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2012年8月28日火曜日

コードギアス 亡国のアキト

第一章 翼竜は舞い降りた

 昔はTVシリーズのアニメ番組は最初から2クール(全26話)または4クール(全52話)と決められて製作されていたものですが、いつの間にやら米国式に第一期、第二期(あるいはファーストシーズン、セカンドシーズン)なんぞと呼ばれて分割放送され、半年、一年と間を空けても平気で物語が続いていくようになってしまいました。
 サンライズ製作の『コードギアス/反逆のルルーシュ』もまた然り。『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』と交互に期を分けて、半年ずつ放送されるという形式でした。特に『コードギアス』の後半が『ガンダム00』にサンドイッチにされていました。

 おかげで私の友人達は〈ギアス派〉と〈00派〉に分かれ、互いに相手を指して「あんなのはいいから、こっちの続きを放送せいッ」と主張しあい、今でも飲み会でその話題になると互いに「あの展開は無いわー」とか「破綻した脚本だ」と論じあっております。双方共に同じ台詞を相手にぶつけ合っている。うーむ。
 これはアレか。ホラー映画ファンが『ファントム・オブ・パラダイス』(1974年)と『ロッキー・ホラー・ショー』(1975年)とのファンに分かれて、〈ファントム派〉と〈ロッキー派〉とが互いに「あの映画はキモい!」と罵りあうと云う、あの構図と同じものか。
 私はまぁ、『コードギアス』にそれほど批判的ではありませんですよ。むしろ後半のトンデモ展開は海外ドラマの『24』とか『LOST』を越えたと思っております。むしろ『ガンダム00』の方はですねえ、〈ソレスタルビーイング〉の身の処し方に色々と云いたいこと(げふんげふん)。

 さて、後発であった『機動戦士ガンダム00』の方が先に劇場版化され(2010年)、『コードギアス』の方はどうなっておるのかと思っておりましたら、ようやく新作が製作されましたですね。
 しかしこれは劇場版と云うよりも、スピンオフ作品のOVAではないか。全四話となるシリーズを、劇場でイベント上映するという、『機動戦士ガンダムUC』や『宇宙戦艦ヤマト2199』と同じ形式。最近はこの手の興行が増えましたね。長く楽しみが続くのはよろしいが、一本観ては半年以上待たされるのは、なかなかツラい。
 特に出来の良さげな作品であれば尚のこと。本作は非常に楽しみであると申せましょう。

 本作は『コードギアス/反逆のルルーシュ』の時系列で云うと、第一期と第二期の間に位置しております。ルルーシュが記憶を消されて、ボロ雑巾と一緒に偽りの学園生活を謳歌していた頃ですな(ボロ雑巾が何かということについては本編TVシリーズを御覧下さい)。
 物語は本編では、描かれなかった欧州方面の国家、ユーロピア共和国連合(以下、EU)を舞台にしております。この時期、神聖ブリタニア帝国はあまり欧州方面には関心を払わず、傍流のユーロ・ブリタニアに任せきりにしていたという設定。
 おかげで戦闘は「ユーロ・ブリタニア対EU」という構図になっています。日本がブリタニアに占領された際に、大量に発生した難民がEU国内におり、しかし対等には扱ってもらえず占領下の本国と同じ二級市民扱いを受けていたというのが哀しい。
 どこへいっても日本人は「イレブン」と呼ばれて蔑まれていたわけですね(日本はブリタニアの十一番目の属州となったから)。しかしブリタニア人が日本人をイレブン呼ばわりするのはいいが、EUの国民もブリタニアの呼称を採用するというのは如何なものかと思うのですが。

 したがって激化する戦闘に駆り出されるのは、もっぱらイレブンの若者達。徴兵に応じれば家族に市民権が与えられるとなれば是非も無い。
 過酷な戦闘で、しかも爆薬を背負ったKMFに乗せられ、端から特攻を強いられている。覚悟を決めて次々に散華していく若者達。
 「いいじゃないか。昔からイレブン共はセップクとか、カミカゼとか云ってる死にたがりの民族なんだからな」
 本作でも日本人を蔑む自虐的な台詞が炸裂しております。

 本作の監督は赤根和樹、脚本は赤根和樹と浅川美也の二人。
 TVシリーズの谷口悟朗監督、大河内一楼脚本のコンビではないのでチト不安でありましたが、巧くいっているようです(まだ第一話ですから何とも云い切れませぬが)。
 赤根和樹の監督作品には劇場用長編だと『エスカフローネ』(2000年)、TVシリーズだと『ジーンシャフト』(2001年)とかありましたが、個人的にはイマイチなものが多くて如何なものかと思っておりました。でももう一昔前か。腕を上げたようで。この先もこの調子でお願いします。

 一応、『コードギアス』は平行世界と云うか、歴史改変世界を扱ったSF作品であり、その世界観には「原子力が未発達な為、核兵器が無い」とか、「サクラダイトなる物質を利用した小型の超伝導システムが普及している」とか、「KMF(ナイトメア・フレーム)と呼ばれる人型ロボットがある」等の設定があります。
 本作に於いても「ナポレオン・ボナパルト将軍が断頭台で処刑されずに皇帝に即いていたら」といった台詞も見受けられ、異なる歴史を歩んでいる世界であることが強調されています。
 でも、「カミカゼ」という言葉が台詞に出てくるのはどうなんでしょね。その言葉と自爆攻撃を結びつける為には、この世界にも太平洋戦争(またはそれに類似した戦争)があって、日本人が大勢死んでいる歴史が無いとイカンと思うのデスが……。どうもこの世界の歴史はよく判りませんですねえ。

