でも確かに、劇中では色々な背景設定がいわくありげなものとして登場しており、本筋とはあまり関係なさそうなものも幾つか見受けられましたね。結構、設定が込み入っているなあと思いましたが、ゲームが原作であると知って納得しました。
またそれ故に、限りなくドコカデミタ感の漂うファンタジー世界が描かれております。
人間、ドワーフ、エルフ、オークといった種族が登場する剣と魔法の世界。やはりトールキンの『指輪物語』が標準仕様となっているんですかね。映像としても、限りなく『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのようでありますし、同様のファンタジーRPGで云えば『ダンジョンズ&ドラゴンズ(以下、D&D)』ぽいところもあります。
ぶっちゃけ、本作のことを『D&D』の新作映画化作品だと云われたらウカウカと信じてしまったことでしょう。しかし『ウォークラフト』のファンに、「これって『D&D』みたい」などと云うと、違いの判らない野暮な奴だと思われてしまうのでしょうね。
監督のダンカン・ジョーンズは『月に囚われた男』(2009年)と『ミッション : 8ミニッツ』(2011年)でSF者には忘れ難い監督です。本作が長編三作目になるようで、どんどん大作を任されるようになっていきますね。
デヴィッド・ボウイの息子であることは、もはや関係ないか。でも本作の製作中にデヴィッド・ボウイが亡くなった(2016年1月10日逝去)のはショックだったことでしょう。いつかダンカン・ジョーンズ監督作品に親父がカメオ出演してくれないものかと思っていましたが、叶わぬ夢ですねえ。残念。
CG特撮全開の映画ですので、登場人物は人間以外はほぼCGキャラです。壮大な背景もかなりの部分がCG合成であろうと察せられますが、もうセットと合成の違いなど判りませんですね。モーションキャプチャも多用されていて、人物の動きもどこまでが実写で、どこからがCGなのか判別つきません。
本作は半ばCGアニメ映画のようです。
実はアニメ映画に、人間の俳優が合成されているだけのような気すらします。本作の実写配合率はかなり低いのではありますまいか。ケリー・コンラン監督の『スカイキャプテン/ワールド・オブ・トゥモロー』(2004年)くらいの頃は、CGが多用されていることが宣伝材料にもなりましたが、イマドキは当たり前すぎて特筆するほどのこともないのか。
その数少ない(多分)実写部分を担う出演陣は、トラヴィス・フィメル、ポーラ・パットン、ベン・フォスター、ベン・シュネッツァー、ドミニク・クーパーといった皆さんです。
人間側のキャラクターの中ではトラヴィス・フィメルが主役の筈ですが、よく存じませぬデス。
個人的に一番よく知っているのは、ドミニク・クーパーですね。『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年)では、アイアンマンの父親であるハワード・スターク役でしたし、『デビルズ・ダブル/ある影武者の物語』(2011年)の一人二役の熱演や、『ドラキュラZERO』(2014年)のメフメト二世役も忘れ難い。
まぁ、他にもポーラ・パットンは『ミッション : インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)でトム・クルーズの相手役だったとか、ベン・フォスターも『ローン・サバイバー』(2013年)や『ザ・ブリザード』(2016年)に出ているので、知っている方ではありますが……。
さて、本作は人間、ドワーフ、エルフ達の暮らす平和な世界に、別世界からオークの軍団が攻め込んできて、戦争が勃発すると云うのが基本的なストーリーになっております。ファンタジーなのに、ちょっとSFぽいですね。異次元からの侵略だ。
レイモンド・E・フィーストの〈リフトウォー・サーガ〉みたい、と云っても通じる人は少ないか。
実はオークの世界は滅びに瀕しており、種族存続の為に次元を越えるゲートを建造し、移住のために大挙して転移して来ます。
基本設定だけ見ますと、ナニやらオークの方が侵略者で、悪の陣営なのかと思われましたが、どうもそうではないらしい。『ロード・オブ・ザ・リング』では、オークは問答無用な悪の軍団でしたが、このあたりで差別化が図られているように思われます。
実はオークは野蛮ではありますが、勇敢で名誉を重んじ、一族の結束も固く、かなり高潔な人物もいると描かれております。異世界への侵略も生存の為にやむを得ず行っている。
