、TVシリーズを御覧になっていた方は、本作の大部分は寝ていても大丈夫なくらいです。いや、同じ場面でも新作カットの方がクオリティは高いし、美しいですけど。
「イキオイだけで何でも乗り切れると思っている若造」に対してツッコミたいけれど、やっぱりちょっとは「もう自分達が見えなくなったものが見えていて欲しい」と願わずいられない「大人になってしまった作り手」の気持ちが感じられる最終回が好きでした。
でも本作の目玉はやはり、リメイク的な部分ではなく、TVシリーズの後日譚なところでしょう。
劇場に足を運んだファンの大部分は、そちらが目当てではなかったかと思います(私もそうでしたし)。
一件落着後にスガタくん(福山潤)とタクトくん(宮野真守)が見る地球の夜明け。
「凄い空だな」
「ああ、凄いな。でも僕たちはこれから、これとは違うもっと凄い空を、きっと見るさ!」
──と、タクトくんが断言したその後がどうなるのか。ヒジョーに興味のあるところでした。
本作に於いて、そこが語られるのはプロローグとエピローグの部分。TVシリーズのストーリーが、その間に挟まれているという構成になっております。が……。
この「一番、楽しみにしていた部分」が、一番ワケ判らんとは如何なものか。
冒頭から舞台は東京、新宿のオフィス街上空でのド派手な戦闘シーンから始まります。これは引き込まれる。巧い演出だと思いマス。
南十字島を包んでいた〈ゼロ時間〉の檻はすべての封印が解除された、と云うのがTVシリーズのラスト。島に縛り付けられ、外の世界に出ることの敵わなかった巫女達や、スガタくんも自由になった。
……のであるからして、いきなり島の外、新宿から始まる場面には、面食らいはしましたが納得できる流れではあると思いマス。
しかし自衛隊も出動するし、なんか〈サイバディ〉が公然のものとして認知されている。しかも倒された筈のヘーゲントやらツァディクトやらが復活して暴れている。こいつら、再生怪獣か。
そこへマッハ3.5で飛んでくる銀河美少年!
いきなりの、颯爽すぎるタクトくんの登場に、目がテンになりました。どうしてこーなった。
西新宿の描写が実にリアルで、実在する高層ビルが次々に画面に登場します。都庁を筆頭に、三井ビル、住友ビル、野村ビルに、新宿アイランドタワー、モード学園コクーンタワー……いやはや。個人的に、私の職場の近所なので大体、判ってしまうのが笑えます(これからは通勤しながら聖地巡礼できるわ)。
JR新宿駅の大ガードから歌舞伎町方向も映ります。
そして西新宿上空で戦うタウバーン。戦うタクトに指示を出すスガタとワコ。何故かザメクがちっちゃくなってマスコットみたいになっている。
一切の説明を行わない、何だかよく判らない──でも凄い──オープニングではありました。
そして、たっぷり二時間以上、本編を再度、なぞっていきます。知っているストーリーですが、退屈はしないです。春の入学式前夜から始まった物語が、進行していくにつれて四季が移り変わっていくのが然り気なく描写されていますね。南海の離島だから、いまいち季節感薄いデスが。
そして秋になって、クライマックスに突入。決戦終了。地球の夜明け。
再び、新宿に場面が戻ってくる。季節は粉雪の舞う冬……なのはいいが、そのまま新曲「colorful」を流しながら、エンドクレジットに突入していく。ああ、説明する気ナシかよ!
一杯食わされたと云うか、副部長(キツネ)につままれたと云うか、ヒジョーに釈然としないエンディングでありました。明らかに色々考えたのであろう後日譚の設定を、敢えてスルー。
しかしこれでは観に来た観客のフラストレーションは大きくなるだけなのでは。納得イカン。
まさか、新作劇場版とか、TVシリーズの第二期製作とか……あればいいですけどねえ。
「そして人生という名の冒険はつづく」……うーむ。
エンドクレジットに於いて、西新宿六丁目の新宿アイランドタワー前の交差点が、リアルに描かれたので笑ってしまいました。しかし巡礼する方には、ひとつ御注意を。
アイランドタワー前のパブリックアート、ロバート・インディアナ作の〈LOVEのオブジェ〉に登るのは危険ですから、タクトくんの真似はしないようにしましょう。勿論、交通量の多いところですので、交差点の真ん中で記念撮影なんかしてたら事故に遭いますヨ。
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