 キャラクターはTVシリーズから一新されていますが、原案は CLAMP 、キャラクターデザインが木村貴宏であるのは変わりません。
 また本作は作画のクォリティが非常に高く、よく動くし、背景美術も実に美しいです。特に今回は背景にパリの街並みが随所に挿入され、どこかで観たような景観とか──『ミッドナイト・イン・パリ』(2011年)を思い起こします──、高所からのパリ市街の俯瞰が印象的でした。
 一方、劇中の音楽の方は、中川幸太郎と黒石ひとみから、橋本一子に変わっております。中川幸太郎のラテン調なジャズ風BGMが好きだったので、ちょっと残念。今回は欧州が舞台で、ちょっと中世メロドラマっぽい展開なので作風に合ってはいますが。
 また主題歌は菅野よう子作曲、坂本真綾の歌う「モアザンワーズ」。こちらもしっとりと柔らかい感じの曲です。坂本真綾は本作の主人公の一人、レイラ・マルカルも演じております。

 坂本真綾のナレーションにより、冒頭でごくあっさりと基本的な設定が紹介されます。日本がブリタニアの植民地〈エリア・イレブン〉となった経緯。そして欧州ではEUとブリタニアとの攻防が繰り返されており、ペテルブルクがブリタニア占領下にあること。ペテルブルグ奪還を目指したEU正規軍は、逆にブリタニア軍に包囲され全滅寸前であること等々。
 このEU正規軍撤退を支援するべく投入されたのが、イレブンばかりの使い捨てな消耗部隊〈wZERO〉。最初から特攻前提の最低な作戦の中で、ただ一機のKMFは獅子奮迅の健闘を見せていた。

 序盤の撤退支援作戦の戦闘描写が実に緻密です。あまりにもスピーディかつダイナミックな描写なので、よく判らない部分もありますが、ナンカ凄いことになっているのだけは判ります。
 本作で初登場となるEUのKMF〈アレクサンダ〉ですが、最初は主役メカのようには見えません。設定では人型だけでなく、四足歩行なインセクト・モードに変型できるので、序盤の描写は実に気色悪い。シャカシャカと地を這いながら敵KMF〈サザーランド〉に取り付いては死なば諸共に自爆していく。
 その中で、ただ一機残って戦い続けるKMF〈アレクサンダ〉の操縦者が、タイトルにもなっている主人公、日向アキト(入野自由)。戦闘中の狂気を孕んだ言動と、平常時の落ち着いた物腰の落差が実に激しい人です。
 TVシリーズを御存知の方なら、アキトくんは「誰かにギアスを掛けられている」のが一目瞭然。しかも描写からすると、掛けられたギアスは〈絶対遵守〉らしい。TVシリーズの主人公ルルーシュのように、主人公がギアスの使い手では無く、ギアスを掛けらた側であると云うのが、意表を突いております。

 本作オリジナルのKMF〈アレクサンダ〉はなかなかカッコよくてよろしいのですが、人型に変型するとどうにも可愛らしいデザインに見えて、ちょっと笑ってしまいました。なんとなく風貌が「ドロッセルお嬢様」を思わせるのですが、気の所為かしら(カポエイラの技は出してくれないのか)。貴方は口を挟まないで。
 「ドロッセルお嬢様」は御存知ですね。一応、ディズニーアニメですし。

 イレブン兵の使い捨てに異を唱えるレイラと、唯一の生還者アキトを主軸にドラマが進行していくようですが、主役周辺キャラの配役もなかなか豪華でした。中でもレイラの副官クラウス(藤原啓治)の飄々とした演技がイイ感じです。それから上官となるスマイラス将軍(石塚運昇)も落ち着いた演技が安定しております。
 他にも甲斐田裕子、森久保祥太郎と、私でも判る声優さんが多くて嬉しい。チョイ役で子安武人もいましたが、今後の活躍の場はあるんですかね。
 軍関係以外のキャラでは、パリの暗黒街で暗躍する亡命日本人二世のグループがいて──演じているのが日野聡、松岡禎丞、日笠陽子──、これが将軍誘拐を企んだことから、逆に〈wZERO〉部隊に徴兵されてしまう。
 ますます部隊構成が寄せ集めのヤクザ者ばかりになりそうだが、大丈夫なのか。

 その頃、ユーロ・ブリタニア軍では、シン・ヒュウガ・シャイング(松風雅也)なる騎士が、ペテルブルグ防衛の任に当たる〈聖ミカエル騎士団〉の実権を握り、何やら動き始めていた。
 「ヒュウガ」というミドルネームがあからさまに主人公アキトとカブっているのですが、赤の他人と云うことはありますまい。しかもシンは〈絶対遵守〉ギアスの能力者であることが、ラストで明かされる。

 第二話以降、本格的に敵味方のキャラが相見え、ドラマが動き出すようで期待しております。
 本編終了後、ちゃんと第二話の予告編も流してくれます。次回はTVシリーズのキャラの中から、枢木スザクくんとCCも絡んできてくれるようです。ファンサービスも怠りないようで。
 しかし私はやはりシャルル皇帝にちょっとで良いから出番が欲しいです。いやもう、一言だけでいいんです。
 若本規夫の「ぅおぉぉぉーる・はいる・ぶりたぁぁぁーにゃあ」がもう一度、聴きたいのですが。出番ないんですかね。




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