何となくネイティブ・アメリカンをモデルにしているようなイメージです。SF者なら「クリンゴン人ぽい」と云ってしまいそうですね。
中世ヨーロッパに北米大陸からネイティブ・アメリカン達が大挙して現れたらこうもなろうかと云うような世界観に見受けられました。同時に、中近東から難民が押し寄せる現代のヨーロッパに通じるようでもあります。
オークは幾つかの氏族に別れているようで、好戦的な氏族もいる一方で、温厚な氏族もいるようです(温厚と云っても、あくまでもオーク基準ではありますが)。その中でも「フロストウルフ族」の族長が、人間側のトラヴィス・フィメルと対になる形の主役として描かれております。このオークの族長の「中の人」がトビー・ケベル。
『猿の惑星 : 新世紀 』(2014年)では悪役の猿だったり、『ファンタスティック・フォー』(2015年)でも悪役のドクター・ドゥーム役だったりしましたが、今度は高潔な主人公ですよ。でもやっぱりCGキャラの「中の人」ですが。
総じてオークは下あごから牙が伸びてる凶悪な面相ですが、目元にかろうじて演じている俳優の面影が……残っているのかしら(汗)。
ポーラ・パットンもまたオーク側の人物ですが、こちらは「ハーフ・オーク」と呼ばれて異種族との混血であると暗示されています。でも人間とオークの混血ではないような(そもそも住む世界が違うし)。
おかげでオークの中でも華奢で、割と人間に近い姿形をしております。したがってポーラ・パットンはCGキャラではなく、特殊メイクで御本人が演じておられる。下あごからの牙も小振りで、巨大な逆八重歯と云えなくもないレベル(あまり萌えないか)。
原作のゲームをプレイしたことがないので、背景設定についても無知なまま鑑賞しておりますが、ゲームのプレイヤーが本作を観たら、また感慨深いものを感じたりするのでしょうか。
劇中では、場面が変わると舞台となる世界の国名や都市名が字幕で表示されるのですが、アゼロスとか、アイアンフォージとか、ストームウィンドとか云われましてもよく判りませんです。知ってる人なら「おおう、ここがアイアンフォージかぁ」とか思ったりするんですかね。
各都市間の位置関係も距離感も掴めないので、遠いのか近いのかよく判りませんです。劇中では空中に浮かぶ魔術都市ダラランなんてのも登場しますが、このあたりはゲームに詳しくないと判らないですね。
私も『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』なら、地名や都市名を挙げられるだけで大体の距離感は掴める自信があるのですが。
同様に登場人物についても同じ事が云えます。本作の主な登場人物はほぼゲームに登場する人ばかりのようです。
トラヴィス・フィメル演じる騎士ローサーも、トビー・ケベルが演じるフロストウルフ族のデュロタン族長も、ゲーム中の有名キャラクターでしたか(NPCという奴ね)。
これがゲームのイメージ通りなのかそうでないのかよく判りませぬが──特に日本では『ウォークラフト』の知名度は低いようなので──個人的には違和感は感じませんでしたね(最初の刷り込みが本作ですから)。
ドミニク・クーパー演じるレイン王も、かなりそれっぽい。結構、若い王様ですな。
ゲーム感覚的な描写が随所に見受けられ、ドミニク・クーパーの王様が戦況分析する際の地図が六角形を並べたヘックス表示だったりしたのは笑いました。しかもフィギュアの形で軍団の配置が表現されているし。
他にも、戦闘になると魔法使いが敵兵の行動を光のバリアで阻害したり、強力な電光で倒したりしております。イマドキのRPGライクな派手な戦闘シーンですね。
おまけにこの世界の魔法使いは瞬間移動も可能なようで、割と簡単に地面に魔方陣をカリカリと描いてはテレポートしております。便利ですが、ちょっとお手軽感が漂いますかね。
また、この世界ではドワーフの工学技術も発達しているようで、剣と魔法の世界の中に強力な火器が登場します。劇中ではトラヴィス・フィメルがドワーフ製の銃で凶暴なオーク戦士を吹っ飛ばしたりしておりました。
確かに銃くらい使えないと、人間とオークの体格差がありすぎてまともな戦闘にはならないでしょうか。本作のオークは結構、大柄な種族として描かれています。
現代的な演出として、各種族ともに肌の色や人種的な描写は公平を期すように考えられているらしく、人間側の騎士の中には白人と黒人が混在して見受けられるし、エルフの中には東洋的な顔立ちのものもいました。オークの中にも、肌が白っぽいのもいれば、黒っぽいものまで色々と設定されているようです(でもオークの基本は緑色らしい)。
最近のファンタジー映画は色々と配慮しなければならないことがあるので厄介です。あの『ハリー・ポッター』シリーズでも、「ハーマイオニーが黒人である可能性もある」と原作者が肯定していたりして驚きました。
しかし、この『ウォークラフト』はそもそもが「中世ヨーロッパ的」な世界観が基本のような気がするので、やりすぎると雰囲気が損なわれると思うのですが……。
さて、原作ゲームの方ではストーリーには「オーク・ホード対ヒューマン・アライアンス」なる対立構造があるそうな。「ホード “Horde”」とは「大群」なので、複数氏族の連合である屈強なオーク戦士が怒濤の如く押し寄せるイメージであるのは判りますが、人間側に「アライアンス “alliance”」と呼べるほどの「同盟」関係があるかと云われると、ちょっと心許ないです。
本作ではアゼロス王国だけでオークの軍団に対抗しているようにしか見えません。アゼロスの他には国は登場しないし、魔術都市ダラランも中立ぽい(積極的に助けてくれない)。
設定上、「ヒューマン・アライアンス」とは、人間とドワーフとエルフの同盟であるそうな。
実は本作にはドワーフとエルフの出番がほとんどありません。せいぜいがドワーフ製の銃を人間の騎士が装備しているところで、何とか複数種族の同盟らしいところが察せられるくらいです。エルフに至っては、単なるモブ扱いなのが哀しい。
このあたりは背景が壮大すぎて、とても一本の映画だけでは描ききれないと云う事情もあるのでしょう。世界の命運を決するような大戦争を一二〇分で描けるか。
だから、非常にありがちでまた残念なことに、本作はこれ一作きりでは完結いたしません。かなり中途半端な結末であると云わざるを得ないのデス。
基本設定の紹介と、戦争の序盤の戦いが描かれるだけで、「戦いはまだこれからだ」的に終幕してしまう。うーむ。過去、そうやって最初の一作だけで終わってしまうファンタジー映画が幾つも思い当たるだけに、かなり心配です。
原作ゲームの方は次々にシナリオが追加されて、大河ドラマ的に数十年の時間経過が描かれているらしいので、映画の方も三部作くらいにしてもらわないとイカンでしょう。
種族によって善悪に色分けしたりしないので、オークの側にも悪党がいるし、人間側にも裏切り者がいると云う描写なのはいいです。元来、誰も戦争を望んでなどいないのに、一部の者の都合だけで争いが始まってしまうのも、よくある展開でしょう。
が、本作だけではその悪党に天誅喰らわすことは出来ないし、何より黒幕的な存在が謎に包まれたままというのは如何なものか。
劇中では、オーク世界からの難民が何故、こちらの世界に押し寄せてくることになったのかについて、理由があるらしいと匂わせるだけで、はっきりと明らかにはなりません。人間の側から手引きがあったようなことも明かされますが、実行犯が特定されただけで、背後に潜む邪悪な存在については不明のまま。ゲームの方では明かになっているんですかね。
更に、本作ではデュロタン族長には息子が生まれたりしますが、この赤ん坊の行く末がどうなるのかについても描かれません。どうやら、あの子が真の主人公ぽい。
何しろ、生後間もなくに命を狙われ、母親が決死の覚悟で赤ん坊を乗せた籠を川に流す、などと云う聖書のような展開が描かれております。モーセか。
ジョージ・ルーカス監督のファンタジー映画『ウィロー』(1988年)でも同様のシチュエーションが描かれておりましたが、大抵の場合、そんなことをされた赤ん坊は誰かに拾われ、やがて世界の救世主となる運命の子であるとか云われたりするのがパターンですからね。
ひょっとして本作は単なるプロローグで、本筋はこれからなのかしら。
案の定、本作のエンドクレジット後には、赤ん坊を乗せた籠が何者かによって拾い上げられると云うオマケ映像付でした。
ダンカン・ジョーンズ監督の手腕は疑いのないところですし、実写とCGの融合も見事だし、エキサイティングなアクション描写も不足なしなので、是非ともこの続きを見てみたいところなのですが、続編はあり得るのかしら。
音楽のラミン・ジャヴァディのスコアも大作アクション映画に相応しい出来映えですし──個人的には『アイアンマン』(2008年)や、『パシフィック・リム』(2013年)でお馴染み──、「完結していない」と云う一点を除けば、結構、面白い作品であるのに。
本作だけでは、単なるゲームのサワリだけ紹介しているだけだと云われても仕方がないですねえ。
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